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第3部
第3章:知人ー004ー
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夕焼け空に銃撃が轟いた。
両手に機関銃を発現させた黛莉はぶっ放す。
塔屋の影に逃れた青年は、おいおいとばかりな表情だ。
「いきなり射つなんて、酷くないかい」
「うっさいわ、人の話しを盗み聞きなんて、サイテー」
聞く耳持たずの黛莉は撃ち方を止めない。
相変わらずだな、黛莉は、と雪南が横で感心している。
激しい銃撃に青年は身を縮めているしかないだけに口を回すようだ。
「待ってくれよ。キミたちの声は美しいと褒めた相手にする仕打ちじゃないぞ、これは」
「いかにもお世辞みえみえじゃない。そういうオトコ、あたし大嫌いなの」
なんか黛莉らしいな、と感想を述べる雪南の頭上に戦斧を持つ白い女性が出現した。能力を発現する姿は、やる気満々である。
青年はそれこそ慌てふためいた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ。さすがに二人がかりは卑怯じゃないか」
「だったら出てこなければいいじゃない。あたしらの前に、のこのこ顔見せて、ただですむわけないでしょ」
「だけど久しぶりの再会なんだから顔を見たくなるさ、黛莉ちゃん」
気安く呼ぶなー、と叫びをかき消す大銃撃音だ。黛莉が能力によって可能とする無限の銃火は弾の数と激しさがいっそう増していく。
一緒に撃たれそうな勢いだから、雪南の代理人体を向かわせられない。
青年は泣きを入れて訴えてきた。
「待ってくれよー。黛莉ちゃんって、昔からの呼び方じゃないか」
「知らないわよ、あんたなんか」
「琉崎、琉崎貴志だよ。子供の頃、ほら、近所に住んでいた。憶えてないかい?」
周囲一帯へ轟く銃撃は一斉に止んだ。
射つ手を止めた黛莉は信じられないといった顔つきだ。
「もしかして、タカシくん?」
「そうそう、憶えてくれていたみたいで嬉しいよ」
塔屋の影から青年が姿を現す。
軽く茶で染めた刈り上げマッシュの髪型がよく似合う、可愛い男子といった風体だ。アイドルをやっていると言われたら信じてしまいそうな雰囲気を漂わせている。
いちおう念を入れてか。両手を掲げる降参のポーズで貴志が歩いてくる。爽やかな笑顔が似合うイケメンぶりを夕陽が浮かび上がらせてくる。
ただし相手は『逢魔街最凶』の呼び名が高い女性だ。
「止まりなさいよ」
懐かしそうに名を呼んだ人物とは同一と思えない黛莉の険しさだ。再び銃口が狙いを定めている。
歩みを停めた貴志が悲しそうだ。
「どうしたんだよ、黛莉ちゃん。俺だよ、貴志だよ。よく遊んだじゃないか」
「ずぅっと、ずっと、昔にね」
「あの頃の黛莉ちゃんは、すぐに泣く子だったよね。でもそこがとてもかわいかった」
「そう、あたしは泣き虫だった。だけど今は違う。タカシくんだって、そうでしょ。だって……」
言葉を置いた黛莉は銃口をさらに突き出してから再び口を開いた。
「逢魔街に住むしかないほどバレた能力は危険なものだったわけじゃない」
貴志から笑みが消えた。これまでからは想像がつかないほど目つきは険しい。
「黛莉ちゃんは知っているのか、俺のがどんな能力なのかを」
「さぁ、内容までは知らない。けれども引っ越しさせられるくらいだもの。どれくらい危険だったか想像くらいつくわよ。だってあたしは自分からだけど、逢魔街に来た理由がそれだから」
「だったら俺たちの仲間にならないか。良かったら、そこの彼女も一緒に」
予想もしなかった勧誘に、「なに!」となる雪南である。
どういうこと? と黛莉は聞き返した。
「言葉通りだよ。俺と一緒に活動して欲しい。人数において大半を占めるというだけで迫害してくる無能力者どもに思い知らせてやらないか」
「タカシくん、なに考えてんの」
「復讐さ。能力を所有しているだけで白眼視され、酷い場合は社会的な抹殺さえされる。それもまだ本人だけならともかく、産んだ母親まで一緒くたにするなんてどういう了見なんだ。どんな子供だろうと必死にかばう優しくて立派な母さんだったんだ」
心からの叫びだとばかりに貴志が訴えてくる。
そうなのか……、と雪南がぽつり洩らしてくる。
だからって復讐は……、と黛莉が言いかけた。
その時、耳をつんざく音と白煙が屋上を包んだ。
突如として起こった爆発であった。
夕焼けに包まれる街の一角で、もうもうと上空へ巻き上げている。
しばらくして霧のごとき爆煙が引いていけば、二つの人影が現れた。
一人は貴志で、もう一人は女性だ。ダークブロンドの長髪にしなやかそうな細身である。
煙りがすっかり治れば、貴志が呼びかけた。
「悪いね。デリラの番はなしだ」
ふふふ、とデリラは笑いつつダークブロンドの髪と同じ色をした瞳を残念そうに閃かせた。
「しかし呆気なかったわね。逢魔街最凶とか言われていたわりには、あんな話しに気を緩めるなんて。所詮は小娘ね」
「あんな話しだなんて、酷いなぁ~。本当にさ、辛かったんだぜ。だけどまぁ、厄介な能力者を油断させて始末できたエピソードになったから元は取れたかな」
そうね、と答えたデリラと貴志は互いに顔を見合わし声を立てて笑った。
笑いが驚愕へ変わるのも、すぐだった。
「元は取れなかったみたいだよ、タカシくん」
下から飛んでくるように、二人の女性がビル屋上の上空へ浮かび上がってきた。抱き合う黛莉と雪南だった。
ばかな、とうめく貴志の前へ、すたりと二人は降りる。
黛莉もだが、特に雪南の怒りが凄まじい。オマエか! と叫べば貴志の首元へ代理人体である白い女性に戦斧を振り降ろさせていた。
両手に機関銃を発現させた黛莉はぶっ放す。
塔屋の影に逃れた青年は、おいおいとばかりな表情だ。
「いきなり射つなんて、酷くないかい」
「うっさいわ、人の話しを盗み聞きなんて、サイテー」
聞く耳持たずの黛莉は撃ち方を止めない。
相変わらずだな、黛莉は、と雪南が横で感心している。
激しい銃撃に青年は身を縮めているしかないだけに口を回すようだ。
「待ってくれよ。キミたちの声は美しいと褒めた相手にする仕打ちじゃないぞ、これは」
「いかにもお世辞みえみえじゃない。そういうオトコ、あたし大嫌いなの」
なんか黛莉らしいな、と感想を述べる雪南の頭上に戦斧を持つ白い女性が出現した。能力を発現する姿は、やる気満々である。
青年はそれこそ慌てふためいた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ。さすがに二人がかりは卑怯じゃないか」
「だったら出てこなければいいじゃない。あたしらの前に、のこのこ顔見せて、ただですむわけないでしょ」
「だけど久しぶりの再会なんだから顔を見たくなるさ、黛莉ちゃん」
気安く呼ぶなー、と叫びをかき消す大銃撃音だ。黛莉が能力によって可能とする無限の銃火は弾の数と激しさがいっそう増していく。
一緒に撃たれそうな勢いだから、雪南の代理人体を向かわせられない。
青年は泣きを入れて訴えてきた。
「待ってくれよー。黛莉ちゃんって、昔からの呼び方じゃないか」
「知らないわよ、あんたなんか」
「琉崎、琉崎貴志だよ。子供の頃、ほら、近所に住んでいた。憶えてないかい?」
周囲一帯へ轟く銃撃は一斉に止んだ。
射つ手を止めた黛莉は信じられないといった顔つきだ。
「もしかして、タカシくん?」
「そうそう、憶えてくれていたみたいで嬉しいよ」
塔屋の影から青年が姿を現す。
軽く茶で染めた刈り上げマッシュの髪型がよく似合う、可愛い男子といった風体だ。アイドルをやっていると言われたら信じてしまいそうな雰囲気を漂わせている。
いちおう念を入れてか。両手を掲げる降参のポーズで貴志が歩いてくる。爽やかな笑顔が似合うイケメンぶりを夕陽が浮かび上がらせてくる。
ただし相手は『逢魔街最凶』の呼び名が高い女性だ。
「止まりなさいよ」
懐かしそうに名を呼んだ人物とは同一と思えない黛莉の険しさだ。再び銃口が狙いを定めている。
歩みを停めた貴志が悲しそうだ。
「どうしたんだよ、黛莉ちゃん。俺だよ、貴志だよ。よく遊んだじゃないか」
「ずぅっと、ずっと、昔にね」
「あの頃の黛莉ちゃんは、すぐに泣く子だったよね。でもそこがとてもかわいかった」
「そう、あたしは泣き虫だった。だけど今は違う。タカシくんだって、そうでしょ。だって……」
言葉を置いた黛莉は銃口をさらに突き出してから再び口を開いた。
「逢魔街に住むしかないほどバレた能力は危険なものだったわけじゃない」
貴志から笑みが消えた。これまでからは想像がつかないほど目つきは険しい。
「黛莉ちゃんは知っているのか、俺のがどんな能力なのかを」
「さぁ、内容までは知らない。けれども引っ越しさせられるくらいだもの。どれくらい危険だったか想像くらいつくわよ。だってあたしは自分からだけど、逢魔街に来た理由がそれだから」
「だったら俺たちの仲間にならないか。良かったら、そこの彼女も一緒に」
予想もしなかった勧誘に、「なに!」となる雪南である。
どういうこと? と黛莉は聞き返した。
「言葉通りだよ。俺と一緒に活動して欲しい。人数において大半を占めるというだけで迫害してくる無能力者どもに思い知らせてやらないか」
「タカシくん、なに考えてんの」
「復讐さ。能力を所有しているだけで白眼視され、酷い場合は社会的な抹殺さえされる。それもまだ本人だけならともかく、産んだ母親まで一緒くたにするなんてどういう了見なんだ。どんな子供だろうと必死にかばう優しくて立派な母さんだったんだ」
心からの叫びだとばかりに貴志が訴えてくる。
そうなのか……、と雪南がぽつり洩らしてくる。
だからって復讐は……、と黛莉が言いかけた。
その時、耳をつんざく音と白煙が屋上を包んだ。
突如として起こった爆発であった。
夕焼けに包まれる街の一角で、もうもうと上空へ巻き上げている。
しばらくして霧のごとき爆煙が引いていけば、二つの人影が現れた。
一人は貴志で、もう一人は女性だ。ダークブロンドの長髪にしなやかそうな細身である。
煙りがすっかり治れば、貴志が呼びかけた。
「悪いね。デリラの番はなしだ」
ふふふ、とデリラは笑いつつダークブロンドの髪と同じ色をした瞳を残念そうに閃かせた。
「しかし呆気なかったわね。逢魔街最凶とか言われていたわりには、あんな話しに気を緩めるなんて。所詮は小娘ね」
「あんな話しだなんて、酷いなぁ~。本当にさ、辛かったんだぜ。だけどまぁ、厄介な能力者を油断させて始末できたエピソードになったから元は取れたかな」
そうね、と答えたデリラと貴志は互いに顔を見合わし声を立てて笑った。
笑いが驚愕へ変わるのも、すぐだった。
「元は取れなかったみたいだよ、タカシくん」
下から飛んでくるように、二人の女性がビル屋上の上空へ浮かび上がってきた。抱き合う黛莉と雪南だった。
ばかな、とうめく貴志の前へ、すたりと二人は降りる。
黛莉もだが、特に雪南の怒りが凄まじい。オマエか! と叫べば貴志の首元へ代理人体である白い女性に戦斧を振り降ろさせていた。
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