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第3部
第5章:冥界の王ー006ー
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確かにガトリング銃は連射された。
けれども銃口は標的ではない、明後日の方向へ向いている。
撃つ寸前に黛莉は刃に身体を貫かれ仰け反ってしまったからだ。
後ろ向きで倒れた床から赤い染みが広がっていく。
黛莉! と叫ぶ夬斗は考えなしだ。
能力糸を放つ。
蜘蛛の糸状に広がり包もうとするが、閻魔の幾本にも枝分かれする刃に斬り裂かれていく。
細片となった能力糸が舞い落ちるなか、短剣同士が交錯した。
瞬速の能力で一気に迫ったマテオだが、寸前でまたもや閻魔に防がれた。
けれども隙は生まれた。
社長! と呼ぶマテオに、おう! と反応した夬斗がまだ残しておいた糸玉を握る左腕を振る。
束になっては錐状へ変化した能力糸が直線で伸びていく。
狙われている閻魔は残る片手に短剣を発現させた。夬斗の能力糸へ迎撃すべく掲げる。
なにっ、と閻魔はうめく。
身体中に走る痺れに、強力な電流が流されたことを悟った。
「武器は特製で、僕は耐電体質となるよう訓練した身。較べてエンマなる者は、まだ人の肉体のそれだろうという見込みは当たっていたようだ」
マテオは言いながら残る片手に握った短剣で、閻魔が新たに発現した短剣を叩き落とす。
やったぞ、と思ったのは夬斗だけでなくマテオもだった。
ざくっと突き刺せば、血が迸る。
信じられないとする顔になったのは、仕掛けた夬斗とマテオだけではない。
閻魔も、だった。
雪南! と叫んでは電流で弱ったはずの身体へ力を漲らせる。電流を流してくる刃を力づくで跳ね除ける。
押されたマテオは倒れはしなかったものの、勢いよく後方へ飛ばされた。
短剣を消滅させた閻魔は両手で雪南を抱き止めた。横腹から赤が広がっていれば、聞く者の心を擦り切りそうな声で呼ぶ。
「雪南、雪南、死ぬな、死んでならん。これが、これが怖かった、余は、これがっ」
「大丈夫、大丈夫だから、泣くな、円眞」
腕のなかで、雪南が笑いかける。だが次の瞬間、痛みのうめきを発していた。
「本当に大丈夫なのか、雪南。余は泣いてなどいないことを確認できるか」
「笑わせないでくれ、傷が痛む。まったく閻魔は円眞だな」
嬉しそうな雪南に少し安堵の様子を見せる閻魔が、マテオへ目を向ける。
「マテオといったな。雪南を病院へ連れていけ」
「おたく、よく言えるよな。社長の妹をやっておきながら」
「黛莉は死んでなどいない」
えっとなったマテオに夬斗へ、黛莉の下へ駆けつけた藤平が報告を挙げた。姉御、無事っす。
イタタ、と夬斗同様に肩を押さえながら黛莉が上半身を起こした。
「あまりに見事な能力の発現ぶりだからこそ手荒な返しとなってしまったが、黛莉は雪南にとって大事な友人だ。余がそんな者の命を奪うわけがないだろう」
「ムチャ言うな。わかるかって、そんなの」
夬斗の反駁に、マテオは肩をすくめ、「そっすよね~」と藤平も同意を示していた。
閻魔は腕のなかへ視線を戻す。雪南、とかける口調は優しい。
「これから、余は行く」
「どこへだ、エンマ」
「三人で行った、あの場所へ。ラグナロクを起こし、余は力を得る。この世を征服する、まともとは言えない存在になる」
雪南は目にする誰をも切なくさせる表情になった。
「そうか、やっぱり行ってしまうんだな」
「ああ、しかしだ」
閻魔は少し言い淀んだ後だ。
「やはり雪南の元へ帰ってきたい。余の進化が世界中の標的になるだろう。常に危険と隣り合わせとする存在へなるが、戻ってきていいか?」
負傷の痛みが酷いはずの雪南が、輝くような笑みを広げた。
「ワタシは前にも言っているはずだ。エンマが危険なら、ワタシは守るぞ」
ありがとう、と応える閻魔の姿に戦意など昂じない。少なくともマテオは、そうだった。
「いいよ、ラーダじゃない雪南って言うんだっけ。これから病院へ連れてってやる」
すまない、とくる閻魔に、どこが冥界の王だよと内心でツッコみながらマテオは口にした。
「ただし、病院へ行ったならば、あいつには報告させてもらう。黙っていたら、後でこっちの命が危うくなるからね」
わかった、と深くうなずいた閻魔だ。
「本当にいいんだな」
マテオが念押しすればである。
「雪南の身が第一だ。それに例え逢魔街の神との対峙で厄災を撒こうとも、この機会を逃すわけにはいかない。こればかりはどれほどの人死を出そうとも叶えねばならないのだ」
地獄から遣わされたとする者に相応しい返答だった。
上空を覆う暗雲も閻魔の覚悟に震えたかのように雨粒を落とし始めた。
けれども銃口は標的ではない、明後日の方向へ向いている。
撃つ寸前に黛莉は刃に身体を貫かれ仰け反ってしまったからだ。
後ろ向きで倒れた床から赤い染みが広がっていく。
黛莉! と叫ぶ夬斗は考えなしだ。
能力糸を放つ。
蜘蛛の糸状に広がり包もうとするが、閻魔の幾本にも枝分かれする刃に斬り裂かれていく。
細片となった能力糸が舞い落ちるなか、短剣同士が交錯した。
瞬速の能力で一気に迫ったマテオだが、寸前でまたもや閻魔に防がれた。
けれども隙は生まれた。
社長! と呼ぶマテオに、おう! と反応した夬斗がまだ残しておいた糸玉を握る左腕を振る。
束になっては錐状へ変化した能力糸が直線で伸びていく。
狙われている閻魔は残る片手に短剣を発現させた。夬斗の能力糸へ迎撃すべく掲げる。
なにっ、と閻魔はうめく。
身体中に走る痺れに、強力な電流が流されたことを悟った。
「武器は特製で、僕は耐電体質となるよう訓練した身。較べてエンマなる者は、まだ人の肉体のそれだろうという見込みは当たっていたようだ」
マテオは言いながら残る片手に握った短剣で、閻魔が新たに発現した短剣を叩き落とす。
やったぞ、と思ったのは夬斗だけでなくマテオもだった。
ざくっと突き刺せば、血が迸る。
信じられないとする顔になったのは、仕掛けた夬斗とマテオだけではない。
閻魔も、だった。
雪南! と叫んでは電流で弱ったはずの身体へ力を漲らせる。電流を流してくる刃を力づくで跳ね除ける。
押されたマテオは倒れはしなかったものの、勢いよく後方へ飛ばされた。
短剣を消滅させた閻魔は両手で雪南を抱き止めた。横腹から赤が広がっていれば、聞く者の心を擦り切りそうな声で呼ぶ。
「雪南、雪南、死ぬな、死んでならん。これが、これが怖かった、余は、これがっ」
「大丈夫、大丈夫だから、泣くな、円眞」
腕のなかで、雪南が笑いかける。だが次の瞬間、痛みのうめきを発していた。
「本当に大丈夫なのか、雪南。余は泣いてなどいないことを確認できるか」
「笑わせないでくれ、傷が痛む。まったく閻魔は円眞だな」
嬉しそうな雪南に少し安堵の様子を見せる閻魔が、マテオへ目を向ける。
「マテオといったな。雪南を病院へ連れていけ」
「おたく、よく言えるよな。社長の妹をやっておきながら」
「黛莉は死んでなどいない」
えっとなったマテオに夬斗へ、黛莉の下へ駆けつけた藤平が報告を挙げた。姉御、無事っす。
イタタ、と夬斗同様に肩を押さえながら黛莉が上半身を起こした。
「あまりに見事な能力の発現ぶりだからこそ手荒な返しとなってしまったが、黛莉は雪南にとって大事な友人だ。余がそんな者の命を奪うわけがないだろう」
「ムチャ言うな。わかるかって、そんなの」
夬斗の反駁に、マテオは肩をすくめ、「そっすよね~」と藤平も同意を示していた。
閻魔は腕のなかへ視線を戻す。雪南、とかける口調は優しい。
「これから、余は行く」
「どこへだ、エンマ」
「三人で行った、あの場所へ。ラグナロクを起こし、余は力を得る。この世を征服する、まともとは言えない存在になる」
雪南は目にする誰をも切なくさせる表情になった。
「そうか、やっぱり行ってしまうんだな」
「ああ、しかしだ」
閻魔は少し言い淀んだ後だ。
「やはり雪南の元へ帰ってきたい。余の進化が世界中の標的になるだろう。常に危険と隣り合わせとする存在へなるが、戻ってきていいか?」
負傷の痛みが酷いはずの雪南が、輝くような笑みを広げた。
「ワタシは前にも言っているはずだ。エンマが危険なら、ワタシは守るぞ」
ありがとう、と応える閻魔の姿に戦意など昂じない。少なくともマテオは、そうだった。
「いいよ、ラーダじゃない雪南って言うんだっけ。これから病院へ連れてってやる」
すまない、とくる閻魔に、どこが冥界の王だよと内心でツッコみながらマテオは口にした。
「ただし、病院へ行ったならば、あいつには報告させてもらう。黙っていたら、後でこっちの命が危うくなるからね」
わかった、と深くうなずいた閻魔だ。
「本当にいいんだな」
マテオが念押しすればである。
「雪南の身が第一だ。それに例え逢魔街の神との対峙で厄災を撒こうとも、この機会を逃すわけにはいかない。こればかりはどれほどの人死を出そうとも叶えねばならないのだ」
地獄から遣わされたとする者に相応しい返答だった。
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