519 / 549
エルフの森編
515.リングを破壊する方法
しおりを挟む
炎獣を止めるには体内に埋め込まれたリングの魔力を失わせるしかない。
ルカは結論を出すも、それはあまりにも何度が高い行為だった。
「それでルカ、どうやって魔力を失わせるのよ?」
「一番は暴れさせるだけ暴れさせる方法かな」
「まあ、妥当よね」
一番初めに思い付くのは、単純に炎獣の魔力が切れるまで手を出さないこと。
どんな作戦よりも最も楽で怪我も少なく、周囲の被害に見ないふりすれば、これ以上に最良の提案は無かった。
とは言え、完璧な作戦とは言えない。当然の穴を突かれてしまった。
「そんな行為が許されると思うな」
「だよね」
「まあ、分かってたけどねー」
ディンネルに咎められ、考えを一蹴させられる。
確かに炎獣に好き勝手暴れさせて入れば話は簡単に収まる。
しかしそれが事態の収拾には繋がらず、ましてや森が完全に消失してしまうのだ。
そんなことになればここまで頑張った意味が無く、無意味に帰してしまう。それだけは断固として避けなければいけない絶対条件だった。
「それじゃあどうするんですか?」
「そうですね、例えば何処か安全な場所にでも誘導して隔離させ、そこまで魔力が底を尽くまで暴れて貰うには……無理ですね」
「誰がどうやって誘導するのかな? しかも炎獣を拘束できる場所、今から用意できると思う?」
こうしている間にもエルフの森は焼けている。
炎の勢いが更に増し、無駄口を叩く暇すらない。
もはや決断は迫られている。ディンネルは苦汁の表情を浮かべると、ルカに提案する。
「魔力が切れるまで戦い抜くしかないんだな」
「それも一つだけど……もっと効率のいい方法があるよ」
「効率だと?」
「危険だけど、できれば早く終わる。できなければ、……最悪死かな」
ルカの恐ろしい提案が何処からともなく死神を招き寄せる。
暗闇から鎌を引っ提げ首元にあてがうには充分で、恐怖のイメージを叩き込む。
シルヴィア達を悪寒が襲い、ディンネルやゾーラ、セレビュも神妙な顔付きになった。
「なんでもいい。覚悟はできている」
「そうだね、やるしかないもんね」
「そうだよ、お姉ちゃん。ルカさん、どんな方法?」
「やる気満々だね。私、そういうの嫌いだな」
自分の命を軽く見ている発言。もちろん森のため、集落住むエルフ達のため。
同胞想いの優しい一面が露出するも、ルカにはそれが如何しても許せない。
自己犠牲の末にある平和なんて一時でしかない。そんな大義が後世に伝えられ、讃えられるなんて間違いでしかないのだ。
「私は自分でするけど、みんなはこれを使って」
インベントリの中から取り出したのは細長い棒。
透明な棒のようで、中には蒼い液体が入っている。
しかし凍らされているのか、薄っすらと白くなっており、棒の両端にも突起物が露出している。
明らかに何かと組み合わせる用途で使うらしく、渡されてもパッとは思いつかなかった。
「これはなんだ?」
「瞬間冷却剤。魔道具の一種で、ナタリーから幾つか貰って来たんだよ」
「ナタリー……族長から?」
「「それじゃあ安心だね。どう使うの?」」
ディンネルは不快な表情を浮かべ、ゾーラとセレビュは好奇な目を浮かべる。
信頼の違いを見せ付けられると、ルカは魔道具の使い方を説明した。
「この魔道具、瞬間冷却剤の名称はコールド・ストッパー」
「コールド・ストッパー? 普通ね、冷やして止めるってこと?」
「正解。これを直接刺し込んで、核にあたる部分の魔力供給を鈍化させる。そうすれば動きは劇的に変化して、動きものろく直に停止する……はず」
「「「はず!?」」」
「うん、はずだよ。説明書によれば」
ルカも正直使ったことも無い魔道具だった。
ナタリーに近いものを頼んだは良いものの、実際に使うのは今回が初めて。
効果が信じられないのでルカは使わないものの、もはや背に腹は代えられない。
試してみることにし、ルカは最後の作戦を伝えた。
「作戦はこう。それぞれが炎獣を相手にする。頃合いを見て射し込む。動きが遅くなれば成功、変わらなければ失敗。後は爆破でもなんでも炎獣を叩き潰す。以上」
「「「それ、作戦じゃない!」」」
シルヴィアとゾーラ、セレビュの声が三重奏になってハモった。
あまりにも単純、しかも行き当たりばったり。作戦と呼ぶにはあまりにもチープだ。
しかしこの状況、既に戦意喪失気味のエルフ達は役に立たない。
この場に居る少数精鋭でできることは限られているので、首を縦に振るしか選択の余地も無かった。
「覚悟は決まったね。それじゃあやろうか」
ルカは真っ先に先陣を切る。
とりあえずゴーレム型を仕留めること、それが今のベストだ。
そう感じたルカは少しだけ本気を出すと、溢れ出る魔法の才能を引き出した。
「速い!?」
「一瞬にして消えて……ちょ、ちょっと待って、ルカの殺気、ヤバくない?」
離れているシルヴィア達にも伝わっていた。
並以下の出力じゃ炎獣には効き目がない。
殺気を飛ばし、魔力を解放し、ルカは嬉々とした目を向ける。
「《自然魔力の自発変換》!」
ちゃんとした魔法名を唱えていた。
無意識のうち、ルカは千年前に編み出した“不可能を可能にする”魔法を駆使していた。
それは今ある“魔術”を形作り、“魔法”の常識さえも書き換えてしまった後世に残る魔法だった。
ルカは結論を出すも、それはあまりにも何度が高い行為だった。
「それでルカ、どうやって魔力を失わせるのよ?」
「一番は暴れさせるだけ暴れさせる方法かな」
「まあ、妥当よね」
一番初めに思い付くのは、単純に炎獣の魔力が切れるまで手を出さないこと。
どんな作戦よりも最も楽で怪我も少なく、周囲の被害に見ないふりすれば、これ以上に最良の提案は無かった。
とは言え、完璧な作戦とは言えない。当然の穴を突かれてしまった。
「そんな行為が許されると思うな」
「だよね」
「まあ、分かってたけどねー」
ディンネルに咎められ、考えを一蹴させられる。
確かに炎獣に好き勝手暴れさせて入れば話は簡単に収まる。
しかしそれが事態の収拾には繋がらず、ましてや森が完全に消失してしまうのだ。
そんなことになればここまで頑張った意味が無く、無意味に帰してしまう。それだけは断固として避けなければいけない絶対条件だった。
「それじゃあどうするんですか?」
「そうですね、例えば何処か安全な場所にでも誘導して隔離させ、そこまで魔力が底を尽くまで暴れて貰うには……無理ですね」
「誰がどうやって誘導するのかな? しかも炎獣を拘束できる場所、今から用意できると思う?」
こうしている間にもエルフの森は焼けている。
炎の勢いが更に増し、無駄口を叩く暇すらない。
もはや決断は迫られている。ディンネルは苦汁の表情を浮かべると、ルカに提案する。
「魔力が切れるまで戦い抜くしかないんだな」
「それも一つだけど……もっと効率のいい方法があるよ」
「効率だと?」
「危険だけど、できれば早く終わる。できなければ、……最悪死かな」
ルカの恐ろしい提案が何処からともなく死神を招き寄せる。
暗闇から鎌を引っ提げ首元にあてがうには充分で、恐怖のイメージを叩き込む。
シルヴィア達を悪寒が襲い、ディンネルやゾーラ、セレビュも神妙な顔付きになった。
「なんでもいい。覚悟はできている」
「そうだね、やるしかないもんね」
「そうだよ、お姉ちゃん。ルカさん、どんな方法?」
「やる気満々だね。私、そういうの嫌いだな」
自分の命を軽く見ている発言。もちろん森のため、集落住むエルフ達のため。
同胞想いの優しい一面が露出するも、ルカにはそれが如何しても許せない。
自己犠牲の末にある平和なんて一時でしかない。そんな大義が後世に伝えられ、讃えられるなんて間違いでしかないのだ。
「私は自分でするけど、みんなはこれを使って」
インベントリの中から取り出したのは細長い棒。
透明な棒のようで、中には蒼い液体が入っている。
しかし凍らされているのか、薄っすらと白くなっており、棒の両端にも突起物が露出している。
明らかに何かと組み合わせる用途で使うらしく、渡されてもパッとは思いつかなかった。
「これはなんだ?」
「瞬間冷却剤。魔道具の一種で、ナタリーから幾つか貰って来たんだよ」
「ナタリー……族長から?」
「「それじゃあ安心だね。どう使うの?」」
ディンネルは不快な表情を浮かべ、ゾーラとセレビュは好奇な目を浮かべる。
信頼の違いを見せ付けられると、ルカは魔道具の使い方を説明した。
「この魔道具、瞬間冷却剤の名称はコールド・ストッパー」
「コールド・ストッパー? 普通ね、冷やして止めるってこと?」
「正解。これを直接刺し込んで、核にあたる部分の魔力供給を鈍化させる。そうすれば動きは劇的に変化して、動きものろく直に停止する……はず」
「「「はず!?」」」
「うん、はずだよ。説明書によれば」
ルカも正直使ったことも無い魔道具だった。
ナタリーに近いものを頼んだは良いものの、実際に使うのは今回が初めて。
効果が信じられないのでルカは使わないものの、もはや背に腹は代えられない。
試してみることにし、ルカは最後の作戦を伝えた。
「作戦はこう。それぞれが炎獣を相手にする。頃合いを見て射し込む。動きが遅くなれば成功、変わらなければ失敗。後は爆破でもなんでも炎獣を叩き潰す。以上」
「「「それ、作戦じゃない!」」」
シルヴィアとゾーラ、セレビュの声が三重奏になってハモった。
あまりにも単純、しかも行き当たりばったり。作戦と呼ぶにはあまりにもチープだ。
しかしこの状況、既に戦意喪失気味のエルフ達は役に立たない。
この場に居る少数精鋭でできることは限られているので、首を縦に振るしか選択の余地も無かった。
「覚悟は決まったね。それじゃあやろうか」
ルカは真っ先に先陣を切る。
とりあえずゴーレム型を仕留めること、それが今のベストだ。
そう感じたルカは少しだけ本気を出すと、溢れ出る魔法の才能を引き出した。
「速い!?」
「一瞬にして消えて……ちょ、ちょっと待って、ルカの殺気、ヤバくない?」
離れているシルヴィア達にも伝わっていた。
並以下の出力じゃ炎獣には効き目がない。
殺気を飛ばし、魔力を解放し、ルカは嬉々とした目を向ける。
「《自然魔力の自発変換》!」
ちゃんとした魔法名を唱えていた。
無意識のうち、ルカは千年前に編み出した“不可能を可能にする”魔法を駆使していた。
それは今ある“魔術”を形作り、“魔法”の常識さえも書き換えてしまった後世に残る魔法だった。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
県立冒険者高等学校のテイマーくん
丸八
ファンタジー
地球各地に突如ダンジョンと呼ばれる魔窟が現れた。
ダンジョンの中には敵性存在が蔓延り、隙あらば地上へと侵攻してくるようになる。
それから半世紀が経ち、各国の対策が功を奏し、当初の混乱は次第に収まりを見せていた。
日本はダンジョンを探索し、敵性存在を駆逐する者を冒険者と呼び対策の一つとしていた。
そして、冒険者の養成をする学校を全国に建てていた。
そんな冒険者高校に通う一人の生徒のお話。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる