上 下
6 / 22
第6章

変則6回戦

しおりを挟む
「ただし、相手をするのはうちの2軍です。6イニングまで。1イニングごとに終わった時点で7点差が付いたらコールドです。」
「・・・・・・・。」
 咲良は沈黙した。習志野まで来て、試合するのが2軍とは・・・・・。しかも6イニングまでとは。1イニング終わるごとに7点差が付いていたら試合終了だという。これで久里の考えはだいたい読める。ミカエルには2軍で充分。とっとと終わらせて追い返そうという腹積りなのだ。
「それで結構ですが・・・・・。1イニング終わるごとに7点差が付いたらコールドというのは、考え直して貰えないですか。」
 咲良の申し出に、性悪な林が口を挟む。
「コールドなしで6イニングもやったら、100点差が付いても、試合を続けなくちゃならないだろうが。馬鹿げてる。」
「・・・・・・・。誤解しないで下さい。こちらが7点差を付けられたらコールドで結構です。ただし、そちらが7点差以上で負けている場合は、試合を最後まで付き合って貰いたいです。」
「はっ、馬鹿じゃねえの。」
「林、口を慎め。」
 久里は口の悪い林を叱ると、まじまじと咲良の顔を見た。
「良いんじゃないですか。それで。」
 久里の隣の男が笑みを浮かべて言った。咲良の顔は真剣だった。放言を吐いている様には見えない。それなりに自信があるという事なのだろう。久里は面白いと思った。
「良いでしょう。では、その条件で。」
「有難う御座います。」
「小川、ミカエルの皆さんをグラウンドに案内してくれ。」
「どうぞ、こちらへ。」
 小川と呼ばれた男は、咲良たちを先導してグラウンドに向かった。

「良いんですか。あんな奴らと試合だなんて・・・。」
 林が久里に問う。
「手違いとはいえ、もう、ここまで来てしまったんだ。お前みたいに頭ごなしに帰れと言うのは非礼だ。力の差を見せてやれば、納得するさ。」
「・・・・・。久里さんも、結構残酷ですね。」
「何故だ。」
「うちと互角にやりあえると思っているのに、2軍にボロ負けしたら、野球辞めてしまいますよ。」
「その時は、相手がそこまでの器だったという事だ。」
「はははは。そうですね。」

 ミカエル一行は小川に案内され、グラウンドに向かう。
「なんですか!なんで2軍と試合なんですか?皆に相談も無く、勝手に決めて!」
 愛菜は勝手に2軍との試合を決めた咲良を詰った。
「ゴメン、皆。勝手に決めて。でも、習志野の2軍は普通の高校の1軍より強いよ。やる意味あると思うの。」
「俺も同じ考えだ。気にしなくて良い。」
 咲良は手塚の賛同を得られてホッとした。
「よく試合に漕ぎつけたよ。僕たちには実績が無い。追い返されても文句は言えなかったんだから。」
 不破も咲良の判断を褒めた。
「まあ、うちの力からすれば、習志野の2軍でも手に余る。妥当な相手だ。」
 黒田はいつも通り、冷静に戦力を比較した。
「いや、ここへは千葉県のレベルを図るつもりで来た。なんとしても1軍と試合をしなければ意味が無い。」
 一同、手塚の言葉にビックリした。
「でも、1軍は試合してくれないって・・・・・。」
「曳釣り出すんです。」
 手塚は石井会長にピシャリと言う。」
「曳釣り出すって?」
「向こうはミカエルと試合をする価値が無いと思っています。ですから、向こうの2軍に出来る限りの点差を付けて、圧倒するんです。こちらの価値を認めさせれば、向こうは試合をしても良いなと思う筈です。その為に、宮脇マネージャーがこちらが大差で圧倒してもコールドで終わりにならない様に手を打ってくれたんです。」
「成程、大差をつけて1軍を曳釣り出して、6イニング目一杯、試合をするという事だな。」
 蛭田は抜け目なく立ち回った咲良の知略に気付き、感心した。
「皆、守備は最少失点で凌ぎ、攻撃は1点でも多く、目標は3イニング終了までに7点差を付ける事!」
「おう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野球の王子様

ちんぽまんこのお年頃
青春
野球部の熱血マネージャーが憧れの王子との再会を果たし、彼を甲子園に連れて行くため、獅子奮迅。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

男装部?!

猫又うさぎ
青春
男装女子に抱かれたいっ! そんな気持ちを持った ただの女好き高校生のお話です。 〇登場人物 随時更新。 親松 駿(おやまつ しゅん) 3年 堀田 優希(ほった ゆうき) 3年 松浦 隼人(まつうら はやと) 3年 浦野 結華(うらの ゆいか) 3年 櫻井 穂乃果(さくらい ほのか) 3年 本田 佳那(ほんだ かな) 2年 熊谷 澪(くまがや れい) 3年 𝐧𝐞𝐰 委員会メンバー 委員長 松浦 隼人(まつうら はやと)3年 副委員長 池原 亮太(いけはら ゆうた)3年 書記   本田 佳那(ほんだ かな)2年 頑張ってます。頑張って更新するのでお待ちくださいっ!

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗
青春
 有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。  高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。  そんな女子と純は、許嫁だった……!?

処理中です...