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村亡編

468.宴会だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

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 その夜。チャカチャ村で宴会が開かれることになった。
 村長が広場にて宴会を開くことを村人に伝えると、瞬く間に集まった。
 もしかすると、魔素中毒による陽気に当てられ、全員ハイになっているのかもしれない。
 結果として、松明が並べられた広場には、人だかりになっていた。

「ええっ、今日は嬉しいことが起こったぞ! キヤチャが食料を持って帰って来た」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「よくやったぞ、キヤチャ!」
「これで、これで、空腹が満たされる。じゅるり」

 村人の視線がキヤチャに注がれる。
 高揚感に胸躍る村人達は、羨望の眼差しを送っていた。
 キヤチャも持て囃されてまんざらではないのか、照れた様子で頭を掻く。

「それだけじゃないぞ。なんと魔術師のお嬢ちゃん達が、この村の危機を救ってくれたそうじゃぞ!」
「ま、マジかよ!」
「ようやく農場が復活するのか!」
「長かった。長かった……」

 今度はルカ達の話になった。
 目から涙を浮かべる村人に、感極まる村人、途方もない時間を待ち侘びていたのか苦しい表情を浮かべつつ、ようやく解放された村人。
 とにかくたくさんの村人達が思い思いの感情を爆発させていた。

「じ、地獄絵図……」
「まだなってないと思うけど?」

 この状況にシルヴィアは若干引いている。
 けれど地獄絵図と評するにはまだ早く、混沌した状況ではない。
 むしろこれは正常な反応で、それだけ食糧難は人の感情を掻き立てていた。

「でもさ、まだ喜ぶのは早いんだけどね」
「どういうことですか?」
「だってまだ解決していないからだよ」

 ルカがポツリと呟くと、ダリアが視線を預ける。
 ルカの言葉に違和感を感じたからだろう。
 けれどそれは事実で、ルカ自身、この村の食糧難が完全に解決したわけではないと分かっていた。だからこそその旨を村長にも宴会前に伝えておいたのだが、完全に酒浸りになって忘れているらしい。

「宴会を開こうとは言ったけど、まさかここまで陽気に支配されているなんてね」

 よっぽど急性魔素中毒の症状が強いと見た。
 ルカ達は広場の隅っこで、自分達が用意したジュースを飲みながら、村長や村人達がワイワイはしゃぐ姿を眺めていた。

「しかしまだ油断はできんぞ! 農場が完全復活するかは儂らの手に掛かっておる。皆、心して励むのじゃぞ!」

 村長は完全にルカの言葉を忘れているわけではなかった。
 自分の言葉として、ルカの伝えたことの一部を書き換えつつ、村人に説明する。
 その姿はまさしくこの村の村長の行いで、人望をそれだけ多く集めていた。

「私も不安は必要なかったみたいだね」
「不安って一体なんのことよ?」
「そうですね。ルカさん、まだ私達も詳しい話を……」
「そうだね。それは後で説明するよ」

 シルヴィアやブルースターがルカの考えていることの奥底を知りたがる。
 けれどルカは反応している暇は無かった。
 それもそのはず、まだ村人の陽気が完全に解けていないのだ。

「じゃが、本日は気を休ませても良い。丁度魔術師のお嬢ちゃんがこれをくれたからの。朝まで全員飲み明かそうぞ!」

 村長はそう言うと、小さな坂壺を取り出す。
 一見して古そうな坂壺で、所々には錆のようなものもある。
 かなり経年劣化が進んでいるようで、明らかに古酒の香りがした。

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」

 村人達が血気盛んに盛り上がる。
 誰かから施されたものが、時にその人を助ける行為であり、はたまた妨げる行為にもなりえる。
 だからこそ、ここで毒物だと疑われるのだけは問題だったのだが、如何やらその心配は要らなかったらしい。

「皆、魔術師のお嬢ちゃん達に感謝しようぞ!」
「「「ありがとう、魔術師さん!」」」

 村長の合図で今度は村人の視線がルカ達に注がれた。
 一瞬にして、羨望の眼差しが集められる。
 怖い。そう思っても不思議はない。それもそのはず、村人の目は狂い掛けていた。

「うわぁ、ちょっとマズいかな」
「ま、マズいってなにがよ! 流石に視線が凄いけど……」
「そうじゃないですよ、シルヴィアさん! ルカさん、もしかしてこれは」
「ダリアも魔眼で見たんだね」
「は、はい。村人の皆さんの目、何処か……ヘルボロスのような悪意ある魔力を感じて」

 ダリアはルカと同じ物を見ていた。
 村人の目。一見すると何の変哲もない、感謝の意しか存在していない。

 けれどそれは見せかけだ。もちろん村人達は何も悪く無い。
 外部からの、それこそルカが先程追い払った悪魔の手と同じ魔力を感じた。

 嫌な魔力だ。ヘルボロスやバルトラとはまた一味違う曲者の魔力。
 ほぼ全ての村人の目を大気中に放出された魔素に干渉し、足掻きのように舐め回す。
 その貪欲さ、豪胆さ、まさしく悪魔てきに相応しかった。

「流石に予想外……でもないかな。でもちょっと面倒かも」

 ルカは間に合わなかったことに後悔した。
 けれどそんな暇もないことは既に承知している。
 ルカはシルヴィア達を後ろに下げると、一人前に出ていた。
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