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村亡編
477.ハンモックで寝る羽目に
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ルカ達は宿にようやく戻って来た。
ここまで長かった。距離的にはそこまで無いはずなのだが、やけに時間の経過が遅く思えて仕方ない。
それもそのはず、ダリアとブルースターの顔色がやけに芳しくない。
表情が全体的にくすんでいて、青紫色に変色しかけている。
よほど黄霊酒の説明が堪えたらしい。
今も口元を覆いながら、気持ち悪そうにヨタヨタ歩いていた。
「二人共大丈夫?」
「大丈夫ですが……大丈夫ではないですね」
「は、はい。ルカさん、黄霊酒に付いて教えて欲しいとは言いましたけど、流石に説明しすぎですよ。絶対にシルヴィアさんも顔色を悪くしちゃいますよ」
「だろうね。だから説明しないことにするよ」
ダリアとブルースターの様子を見るに、シルヴィアに説明しない方が良さそうだ。
きっと気持ち悪くなり、逆切れの矛先が向くだけ。
とは言えシルヴィアはルカに訊ねてくるはずだ。
それを如何にかして掻い潜る必要が出て来てしまい、気にする必要はないはずなのだが、腕を組んだまま険しい表情に変わった。
「さてと、面倒なことになる前に処理をしないと……記憶でも消そうかな?」
ルカは物騒なことを口走った。
面倒な記憶は消してしまった方が手間が無い。
とは言えルカは記憶を消すなんて真似、する気はあってもやろうとは思わない。
脳の形まで変えかねないルカの魔術は、今の魔術師にとっては毒になりそうで辞めてしまった。
「まあいいか。とにかく今日は休もう。明日ももう早いんだ」
眠ってしまえば時期に朝が来る。
宴会の後始末もルカ達が全て終わらせ、時刻は深夜を回った。
睡眠時間も削られること間違いなく、宿で起きて待っているであろうシルヴィアとライラックのことを思い、急いで宿に入る。
「ただいま。想像はしてたけど真っ暗だ」
「灯りが一つもないと危ないですよね。炎を出しますね」
ダリアは灯りが一つもない宿の中に、ランプ代わりの炎を点灯させる。
手のひらの上で丸い火球がグルグル鳥の様に回っている。
宿の中がほんわり明るくなると、ようやく見やすくなり廊下を進む。
大部屋へと直行すると、空いていた襖を開けた。
「シルヴィ、ライ、戻った……よ?」
「ふはぁー。ん? あー、みんな戻って来たんだー」
ルカが見たのは意外な光景だった。
大部屋の中、敷き詰めらてた布団を独占するように眠るシルヴィア。
その隣ではコクリコクリと首を上下に揺らすライラック。
いつもとは逆の構図に驚くだけではなく、シルヴィアが寝落ちしていること、ライラックが耐え抜いていることそのものが目を奪った。
「ふはぁー。みんな遅いよー」
「その節に関してはごめんだけど、これはなに?」
「なにもかにもないよー。シルヴィアは疲れて寝ちゃった。だから私が代わりに起きてたのー」
ライラックは端的に何があったのか説明してくれた。
しかし所々引っかかってしまうのは、ライラックは寝オチ寸前にもかかわらず、ここまで耐え抜いてくれたこと。
もしかすると優しさ? それも一重にあるのだろうが、シルヴィアの体勢が目に飛び込んで離してくれない。
「いやいや、ライだって寝たいんでしょ?」
「それはそうだよー。でもさー……」
ライラックはルカの言葉に同意する。
しかし眠れない理由を悟り、視線をシルヴィアへと泳がせた。
「うわぁ!? シルヴィアさんが……珍しいこともあるんですね」
「よっぽど疲れているんでしょうね。仕方ありませんよ。遅れた私達に非があるので、ここは大目にしましょう」
ダリアとブルースターがライラックの言葉を遮るように、絶妙なタイミングで大部屋に入る。シルヴィアが疲れて眠り落ちてしまった姿に呆れる訳でもなく諦めると、特にささくれることもない。二人の優しさが前面に押し出されると、自分達も疲れている姿をひた隠す。
「二人共疲れているんだよね? まだ使える布団が残っているから、使ってもいいよ」
「で、ですが……」
「それではルカさんとライラックさんはどうなされるおつもりですか?」
「私達は……どうしようか、ライ?」
ルカはライラックに委ねた。
シルヴィアが布団を半分近くわざとではないが使ってしまっている。
残りは半分しか無いので、ダリアとブルースターに譲ってあげた。
となればルカとライラックが眠ることができない。
硬い廊下で寝てもいいのだが、流石にそれは明日の朝が堪える。
背中が悲鳴を上げかねないとは思いつつも、選択の余地はライラックに委ねられていた。
するとライラックはゆっくりと立ち上げると、「やりますかー」と言いながら腕を伸ばした。
「ルカ、外で寝るのっていい?」
「外? 今の時期は寒いけど、私が魔術を掛ければ問題ないよ?」
「そっかー。じゃあ安心だー。ってことで、私は全然布団譲るよ。代わりに外で眠るからー」
ライラックもダリアとブルースターに譲ってくれるらしい。
代わりにルカの腕を引っ張ると、外へと出ようとする。
雰囲気的にも外で眠ることになったが、ダリアとブルースターは目を丸くする。
「そ、外ですか!?」
「外には布団がありませんよ? どうなされるおつもりですか?」
この時期に外で眠るなんて自殺行為に近い。
もちろん野営やキャンプの気分で入れば耐えられなくはない。
しかしそんな真似では失った魔力はなかなか回復しないと悟られる中、ライラックはにやりと笑みを零す。
「大丈夫大丈夫―。私達はハンモックで眠るからさー」
「「「ハンモック!?」」」
「もちろーん。それじゃあルカ、行こう行こうー」
ルカはライラックに連れられて再び外へと向かう。
如何やらライラックはハンモックを用意してくれるらしい。
かなり気になる。下唇の下に指先を当てると、興味が湧いてきた
ここまで長かった。距離的にはそこまで無いはずなのだが、やけに時間の経過が遅く思えて仕方ない。
それもそのはず、ダリアとブルースターの顔色がやけに芳しくない。
表情が全体的にくすんでいて、青紫色に変色しかけている。
よほど黄霊酒の説明が堪えたらしい。
今も口元を覆いながら、気持ち悪そうにヨタヨタ歩いていた。
「二人共大丈夫?」
「大丈夫ですが……大丈夫ではないですね」
「は、はい。ルカさん、黄霊酒に付いて教えて欲しいとは言いましたけど、流石に説明しすぎですよ。絶対にシルヴィアさんも顔色を悪くしちゃいますよ」
「だろうね。だから説明しないことにするよ」
ダリアとブルースターの様子を見るに、シルヴィアに説明しない方が良さそうだ。
きっと気持ち悪くなり、逆切れの矛先が向くだけ。
とは言えシルヴィアはルカに訊ねてくるはずだ。
それを如何にかして掻い潜る必要が出て来てしまい、気にする必要はないはずなのだが、腕を組んだまま険しい表情に変わった。
「さてと、面倒なことになる前に処理をしないと……記憶でも消そうかな?」
ルカは物騒なことを口走った。
面倒な記憶は消してしまった方が手間が無い。
とは言えルカは記憶を消すなんて真似、する気はあってもやろうとは思わない。
脳の形まで変えかねないルカの魔術は、今の魔術師にとっては毒になりそうで辞めてしまった。
「まあいいか。とにかく今日は休もう。明日ももう早いんだ」
眠ってしまえば時期に朝が来る。
宴会の後始末もルカ達が全て終わらせ、時刻は深夜を回った。
睡眠時間も削られること間違いなく、宿で起きて待っているであろうシルヴィアとライラックのことを思い、急いで宿に入る。
「ただいま。想像はしてたけど真っ暗だ」
「灯りが一つもないと危ないですよね。炎を出しますね」
ダリアは灯りが一つもない宿の中に、ランプ代わりの炎を点灯させる。
手のひらの上で丸い火球がグルグル鳥の様に回っている。
宿の中がほんわり明るくなると、ようやく見やすくなり廊下を進む。
大部屋へと直行すると、空いていた襖を開けた。
「シルヴィ、ライ、戻った……よ?」
「ふはぁー。ん? あー、みんな戻って来たんだー」
ルカが見たのは意外な光景だった。
大部屋の中、敷き詰めらてた布団を独占するように眠るシルヴィア。
その隣ではコクリコクリと首を上下に揺らすライラック。
いつもとは逆の構図に驚くだけではなく、シルヴィアが寝落ちしていること、ライラックが耐え抜いていることそのものが目を奪った。
「ふはぁー。みんな遅いよー」
「その節に関してはごめんだけど、これはなに?」
「なにもかにもないよー。シルヴィアは疲れて寝ちゃった。だから私が代わりに起きてたのー」
ライラックは端的に何があったのか説明してくれた。
しかし所々引っかかってしまうのは、ライラックは寝オチ寸前にもかかわらず、ここまで耐え抜いてくれたこと。
もしかすると優しさ? それも一重にあるのだろうが、シルヴィアの体勢が目に飛び込んで離してくれない。
「いやいや、ライだって寝たいんでしょ?」
「それはそうだよー。でもさー……」
ライラックはルカの言葉に同意する。
しかし眠れない理由を悟り、視線をシルヴィアへと泳がせた。
「うわぁ!? シルヴィアさんが……珍しいこともあるんですね」
「よっぽど疲れているんでしょうね。仕方ありませんよ。遅れた私達に非があるので、ここは大目にしましょう」
ダリアとブルースターがライラックの言葉を遮るように、絶妙なタイミングで大部屋に入る。シルヴィアが疲れて眠り落ちてしまった姿に呆れる訳でもなく諦めると、特にささくれることもない。二人の優しさが前面に押し出されると、自分達も疲れている姿をひた隠す。
「二人共疲れているんだよね? まだ使える布団が残っているから、使ってもいいよ」
「で、ですが……」
「それではルカさんとライラックさんはどうなされるおつもりですか?」
「私達は……どうしようか、ライ?」
ルカはライラックに委ねた。
シルヴィアが布団を半分近くわざとではないが使ってしまっている。
残りは半分しか無いので、ダリアとブルースターに譲ってあげた。
となればルカとライラックが眠ることができない。
硬い廊下で寝てもいいのだが、流石にそれは明日の朝が堪える。
背中が悲鳴を上げかねないとは思いつつも、選択の余地はライラックに委ねられていた。
するとライラックはゆっくりと立ち上げると、「やりますかー」と言いながら腕を伸ばした。
「ルカ、外で寝るのっていい?」
「外? 今の時期は寒いけど、私が魔術を掛ければ問題ないよ?」
「そっかー。じゃあ安心だー。ってことで、私は全然布団譲るよ。代わりに外で眠るからー」
ライラックもダリアとブルースターに譲ってくれるらしい。
代わりにルカの腕を引っ張ると、外へと出ようとする。
雰囲気的にも外で眠ることになったが、ダリアとブルースターは目を丸くする。
「そ、外ですか!?」
「外には布団がありませんよ? どうなされるおつもりですか?」
この時期に外で眠るなんて自殺行為に近い。
もちろん野営やキャンプの気分で入れば耐えられなくはない。
しかしそんな真似では失った魔力はなかなか回復しないと悟られる中、ライラックはにやりと笑みを零す。
「大丈夫大丈夫―。私達はハンモックで眠るからさー」
「「「ハンモック!?」」」
「もちろーん。それじゃあルカ、行こう行こうー」
ルカはライラックに連れられて再び外へと向かう。
如何やらライラックはハンモックを用意してくれるらしい。
かなり気になる。下唇の下に指先を当てると、興味が湧いてきた
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