出会う美女に「必ず殺す」と言われてますーやまの逢魔街綺譚ー

ふみんのゆめ

文字の大きさ
140 / 165
第3部

第5章:冥界の王ー006ー

しおりを挟む
 確かにガトリング銃は連射された。
 けれども銃口は標的ではない、明後日の方向へ向いている。
 撃つ寸前に黛莉まゆりは刃に身体を貫かれ仰け反ってしまったからだ。
 後ろ向きで倒れた床から赤い染みが広がっていく。

 黛莉! と叫ぶ夬斗かいとは考えなしだ。
 能力糸を放つ。
 蜘蛛の糸状に広がり包もうとするが、閻魔エンマの幾本にも枝分かれする刃に斬り裂かれていく。
 細片となった能力糸が舞い落ちるなか、短剣同士が交錯した。
 瞬速の能力で一気に迫ったマテオだが、寸前でまたもや閻魔に防がれた。

 けれども隙は生まれた。

 社長! と呼ぶマテオに、おう! と反応した夬斗がまだ残しておいた糸玉を握る左腕を振る。
 束になっては錐状へ変化した能力糸が直線で伸びていく。
 狙われている閻魔は残る片手に短剣を発現させた。夬斗の能力糸へ迎撃すべく掲げる。
 なにっ、と閻魔はうめく。
 身体中に走る痺れに、強力な電流が流されたことを悟った。

「武器は特製で、僕は耐電体質となるよう訓練した身。較べてエンマなる者は、まだ人の肉体のそれだろうという見込みは当たっていたようだ」

 マテオは言いながら残る片手に握った短剣で、閻魔が新たに発現した短剣を叩き落とす。
 やったぞ、と思ったのは夬斗だけでなくマテオもだった。

 ざくっと突き刺せば、血が迸る。

 信じられないとする顔になったのは、仕掛けた夬斗とマテオだけではない。
 閻魔も、だった。
 雪南せつな! と叫んでは電流で弱ったはずの身体へ力を漲らせる。電流を流してくる刃を力づくで跳ね除ける。
 押されたマテオは倒れはしなかったものの、勢いよく後方へ飛ばされた。
 短剣を消滅させた閻魔は両手で雪南を抱き止めた。横腹から赤が広がっていれば、聞く者の心を擦り切りそうな声で呼ぶ。

「雪南、雪南、死ぬな、死んでならん。これが、これが怖かった、余は、これがっ」
「大丈夫、大丈夫だから、泣くな、円眞えんま

 腕のなかで、雪南が笑いかける。だが次の瞬間、痛みのうめきを発していた。

「本当に大丈夫なのか、雪南。余は泣いてなどいないことを確認できるか」
「笑わせないでくれ、傷が痛む。まったく閻魔は円眞だな」

 嬉しそうな雪南に少し安堵の様子を見せる閻魔が、マテオへ目を向ける。

「マテオといったな。雪南を病院へ連れていけ」
「おたく、よく言えるよな。社長の妹をやっておきながら」
「黛莉は死んでなどいない」
 えっとなったマテオに夬斗へ、黛莉の下へ駆けつけた藤平ふじひらが報告を挙げた。姉御、無事っす。
 イタタ、と夬斗同様に肩を押さえながら黛莉が上半身を起こした。

「あまりに見事な能力の発現ぶりだからこそ手荒な返しとなってしまったが、黛莉は雪南にとって大事な友人だ。余がそんな者の命を奪うわけがないだろう」
「ムチャ言うな。わかるかって、そんなの」

 夬斗の反駁に、マテオは肩をすくめ、「そっすよね~」と藤平も同意を示していた。
 閻魔は腕のなかへ視線を戻す。雪南、とかける口調は優しい。

「これから、余は行く」
「どこへだ、エンマ」
「三人で行った、あの場所へ。ラグナロクを起こし、余は力を得る。この世を征服する、まともとは言えない存在になる」

 雪南は目にする誰をも切なくさせる表情になった。

「そうか、やっぱり行ってしまうんだな」
「ああ、しかしだ」

 閻魔は少し言い淀んだ後だ。

「やはり雪南の元へ帰ってきたい。余の進化が世界中の標的になるだろう。常に危険と隣り合わせとする存在へなるが、戻ってきていいか?」

 負傷の痛みが酷いはずの雪南が、輝くような笑みを広げた。

「ワタシは前にも言っているはずだ。エンマが危険なら、ワタシは守るぞ」

 ありがとう、と応える閻魔の姿に戦意など昂じない。少なくともマテオは、そうだった。

「いいよ、ラーダじゃない雪南って言うんだっけ。これから病院へ連れてってやる」

 すまない、とくる閻魔に、どこが冥界の王だよと内心でツッコみながらマテオは口にした。

「ただし、病院へ行ったならば、あいつには報告させてもらう。黙っていたら、後でこっちの命が危うくなるからね」

 わかった、と深くうなずいた閻魔だ。

「本当にいいんだな」

 マテオが念押しすればである。

「雪南の身が第一だ。それに例え逢魔街の神との対峙で厄災を撒こうとも、この機会を逃すわけにはいかない。こればかりはどれほどの人死を出そうとも叶えねばならないのだ」

 地獄から遣わされたとする者に相応しい返答だった。
 上空を覆う暗雲も閻魔の覚悟に震えたかのように雨粒を落とし始めた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ダンジョンハンターズ(最強のダンジョンハンターになった俺は、今度は次世代の師匠になります)

rimurugeto
ファンタジー
ダンジョンの出現から百年後。自我を持つ迷宮〈ダンジョン〉が世界に根を張った時代、竹野ザリア、天川リカ、ハン・ジスの三人の十代の若者は、自分たちの力を証明するために、とあるダンジョンの攻略を企てる。 だが計画はあっさりと失敗し、〈ダンジョン・ペナルティ〉が彼らに牙を剥く。 その処分として彼らが組まされることになったのは、かつて「史上最強」と謳われながら、すでに第一線を退いた老人――伝説のカイタンシャ、オマリロ・ニュガワだった。 彼が彼らに告げた命令は、ただ一つ。 〈ルールに従え〉 こうしてオマリロは、三人の子どもたちを自らの庇護下に置く。 だが不運なことに、彼らが生きるこの世界では、〈ダンジョン〉そのものも、それを利用しようとする者たちも、かつてないほど貪欲さを増していた。 過去と向き合い、自らの力を再び振るう覚悟を決めなければ、オマリロに導かれるこの子どもたちは、生き残ることすらできない。 なぜなら、この世界が望んでいるのは、オマリロ・ニュガワの「死」だからだ。 オマリロ・ニュガワは、史上最強のカイタンシャ―― 今度は次世代の師匠になる番だ。 こんにちは! このダンジョン小説は、今メインで投稿しているカクヨムにも掲載しています! もしよければ、そちらでも読んでいただけると嬉しいです。 ありがとうございます! https://kakuyomu.jp/works/822139840634720242

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん
ファンタジー
2024年の年末、世界中に突如ダンジョンが出現した。 大学生・三上ひよりも探索者になることを決意するが、与えられた職業は――世界で一人しかいないユニーク職「Lv.1チンピラ」。 周囲からは笑われ、初期スキルもほとんど役に立たない。 それでも、生き残るためにはダンジョンに挑むしかない。 これは、ネット住民と世界におもちゃにされながらも、真面目に生き抜く青年の物語。 ※基本的にスレッド形式がメインです

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...