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エルフの森編

512.炎獣の襲来

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 滝のように降り頻る鋭い雨。
 立っているだけでもやっとの中、ルカは森の奥を凝視する。
 その目は何を捉えているのか。無論、ルカは意味があって目を凝らし、火災の正体を睨みつけていた。

「おい!」
「ん?」

 集中力を掻き消すように、間の悪いタイミングで声を掛けられた。
 首だけ振り向くと、強張った表情にディンネルが肩に手を置いていた。

「どうしたの、ディンネル?」
「どうしたじゃない。今のはなんだ? あれは魔術なのか?」

 如何やらディンネルは疑っているようだ。
 それもそのはず、今も絶えず振り続ける滝のような雨。
 シットリを通り越し、ずぶ濡れになってしまっていた。

「魔術は魔術だよ。上級だけどね」
「人間の、しかも子供が……学生が上級魔術を……えっ?」
「そんなに驚く必要は無いよ。それより、ディンネルはどう見てる?」

 ルカは素早く話をすり替え、ディンネルの見るべき視点を変えさせる。
 あまりにも露骨過ぎたのか、ディンネルは訝しい表情を浮かべた。
 強張った表情よりはマシだったが、ルカの言葉を聞きたくは無かった。

「話をすり替えるな」
「話はすり替えてなんぼだよ。むしろ、私よりも気にするべきことがあるはずだよ」
「気にするべきことだと?」

 ディンネルはルカの言葉から本当に必要な言葉を読み解く。
 何を意図しているのか。何が言いたいのか。
 ディンネルは先読みで圧倒的に劣っており、ルカに遅れを取らされた。

「分からない……」
「分からないならこれから身を以って知ればいいよ。本当に見るべきものは……あれは?」

 ルカが雨が降り頻る中、視線の先を超高速の発光体が飛んでいる。
 こちらに近付いて来ているようで、エルフ達は歓喜の中警戒する。

「おい、なにか近付いて来るぞ」
「構えろ、すぐに臨戦態勢に切り替えろ!」
「ダメです。この雨の中では」
「くっ、それにもう間に合わないのか……」

 エルフ達が苦い顔になるものの、ルカはジッと見つめていた。
 手を腰に当て、余裕な笑みを浮かべている。
 ディンネルも眉根を寄せると、発光体の正体に気が付けた。

「あっ、ルカさん!」
「ブルースター、飛んでみてどうだった?」

 発光体の正体。それは《オーロラウィング》を使って空を飛んでいたブルースターだった。
 スタッと着地すると、濡れて肌が薄っすら露出している。
 しかしずぶ濡れなんて既に気にしない。焦った魔力を感じ取ると、ルカは嫌な予感が高まる。

「ルカさん、この雨はルカさんの魔術ですね」
「よく分かるね」
「あまりにも突然だったので。それよりも聞いてください、この先の森は消失です。炎が消えません」
「遅かったか……それじゃあ時を戻しても無理だね」

 ルカの魔術でも間に合わなかった。
 流石に雨を拡大できる魔力はルカには無く、少し森が消失するのは覚悟していた。
 ディンネルを始めとしたエルフ達も悲しくなるも、それを凌駕する事態になっていた。

「それどころじゃないですよ。炎が動いているんです」
「ん? 炎が動いてる?」
「意味が分からない。炎が動くとはどういうことだ。馬鹿にしているようなら」
「私も友達がそんなことする訳がないだろ」

 ブルースターが発言した言葉は一触即発を促し掛ける。
 ディンネルはプツンとキレ、ブルースターの胸ぐらを掴みかかりそうになる。
 けれどルカに一蹴されると怒りの矛先を向けることができなくなり、「チッ」と舌打ちを鳴らした。

「それよりブルースター、炎が動いているってどういうこと?」
「すみません、少し省きました。実は炎が動いている原因がありまして」
「炎が動く原因? それってつまり……」

 ルカが持っているリング。この触媒がまだあるとすれば、エルフの森の中に潜んでいる数は相当になる。
 それが移動しながら森を焼いているのなら、阻もうとする人間にも気が付くはずだ。

「もしも私達が進行先だとすれば、この雨も……」

 ドスンドスン!

 滝のような雨の中、異様な騒音が聞こえる。
 遠くの方から近付いて来ているようで、ルカ達は顔を上げた。
 方角は丁度ブルースターが飛んできた先で、ルカは魔術を使って遠方を睨む。

「一体なにが近付いて来てるんだ?」
「炎です。炎を纏ったモンスターでしたよ」
「炎を纏ったモンスター……ああ、確かにモンスターらしい」

 ルカの目もようやく補足することが叶った。
 雨が降っていない先、森の木々達が騒めいている。
 その中央を堂々と渡り歩くモンスターの姿は、何故か赤く揺らめいている。
 不知火が浮かび上がるのは炎のせいで、如何やら炎獣のお出ましのようだった。
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