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エルフの森編
506.焼けた緑
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心を現れる気持ちになると、ルカ達はひたすらゾーラとセレビュを捜した。
マイナスイオンと濃度の濃い魔力のシャワーを浴び、気持ち良くなっていると、ようやくゾーラとセレビュの姿を見つけた。
「あっ、やっと追い付いたわね」
「ここまで長かったねー」
「二十分くらいかな。凄いな、考えてみれば、あの二人はジャンプしてここまで来たのか。エルフ族、森の中だと無類の強さだね」
ルカ達は思い思いの気持ちを吐露していた。
その中でも特に多かったのは、エルフ族は森の中だと強い。
その事実を受け入れると、ブルースターが妙なことに気が付いた。
「待ってください、皆さん。なにかおかしくはないですか?」
「おかしいって、なにがよ?」
「何処もおかしな所は無いように見えますけど?」
ブルースターの疑問に、誰も気が付けていなかった。
みんな首を捻る中、ルカだけは同意を示す。
「確かにおかしいね。あの二人、背中から覇気を感じない」
ルカはゾーラとセレビュの背中から力が抜けていることを見破った。
もちろんそれだけでは何の答えにもなっていない。
だがしかし、ルカの殺気を浴びてもまだ明るさを取り留めていた二人から高揚感が消えているのは些か腑に落ちず、何かあったとしか思えないでいた。
「急いで声を掛けよう。ゾーラ、セレビュ! 一体なにがあって……」
ルカは早歩きでゾーラとセレビュに近付く。
腹から声を張り上げて声を掛けたのだが、途中でその覇気さえなくなった。
目の前に広がる景色が、あまりにもこの森に似つかわしくないからだ。
「ちょっと、ルカ。一人で先に行かないで……はっ?」
「ど、どういうことですか!?」
「これは、流石に酷い有り様ですね」
「あ、あはは……森が無くなってるねー」
シルヴィア達も合流し、視界の先を共有した。
そこは本来なら緑一面広がる、素晴らしい景色が広がっている筈だった。
その下には太めの川も流れており、エルフの森の全体図を縮図にしたような、素晴らしい光景が目を見張るように存在している筈だった。
けれど実際に広がる景色はそんなものではなかった。
緑一面は一切無く、真っ黒な炭になった森が広がっている。
川の水は干上がり、元気よく泳いでいた魚達の群れは、生臭い臭いを放って死んでいる。
おまけに残された植物達は元気はない。
花も枝も葉っぱでさえ萎れてしまい、枯葉色になる前に散って行く。
完全に焼け野原にされており、もはや森の脈動は感じられない。
切り取られた絶望が視界を覆い、茫然自失にさせていた。
「これは一体なに?」
「私達の知っている森じゃないね」
「本当はここに綺麗な景色が広がっていて……」
「だけど真っ暗な炭しか残っていないね」
ゾーラとセレビュは口をパクパクと動かす、意思の無い人形になっていた。
ここに本来広がっている景色が好きだったのだろう。
それを失った今、二人の心を傷付け、断片的に剥がれ落ちているのが、ルカ達には伝わった。
「ゾーラ、セレビュ、二人共今すぐここから離れた方がいいよ」
ルカは心がグシャグシャになりかけている二人を診兼ねて、今すぐ離れて貰おうとした。
心の傷は深い。いつ粉々になってしまうのか分からない。
形の無い涙を流す二人のことを思ってのことだったが、顔面から色さえ失われ掛けていた。
「この森は、この景色は、本当に大切なものなんだ」
「そうだね、お姉ちゃん。だから、私達怒ってる」
「火事じゃない。こんなのおかしい。魔力が乱れているからね」
「そうだよ、お姉ちゃん。これはあまりにも人為的。誰がやったのか、絶対に許さない」
ゾーラとセレビュは怒りに狂っていた。
目の奥には狂気さえ感じられ、悲しい悲痛さよりも、怒りによって突き動かされる感傷の方が大きくなっていた。
「ゾーラ、セレビュ、落ち着いて。一旦犯人捜しよりもするべきことがある」
「「するべきこと?」」
「焼け野原にした犯人が、エルフの森を襲っている謎の火災と同一のものなのかってこと。それが分からなければ、またこれと同じことが起こるに決まっているからね」
ルカは非常に冷静な判断を下した。
本当は首を突っ込むべきではなく、ゾーラとセレビュの気持ちを重んじるべきだった。
とは言えそうも言っていられないのは事実だ。
目の前のそれは、既に人間や動物、モンスターが引き起こせる規模を超えていた。
(犯人は魔術師、あるいは魔法使い、自然現象か、悪魔、それともまた別のなにか?)
様々な思考が順繰りと脳裏を駆け巡る。
ルカは焼け野原になった緑をこう捉えていた。
“吸われてしまった”。そう思える根拠は幾つかあるが、何よりも分かりやすいのは一つだ。
「ルカ、この辺魔力が減ってない?」
「そうですね、ルカさん。私の眼で見ても、この辺りは魔力が明らかに減っています」
「“吸われた”あるいは“使われた”んだね。どうにもきな臭い、明らかに挑発的だ。腹立たしいね」
「「そう、絶対に許さない」」
ゾーラとセレビュは無表情で答えた。
隣で佇むルカ達さえ食って殺してしまいそうで、少しだけ距離を置く。
これは早急な解決は必要だ。ルカの中で焦りではない焦燥感が生まれると、犯人は何者なのかと思考するが、心当たりは一つだけあった。
マイナスイオンと濃度の濃い魔力のシャワーを浴び、気持ち良くなっていると、ようやくゾーラとセレビュの姿を見つけた。
「あっ、やっと追い付いたわね」
「ここまで長かったねー」
「二十分くらいかな。凄いな、考えてみれば、あの二人はジャンプしてここまで来たのか。エルフ族、森の中だと無類の強さだね」
ルカ達は思い思いの気持ちを吐露していた。
その中でも特に多かったのは、エルフ族は森の中だと強い。
その事実を受け入れると、ブルースターが妙なことに気が付いた。
「待ってください、皆さん。なにかおかしくはないですか?」
「おかしいって、なにがよ?」
「何処もおかしな所は無いように見えますけど?」
ブルースターの疑問に、誰も気が付けていなかった。
みんな首を捻る中、ルカだけは同意を示す。
「確かにおかしいね。あの二人、背中から覇気を感じない」
ルカはゾーラとセレビュの背中から力が抜けていることを見破った。
もちろんそれだけでは何の答えにもなっていない。
だがしかし、ルカの殺気を浴びてもまだ明るさを取り留めていた二人から高揚感が消えているのは些か腑に落ちず、何かあったとしか思えないでいた。
「急いで声を掛けよう。ゾーラ、セレビュ! 一体なにがあって……」
ルカは早歩きでゾーラとセレビュに近付く。
腹から声を張り上げて声を掛けたのだが、途中でその覇気さえなくなった。
目の前に広がる景色が、あまりにもこの森に似つかわしくないからだ。
「ちょっと、ルカ。一人で先に行かないで……はっ?」
「ど、どういうことですか!?」
「これは、流石に酷い有り様ですね」
「あ、あはは……森が無くなってるねー」
シルヴィア達も合流し、視界の先を共有した。
そこは本来なら緑一面広がる、素晴らしい景色が広がっている筈だった。
その下には太めの川も流れており、エルフの森の全体図を縮図にしたような、素晴らしい光景が目を見張るように存在している筈だった。
けれど実際に広がる景色はそんなものではなかった。
緑一面は一切無く、真っ黒な炭になった森が広がっている。
川の水は干上がり、元気よく泳いでいた魚達の群れは、生臭い臭いを放って死んでいる。
おまけに残された植物達は元気はない。
花も枝も葉っぱでさえ萎れてしまい、枯葉色になる前に散って行く。
完全に焼け野原にされており、もはや森の脈動は感じられない。
切り取られた絶望が視界を覆い、茫然自失にさせていた。
「これは一体なに?」
「私達の知っている森じゃないね」
「本当はここに綺麗な景色が広がっていて……」
「だけど真っ暗な炭しか残っていないね」
ゾーラとセレビュは口をパクパクと動かす、意思の無い人形になっていた。
ここに本来広がっている景色が好きだったのだろう。
それを失った今、二人の心を傷付け、断片的に剥がれ落ちているのが、ルカ達には伝わった。
「ゾーラ、セレビュ、二人共今すぐここから離れた方がいいよ」
ルカは心がグシャグシャになりかけている二人を診兼ねて、今すぐ離れて貰おうとした。
心の傷は深い。いつ粉々になってしまうのか分からない。
形の無い涙を流す二人のことを思ってのことだったが、顔面から色さえ失われ掛けていた。
「この森は、この景色は、本当に大切なものなんだ」
「そうだね、お姉ちゃん。だから、私達怒ってる」
「火事じゃない。こんなのおかしい。魔力が乱れているからね」
「そうだよ、お姉ちゃん。これはあまりにも人為的。誰がやったのか、絶対に許さない」
ゾーラとセレビュは怒りに狂っていた。
目の奥には狂気さえ感じられ、悲しい悲痛さよりも、怒りによって突き動かされる感傷の方が大きくなっていた。
「ゾーラ、セレビュ、落ち着いて。一旦犯人捜しよりもするべきことがある」
「「するべきこと?」」
「焼け野原にした犯人が、エルフの森を襲っている謎の火災と同一のものなのかってこと。それが分からなければ、またこれと同じことが起こるに決まっているからね」
ルカは非常に冷静な判断を下した。
本当は首を突っ込むべきではなく、ゾーラとセレビュの気持ちを重んじるべきだった。
とは言えそうも言っていられないのは事実だ。
目の前のそれは、既に人間や動物、モンスターが引き起こせる規模を超えていた。
(犯人は魔術師、あるいは魔法使い、自然現象か、悪魔、それともまた別のなにか?)
様々な思考が順繰りと脳裏を駆け巡る。
ルカは焼け野原になった緑をこう捉えていた。
“吸われてしまった”。そう思える根拠は幾つかあるが、何よりも分かりやすいのは一つだ。
「ルカ、この辺魔力が減ってない?」
「そうですね、ルカさん。私の眼で見ても、この辺りは魔力が明らかに減っています」
「“吸われた”あるいは“使われた”んだね。どうにもきな臭い、明らかに挑発的だ。腹立たしいね」
「「そう、絶対に許さない」」
ゾーラとセレビュは無表情で答えた。
隣で佇むルカ達さえ食って殺してしまいそうで、少しだけ距離を置く。
これは早急な解決は必要だ。ルカの中で焦りではない焦燥感が生まれると、犯人は何者なのかと思考するが、心当たりは一つだけあった。
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