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エルフの森編

486.《クロノスジャベリン》

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 ルカはジュナイダー二代目に頼んで更に竜車を走らせる。
 完全に闇雲な行動で、シルヴィア達は理解不能。
 エルフの森に近付くこともできず、ただ遠回りをするだけで、首を捻ってしまった。

「ルカ、一体なにをする気なの?」
「なにもかにも無いよ。これからこの迷いを断ち切る」

 目の前には仮初のエルフの森が広がる。
 けれどそれはエルフの森を中心にしている。
 つまり、この森の奥に本物のエルフの森はあるのだ。
 仮に試されているとしても、そうでない完全無欠の堅牢だとしても、ルカからしてみれば完璧は無い。

 どんな魔術や魔法にも抜け道はある。
 それは隙のように存在していて、ルカはジュナイダー二代目を走らせる中で、目を凝らしていた。

「なかなか見つからない」
「ルカさん、私にも手伝えることはありませんか?」

 するとダリアがルカの手伝いをしてくれると申し出た。
 これは非常に助かる。この場面、魔眼はとても役に立った。

「ありがとうダリア。それじゃあ魔眼を使って」
「分かりました!」

 ダリアの髪色が変色する。綺麗な金髪が赤々とし始め、目の奥が赤い瞳に変わる。
 それはまるで炎のようで、メラメラと燃えていた。
 ダリアの魔眼。そこにはこの森がどんな風に映っているのか、ルカには知る由もない。

「魔眼を使わせてどうするのよ?」
「決まっているでしょ? この森を破壊する」
「「は、破壊!?」」

 シルヴィアとブルースターはルカの突飛な言葉に驚愕した。
 目を見開き、断固反対と言いたげだ。

「破壊するなんてもっての外よ!」
「そうですよ。先程正面突破とはおっしゃっていましたが、それでは強硬手段でしかないですよ」

 二人の言い分はもっともだった。ルカの心にも突き刺さる。
 しかしシルヴィアとブルースターの言い分には足りない面がある。
 それをルカは補うため、口を噤んでいたがより濃く話した。

「なにも私はエルフの森を破壊するとは一言も言っていないよ?」
「それは比喩表現であって……」
「分かってるよ。でも、私は本気でエルフの森を破壊する気はない。正面突破で破壊するんじゃなくて、こじ開けるんだよ」
「こじ開ける? 一体なにを言って……」

 シルヴィアはルカの言葉を必死に解釈しようとした。
 けれどそれを邪魔立てしたのは、ダリアの嬉しそうな声だった。

「ルカさん、魔力に歪みがありますよ!」
「本当? ジュナ二止まって」

 ルカはジュナイダー二代目に止まって貰う。
 ギィィと地面を擦る音が響き、竜車の中が揺れる。
 シルヴィア達は壁に必死にしがみつくと、ルカは竜車の荷車を降りた。

「痛いわね……」
「そうですね。壁にしがみついていなければ今頃……ルカさん?」

 シルヴィアとブルースターはルカの姿を追った。
 荷車の中から降り、首をグルグル回している。
 何か意味がある行為なのか。はたまたルーティーンなのかさえ不明だ。

「ルカ~、一体なにするの?」
「今からこの歪みに強制的なアプローチを加えて破壊する」
「そんなことしていいの~? エルフの森、無くなっちゃわない?」
「無くならない。威力は制限するから。まあ、見ててよ」

 ルカはそう言うと、右腕を天に掲げる。
 一体なにをする気なのか、シルヴィア達も視線を配る。
 するとルカの右手の中に魔力が集まり、ある物が形成された。
 その姿形は投げ槍のようだが、混沌がグルグルと掻き回されたような、奇妙な様相を伴っていた。

「ルカ、その魔術なに? 禍々しいんだけど……」
「そんなことないよ。これは時間を圧縮した槍。名付けて……《クロノスジャベリン》。コレをこうして……えいっ!」

 ルカは一切の迷いなく、歪みに向かって投げ槍を飛ばした。
 真っ直ぐ飛んで行くと、混沌がチラついて仮初の森へと飛び立つ。
 果たして当たるのか。一体何処に消えるのか。目で追うシルヴィア達だったが、ルカの放った投げ槍はエルフの森に届くことは無く、その表面で奇妙にも立ち止まった。

 バキーン!

 空間をかち割る音が響いていた。
 《クロノスジャベリン》はエルフの森を境にして、ピタリと止まっていた。
 しかしそれは間違った認識で、《クロノスジャベリン》は圧縮した時間を混沌に変えて、切っ先でプルプルと震えながら空間を割っていた。

「どうなってるのよ。なにがなにで……」
「シルヴィ、少し黙って。もう砕けるよ」

 ルカはシルヴィアを黙らせる。
 《クロノスジャベリン》は震えながら空間をかち割るために必死なようで、ピキンピキンとか細く響かせていた。

 その音は髪を撫で、耳の奥まで届く。
 内耳を刺激して、時間の悍ましさを音と共に伝えてくれる。
 空間では支えきれない。爆発的なエネルギーの連続に、ついには仮初の森も……

 ピキキキキィン!——

 耐えることはできなかった。

「砕ける!」
「うわぁ、なによ急に。ま、眩しい……」
「それだけじゃないですよ、これは……」
「魔力が貫通して、目が痛いです!」

 誰も直視することはできない。
 視線を逸らし、目を伏せてこの痛みから避けようとする。
 だからだろうか。ことの顛末を知るのは何を隠そう一人しか居ない。

「とうとう壊れた仮初の森。さてと、その正体を見せて貰おうかな」

 ルカだけは平然とした様子で佇んでいた。
 緩やかに崩壊してしまう《クロノスジャベリン》。
 その功績を密かに労うと、ルカは眩い光の中をジッと見つめるだけだった。
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