出会う美女に「必ず殺す」と言われてますーやまの逢魔街綺譚ー

ふみんのゆめ

文字の大きさ
60 / 165
第1部

第10章:真実の紅ー004ー

しおりを挟む
 右腕に雪南せつなを抱えた円眞えんまだ。瞳は薄ら赤い色を放っている。左手にした剣の刃は短剣ではない長さになっていた。

 怯むことなく黒づくめ装備の者たちが一斉に襲いかかった。

 円眞が左腕を振るう。
 手にした剣の刃がどのような形状であったのか。傍からでは確認する暇もなく群がった黒づくめの者たちは一人残らず吹き飛ばされた。

「どうやら伸縮は長さだけではないかもしれません」

 分析するノウルが、壬生みぶへ目を向ける。見られた相手は畏まって背筋を伸ばす。

黎銕円眞くろがね えんまの能力は解明までに至っておりません。壬生さんのご期待に添うよう我々も努力いたしますが、処理の仕方における判断はこちらに任せていただけませんか」

 お任せします、と壬生は先ほどと打って変わって素直に応じる。

「そういうことだ、わかったな、ラウド、エルズ、パウル」

 へいへい、とラウドが両刃にも関わらずエレファントナイフを肩に載せる。面倒ねー、とエルザは少し気怠そうな返事だ。パウルは無言でうなずいていた。

「よっしゃ、じゃ、いくとするか」

 号令をかけたラウドの両脇に、エルズとパウルが並んで進む。 
 ちらりエルズは背後のノウルと壬生を見てから、肩を並べている仲間にしか聞こない声で言った。

「ノウルも策士ね~、あのいけすかないヤツを完全に掌中へ収めたじゃない。いつもなら真っ先に自分でやるくせに」
「そこが我らのリーダーさまだな。これでヤツらにも恩が売れるじゃねーか」
「あら、勝ちが前提? 自信満々ね」

 答えたラウドへからかうような妖艶な笑みを浮かべたエルザだ。
 筋骨逞しい大柄な男は不敵な笑みで応えた。

「俺らが負けるはずがないだろ。それにもうアイツ、黎銕といったか。ここへ来た時点でノウルの手に落ちてんだからな」

 だからさっさと殺らねーと俺らの楽しみがなくなるぜ、とラウドの付け加えに、エルザどころかパウルまでもうなずいていた。
 円眞によって黒づくめ集団が吹っ飛ばされるなかへ辿り着けば、ラウドが叫んだ。

「おい、おまえら、どけ! 後は俺たちがやる」

 怒声にも似た命令一下に、黒づくめ集団は瞬時に退く。
 黒き襲撃の波が退けば、円眞と異能力世界協会から派遣された精鋭三人の対峙となった。

「おまえ、黎銕とか言ったか。まだその女片手に、戦う気か」

 ラウドの問いかけに、円眞は答えない。それが返事だった。

「すげぇー甘ちゃんか、それとも俺らがよっぽど舐められているのか。どっちにしろ思い知ることになるぜ」

 やれやれといった口調のラウドが言い終わるや否やだ。
 巨大な戦斧であるエレファントナイフを振りかざして迫っていく。
 円眞は左手に持つ剣を、振り降ろされる襲撃を迎え撃つべく頭上へ掲げた。

 不意にラウドの大柄な身体が消えた。

 代わりに三本の矢が目前にまで向かってきている。ラウドを隠れ蓑して迫ってきていた。
 円眞の剣は寸前で斬り裂いた。
 前とは違い何の変哲もない矢に見えたが、斬った先から勢いよく粉が噴き舞う。

 むせた円眞のすぐ近くで、苦鳴が上がった。
 雪南が肩から血が飛び散っている。
 両手のロングソードを振り降ろしたエルズの酷薄な笑みも窺えた。

 円眞は後退しつつ、叫ぶ。

「相手はボクなはずだ。雪南を狙うなんて卑怯だぞ」
「大事そうに女なんか抱えていたら、狙って当然だろ。狙わせているのはお前だ。まったくがっかりさせられるばかりだぜ」

 ラウドは興味を失った顔で振り返った。壬生さんよー、と呼んだ。

「これからアンタたちの望み通りにしてやるよ。準備しな」

 壬生からの返事も待たずラウドは、円眞へ向かっていった。
 体格に似合わず敏捷な相手だ。円眞は矢の危険に注意しつつ、迎え打つ。
 円眞の剣は、ラウドのエレファントナイフを受け止めた。巨躯に相応する重い撃ち込みだ。だが先ほどと違い、吹き飛ばされることはない。互角以上の剣戟戦へ持ち込めそうだと思った矢先だ。

 がくり、円眞の膝が落ちた。

 逢魔ヶ刻おうまがときにおける変容の恩恵を得たと思っていた円眞えんまだから焦りが隠せない。余裕を失えば、地から上がってくる足にも気づけなかった。

 円眞の顎が、ラウドに蹴り上げられた。
 宙へもんどり打てば、右腕の雪南せつなも抱えきれない。
 地面へ這いつくばった円眞は、手離してしまった少女が地面に転がる姿を認めた。

「……雪南」

 円眞は異様な身体の重さを感じていた。それでも懸命に右手を伸ばす。
 その手を容赦なしに踏んづけられた。

「今度の弛緩剤は、大した即効性だな。完璧とまではいかなかったみてーだが」

 踏みつけるラウドが冷たい目で見降ろしてくる。
 くっ、と悔しげにうめく円眞だ。斬り落とした矢に仕込まれた用意周到さに、まんまとハメられた。

「さて、さんざんナメられたお礼はさせてもらわないとな」

 ラウドは顎をしゃくる。
 黒き装備の者が一斉に円眞と雪南に群がった。二人の手足を押さえつける。
 この場に不似合いなサラリーマン然したワイシャツ姿の二人もやってきた。雪南へ向かっていく。うち一人はカメラ片手だ。

「これからてめぇーの甘さが招いた結末を、じっくり目に灼き付けるんだな」

 ラウドの無情な宣告に、円眞はこれから何が行われるか理解した。

「や、やめろ……雪南には手を出す……」

 円眞の言葉が止まったのは、踏みつける足にいっそう力がこもったからだ。苦鳴は挙げないものの、相当の痛みが走っているに違いない。
 ふん、といった調子でラウドは足をどけた。くるりと背を向ければ、最後とばかり吐き捨てた。

「敵は殺したくねー、女は離したくねー。それで何とかしたいなんて、ただの過信か、現実が見えてねーバカだ。これは、てめぇーが招いたことだ、黙って、見てろ」

 言い終えたラウドは後ろへ気を向けることはなかった。
 横にはエルズにパウルが歩調を合わせている。行きと同じ形を取っての退場だった。

「あーあ、ホント、くっだらねー相手だったぜ。今度は、こんな胸くそ悪い仕事でないやつ頼むぜ」

 ノウルと壬生みぶの前まで戻ってきたラウドの開口一番だった。

「なにをおっしゃいますか。メイスン氏の遺族のためにご協力いただき、私からも感謝を言わせてください。本当にありがとうございました」

 感激する壬生は両手でラウドの片手を取っては何度も振る。エルズはこの様子に肩を竦めていた。

 少し離れたところでは、壬生の部下の一人がカメラを構えていた。もう一人はズボンを降ろした。雪南をまず陵辱するシーンの撮影だ。なぶり殺しが開始されようとしていた。
 や、やめろー! 発声さえ不自由なはずの円眞が叫ぶ。

 感銘を一ミリとて受ける者はいなかった。

「我々組織は手を差し伸べたのですよ。自業自得です」

 ノウルが冷たく言い放っている。
 仰向けにされた雪南。両脚を広げられた格好で押さえ付けられている。
 ズボンを脱いだワイシャツの男が伸しかかっていった。

「円眞、見ないでくれ……」

 雪南はじんわり涙が浮かぶ碧き瞳を閉じる。届けたい相手へ届かない小さな声だ。
 これが罰だ。そう思っても雪南の胸は引き裂かれそうだ。今すぐ殺して欲しい、円眞に辱められるところを見られるならば、いっそ……。

 雪南は舌を噛もうと思った、その時だった。
 不意に生ぬるいものが顔へ降ってきた。憶えのある匂いと感触に目を開けた。

 自分を犯そうとした相手は、首を失っていた。
 生ぬるいものの正体は、血だ。やはりとはいえ、雪南は驚きを隠せない。

 首なし屍体が、どさりと覆い被さってくる。人物次第では発狂しかねないシチュエーションだ。
 血だらけの屍体が転がる道を歩いてきた雪南が恐怖することはない。ただ重くて邪魔だから、反射的に払い除けた。
 首なし屍体が横へ転がっていく時点で気づいた。
 自分の両手が自由であることを。
 腕ばかりではなく脚も拘束から解けていた。

 雪南は自分を押さえ付けていた連中を確認すべく周囲を見渡した。

 取り囲んでいた黒づくめ装備の者たちの悉くが、首なし屍体だった。分離した頭と身体が血を流して転がっている。血の池が形成されるほどの量が流れていた。
 雪南は血で濡れた上半身を起こす。

 手が差し伸べられてきた。

「おい、立てるか」

 雪南は手を伸ばせない。むしろ敵に対するかのように低く鋭い声で問う。

「オマエ、誰だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...