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エルフの森編
508.煤焼けた森の中
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ルカ達は再び森の中へと戻った。
先程と何ら変わらない焼け野原が広がっている。
黒く煤になった木々達が薙ぎ倒され、禿山のようになっていた。
「それでルカ、当てはあるのよね?」
「当て?」
「調査に来たって言っても、ただ闇雲って訳じゃないんでしょ? いつものことじゃない。勝手に独断専行して、分かってから教えるの。ルカの常套句でしょ?」
シルヴィアは棘のある言葉を吐き出した。
普段からルカがしていることを思向くままに代弁しただけで、本人に謝意は無い。
けれどルカはグサリと来てしまうと、「こほん」と咳払いを一つする。
「当てがない訳じゃないけど……正直分からないよ」
「えー。分かんないのー?」
「分からないことの方が、この世は多いからね」
ルカは一般論で返答した。
するとシルヴィアとライラックは肩を落とし、何食わぬ顔をする。
ルカのことを完璧変人だと思うのを止め、隣に寄り添った。
「それで、なにを探すのよ?」
「できれば焼けた原因かな」
「えっ? そんなの森が焼かれたからでしょ」
ルカはあまりにも単純明快、答えのすぐ見える問いをした。
するとシルヴィアは拍子抜けを喰らってしまう。
ポカンとした表情を浮かべるも、ルカの真意はそこには無い。
「それじゃあなにに焼かれた?」
「そっちの方が分かりやすいわよ。“炎”でしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「どうしてって……森を焼くなんて真似、炎が無いとできないでしょ? 常識じゃない」
シルヴィアはルカに詰められたので食って掛かった。
森が燃やされる。つまりは燃やすものがある。それが炎だと行きつくのはあまりにも容易く、子供でも閃いた。
しかしルカはそこを見ていない。本当に見ているのは、何故燃えたのか。炎の原因は何かだ。
「炎の原因、分かる?」
「えっ、それを調べるんじゃないの?」
「調べるにして、なにをどうやって調べたら良いと思う?」
「そんなの……木に訊いてみるとか?」
ルカはエルフの森らしいことを言った。
確かにエルフの森の木々達は生きている。
強い意思を感じるので、話しをすれば何か教えてくれるだろう。
けれどそれではあまりにも証拠に乏しい。欲しいの証言ではなく、物的なものだった。
「証言を聞いただけだと、なにも特定はできない。本当に欲しいのは、物的なものだよ」
「物的―? そんなの燃えているんじゃないのー?」
「だろうね。だからこうしてひたすら地面を見ているんだよ」
ルカは一切顔を上げようとしなかった。
ジッと焼けた地面を見続けると、頭がおかしくなりそうだ。
黒い煤が点々としており、何を見ても目がチカチカとする。
「ううっ、苦しい」
「気を付けた方がいい。まだこの地面は熱いからね」
「そ、そうね。少し離れて……えっ、温かいの? 本当ね、微かにだけど熱があるわ」
ルカに言われてシルヴィアは気が付く。
目から水分が失われ、ドライアイになりかけていた。
それから地面に手を付けると、手のひらが真っ黒になる。
おかげで汚れてしまったが、地面が温かいのは伝わる。
「ちょっと待って、これ凄く重要なことじゃないの!?」
「そうだね。燃えてからまだ火が立っていない……つまり、私達もこの森の住人も誰も気が付かない微弱な炎で高火力を発揮し、これだけの範囲の森と川を焼失させたことになる。それだけの力量を持った相手だ。単なるモンスターや自然災害とは思えないよ」
ルカの言葉に信憑性が増していく。
ゴクリとシルヴィアは息を飲み、ライラックも頭の上で腕を組みながらも、神剣に周囲を見回す。
何処に証拠が転がっているのか分からない。
むやみやたらと動いて、現場を荒らす訳にも行かない。
慎重さを物言わせる中、ふとライラックの視線が何か捉える。
「あれ、なんだろー」
そう言うと、一人テクテク近付いていく。
煤の張った地面を歩くと、黒い煤の中から光りを見出す。
腰を落として手を伸ばすと、そこに落ちていたのは小さな金色のリングだった。
「なにこれー? ルカ、シルヴィ、変なの落ちてるよー」
「「変なの?」」
ライラックは落ちていたリングをかざすと、ルカとシルヴィアを呼ぶ。
二人は互いに顔を見合わせると、何かと思い駆け寄った。
「ライ、なにか見つけたの? なにそれ、リング?」
「指輪……にしては小さいね。触媒かな」
シルヴィアは神妙な表情を浮かべた。
対してルカは指輪の大きさから人間用でも動物・モンスター用でも無いことを見破る。
となれば金属と言うこともあるので、何かしらの触媒に用いた可能性が非常に高い。
ルカはライラックからリングを受け取ると、よーく観察した。
「魔力の痕跡、これは炎……にしては妙な」
「妙ってなに?」
「強いってことー?」
シルヴィアとライラックはアバウトな質問をした。
それを受けてルカは言葉をまとめると、少し違うのではないかと思う。
「確かに強いよ。それと炎は確定。だけど自然由来のものでも人間由来・モンスター由来のものでもない魔力の波動」
「なによそれ、意味が分からないわ」
「そうだねー。それじゃあまるで、“人間じゃない者”みたいだよねー」
「それはルカが言ってたでしょ? でもそんなものいるの……ルカ?」
シルヴィア達がルカの顔を見ると、何故か固まっていた。
何か考え事しているようで、話し掛けてはいけない気がする。
(人間じゃない者。なるほど、ここでチャカチャ村と繋がって……と言うことはこれは見せしめ? それとも力を付けている。自然の魔力を搔き集めたことで、自分の手を汚さなくても、済むと言うこと……マズいな、非常にマズいな)
ルカの中であらゆる考えが凝縮される。
これは只事ではない。そうと決まった時には、シルヴィアとライラックの心配する顔が傍にあった。
「あっ、ルカ。考えがまとまった……」
「二人ともよく聞いて。相手は相当力を付けている。最悪この森全体が焼け野原にされる可能性だってあるよ」
「ちょ、ちょっと急になに?」
シルヴィアは驚いて理解が追い付かない。
それでもルカは言葉を吐き出し続ける。
今の考えが決して良い物ではないことを理解しているからだ。
「この火災はまだ序章だよ。本当に恐ろしいのはこれからだ」
ルカの顔つきが変わっている。本気の顔だ。
シルヴィアとライラックは自然と感化されると、顔付が妙に強張る。
一体何が起こるのか。その真実にも辿り着けないまま、ルカの驚異的なまでの意思に煽られるのだった。
先程と何ら変わらない焼け野原が広がっている。
黒く煤になった木々達が薙ぎ倒され、禿山のようになっていた。
「それでルカ、当てはあるのよね?」
「当て?」
「調査に来たって言っても、ただ闇雲って訳じゃないんでしょ? いつものことじゃない。勝手に独断専行して、分かってから教えるの。ルカの常套句でしょ?」
シルヴィアは棘のある言葉を吐き出した。
普段からルカがしていることを思向くままに代弁しただけで、本人に謝意は無い。
けれどルカはグサリと来てしまうと、「こほん」と咳払いを一つする。
「当てがない訳じゃないけど……正直分からないよ」
「えー。分かんないのー?」
「分からないことの方が、この世は多いからね」
ルカは一般論で返答した。
するとシルヴィアとライラックは肩を落とし、何食わぬ顔をする。
ルカのことを完璧変人だと思うのを止め、隣に寄り添った。
「それで、なにを探すのよ?」
「できれば焼けた原因かな」
「えっ? そんなの森が焼かれたからでしょ」
ルカはあまりにも単純明快、答えのすぐ見える問いをした。
するとシルヴィアは拍子抜けを喰らってしまう。
ポカンとした表情を浮かべるも、ルカの真意はそこには無い。
「それじゃあなにに焼かれた?」
「そっちの方が分かりやすいわよ。“炎”でしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「どうしてって……森を焼くなんて真似、炎が無いとできないでしょ? 常識じゃない」
シルヴィアはルカに詰められたので食って掛かった。
森が燃やされる。つまりは燃やすものがある。それが炎だと行きつくのはあまりにも容易く、子供でも閃いた。
しかしルカはそこを見ていない。本当に見ているのは、何故燃えたのか。炎の原因は何かだ。
「炎の原因、分かる?」
「えっ、それを調べるんじゃないの?」
「調べるにして、なにをどうやって調べたら良いと思う?」
「そんなの……木に訊いてみるとか?」
ルカはエルフの森らしいことを言った。
確かにエルフの森の木々達は生きている。
強い意思を感じるので、話しをすれば何か教えてくれるだろう。
けれどそれではあまりにも証拠に乏しい。欲しいの証言ではなく、物的なものだった。
「証言を聞いただけだと、なにも特定はできない。本当に欲しいのは、物的なものだよ」
「物的―? そんなの燃えているんじゃないのー?」
「だろうね。だからこうしてひたすら地面を見ているんだよ」
ルカは一切顔を上げようとしなかった。
ジッと焼けた地面を見続けると、頭がおかしくなりそうだ。
黒い煤が点々としており、何を見ても目がチカチカとする。
「ううっ、苦しい」
「気を付けた方がいい。まだこの地面は熱いからね」
「そ、そうね。少し離れて……えっ、温かいの? 本当ね、微かにだけど熱があるわ」
ルカに言われてシルヴィアは気が付く。
目から水分が失われ、ドライアイになりかけていた。
それから地面に手を付けると、手のひらが真っ黒になる。
おかげで汚れてしまったが、地面が温かいのは伝わる。
「ちょっと待って、これ凄く重要なことじゃないの!?」
「そうだね。燃えてからまだ火が立っていない……つまり、私達もこの森の住人も誰も気が付かない微弱な炎で高火力を発揮し、これだけの範囲の森と川を焼失させたことになる。それだけの力量を持った相手だ。単なるモンスターや自然災害とは思えないよ」
ルカの言葉に信憑性が増していく。
ゴクリとシルヴィアは息を飲み、ライラックも頭の上で腕を組みながらも、神剣に周囲を見回す。
何処に証拠が転がっているのか分からない。
むやみやたらと動いて、現場を荒らす訳にも行かない。
慎重さを物言わせる中、ふとライラックの視線が何か捉える。
「あれ、なんだろー」
そう言うと、一人テクテク近付いていく。
煤の張った地面を歩くと、黒い煤の中から光りを見出す。
腰を落として手を伸ばすと、そこに落ちていたのは小さな金色のリングだった。
「なにこれー? ルカ、シルヴィ、変なの落ちてるよー」
「「変なの?」」
ライラックは落ちていたリングをかざすと、ルカとシルヴィアを呼ぶ。
二人は互いに顔を見合わせると、何かと思い駆け寄った。
「ライ、なにか見つけたの? なにそれ、リング?」
「指輪……にしては小さいね。触媒かな」
シルヴィアは神妙な表情を浮かべた。
対してルカは指輪の大きさから人間用でも動物・モンスター用でも無いことを見破る。
となれば金属と言うこともあるので、何かしらの触媒に用いた可能性が非常に高い。
ルカはライラックからリングを受け取ると、よーく観察した。
「魔力の痕跡、これは炎……にしては妙な」
「妙ってなに?」
「強いってことー?」
シルヴィアとライラックはアバウトな質問をした。
それを受けてルカは言葉をまとめると、少し違うのではないかと思う。
「確かに強いよ。それと炎は確定。だけど自然由来のものでも人間由来・モンスター由来のものでもない魔力の波動」
「なによそれ、意味が分からないわ」
「そうだねー。それじゃあまるで、“人間じゃない者”みたいだよねー」
「それはルカが言ってたでしょ? でもそんなものいるの……ルカ?」
シルヴィア達がルカの顔を見ると、何故か固まっていた。
何か考え事しているようで、話し掛けてはいけない気がする。
(人間じゃない者。なるほど、ここでチャカチャ村と繋がって……と言うことはこれは見せしめ? それとも力を付けている。自然の魔力を搔き集めたことで、自分の手を汚さなくても、済むと言うこと……マズいな、非常にマズいな)
ルカの中であらゆる考えが凝縮される。
これは只事ではない。そうと決まった時には、シルヴィアとライラックの心配する顔が傍にあった。
「あっ、ルカ。考えがまとまった……」
「二人ともよく聞いて。相手は相当力を付けている。最悪この森全体が焼け野原にされる可能性だってあるよ」
「ちょ、ちょっと急になに?」
シルヴィアは驚いて理解が追い付かない。
それでもルカは言葉を吐き出し続ける。
今の考えが決して良い物ではないことを理解しているからだ。
「この火災はまだ序章だよ。本当に恐ろしいのはこれからだ」
ルカの顔つきが変わっている。本気の顔だ。
シルヴィアとライラックは自然と感化されると、顔付が妙に強張る。
一体何が起こるのか。その真実にも辿り着けないまま、ルカの驚異的なまでの意思に煽られるのだった。
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