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村亡編
446.特別な竜車
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ルカは朝早くから待っていた。
寝ぼけ眼を擦り乍ら、大きな欠伸を掻いてしまった。
とても眠い。昨日は疲れが溜まった結果、気絶するように眠ってしまった。
ベッドの上で寝なかったせいもあり、上手く疲労も軽減されていない。
かなり苦しい想いをしたのも自業自得だと納得し、ルカは広場で座り込んだ。
「眠ぃ」
もうこのまま眠ってしまおうか。
竜車が来たら起きるように調整すればいい。
亜空間の中に入るのは止め、その場で自分の時間だけを止めた。
「どのみちシルヴィ達も来ないかもしれないんだ。ゆっくりでもいい。……いや、一人なら飛べるのでは?」
ルカは元も子もないことを考えてしまった。
けれど自分一人だったら亜空間を介した《テレポート》も使える。
それを使わずとも、《フライ》を使って飛行すればいいんだ。
ルカは一人の方が都合が良すぎることに気が付いてしまい、もの凄く心苦しくなった。
「いや、考えない方が良い……考えない方が……」
ルカは少しの間眠ることにした。
そうして時間が刻々と過ぎて行く。
気が付けばどのくらいだろうか。大体一時間ほど眠りについていた。
すると何かがペタペタ駆けて来る音がした。おまけにゴロゴロと車輪が回る音もする。
「ん?」
ルカは気が付いて目を開けた。
いや、近付いて来ていることには、百メートルは前から気が付いていた。
瞼の裏側の暗闇から抜け出すと、目の前には一匹の地竜が居た。しかし地竜にしては背中に短い翼が生えていて、何処となく見覚えは……あった。
「あれ、この地竜って確か」
千年前に見たことがある。これはナタリーが連れていた地竜だ。
とは言え普通の地竜じゃない。背中の短い翼は今は畳まれているだけ。
本当は飛竜なのだが、そんな話は今は如何だっていい。
問題はこの飛竜がナタリー達エルフ族に仕えるものであり、誰がここに呼んだのかだ。
「まさかナタリー、エルフの森にわざわざこの子を?」
まさか遣わせてくれるとは思わなかった。
ルカは「ふん」と笑いを浮かべてしまうと、何故か飛竜から声が聴こえた。
口をパクパク動かすと、ルカは魔術を使っていないのに、飛竜が喋っている。
「なんで笑っているの?」
「なんでって、私なんかに飛竜を寄越したからだよ」
「ん? 遠いからじゃないの?」
「それもあるけど、まさかエルフ族の竜車に乗せて貰えるとは思わなかったんだよ」
ルカはナタリーに移動手段の手配を頼んだとはいえ、ここまでの厚い待遇とは思わなかった。
現に飛竜の後ろには木組みでできたいい感じの荷車がある。
屋根も扉も窓も付いていて、最高の代物だった。
「それってこれのこと?」
「それのこと」
しかし当の飛竜はその良さに気が付いていない。
当然だ。竜のパワーや価値観からしてみれば、こんなもの必要がない。
自分を縛る枷でしかなく、自由に歩を進めることも叶わないのだ。
「私達のために竜車を引くの、ちょっと嫌でしょ?」
「僕は嫌いじゃないけど?」
「そうなんだ。良い子だね」
ルカはそっと飛竜の頬を撫でた。
するとくすぐったそうに「グギャァ」と鳴いた。
体に傷がない。おまけに大きくもない。この子はまだ子供……いや、大人に成りかけの段階だ。ルカは千年前に見た個体とは違うことを悟ったが、時間の流れとは儚いものだと知っていた。
「それより君は誰? ナタリーから頼まれてきたけど」
「私はルカ。トキワ・ルカ。ナタリーとは古い友人かな」
「そうなんだ! 僕はね、ジュナイダーだよ! ジュナイダー二代目」
「ジュナイダー? あれ、その名前は確か……」
如何やら受け継いでいるらしい。全くナタリーもかなり味のあることをする。
ルカはクスクスと笑いを浮かべると、そっとジュナイダー二代目に手を伸ばす。
「ところでジュナ二はエルフの森に行ったことはある?」
「うん! リタリーに連れて行ってもらったよ!」
「リタリーに? それなら安心だね。それじゃあ……時間まで、遊ぼっか」
ルカはジュナイダー二代目に遊びの誘いを入れてみた。
するとジュナイダー二代目は「やった!」と嬉しそうにはにかんでくれる。
やっぱり子供だ。いくら大人に成りかけの飛竜とは言え、子供っぽさも残っている。
ルカはそっと手を伸ばすと、ジュナイダー二代目と遊ぶことにし、退屈な時間を過ごすことにした。
「それじゃなにをして遊ぶ?」
「うーん……追いかけっこ!」
「追いかけっこ? それじゃあ空でやろうか」
「翼を使ってもいいの! いいのいいの!」
「もちろん。たまには飛ばないと使い物にならないでしょ? それじゃあ私が逃げるから、追いかけて来てね」
「よーし、絶対捕まえるぞ!」
ルカとジュナイダー二代目は朝早くだったこともあり、空へとその姿を逃がした。
一瞬で舞い上がると互いに追いかけっこをし合う。
飛竜らしく翼を広げるジュナイダー二代目に対し、ルカはいつも通りの〈フライ〉だったが、圧倒的なスピードは変らず、いくら飛竜とは言え捕まる気がしない。
少し大人げない遊びを繰り広げるのだった。
寝ぼけ眼を擦り乍ら、大きな欠伸を掻いてしまった。
とても眠い。昨日は疲れが溜まった結果、気絶するように眠ってしまった。
ベッドの上で寝なかったせいもあり、上手く疲労も軽減されていない。
かなり苦しい想いをしたのも自業自得だと納得し、ルカは広場で座り込んだ。
「眠ぃ」
もうこのまま眠ってしまおうか。
竜車が来たら起きるように調整すればいい。
亜空間の中に入るのは止め、その場で自分の時間だけを止めた。
「どのみちシルヴィ達も来ないかもしれないんだ。ゆっくりでもいい。……いや、一人なら飛べるのでは?」
ルカは元も子もないことを考えてしまった。
けれど自分一人だったら亜空間を介した《テレポート》も使える。
それを使わずとも、《フライ》を使って飛行すればいいんだ。
ルカは一人の方が都合が良すぎることに気が付いてしまい、もの凄く心苦しくなった。
「いや、考えない方が良い……考えない方が……」
ルカは少しの間眠ることにした。
そうして時間が刻々と過ぎて行く。
気が付けばどのくらいだろうか。大体一時間ほど眠りについていた。
すると何かがペタペタ駆けて来る音がした。おまけにゴロゴロと車輪が回る音もする。
「ん?」
ルカは気が付いて目を開けた。
いや、近付いて来ていることには、百メートルは前から気が付いていた。
瞼の裏側の暗闇から抜け出すと、目の前には一匹の地竜が居た。しかし地竜にしては背中に短い翼が生えていて、何処となく見覚えは……あった。
「あれ、この地竜って確か」
千年前に見たことがある。これはナタリーが連れていた地竜だ。
とは言え普通の地竜じゃない。背中の短い翼は今は畳まれているだけ。
本当は飛竜なのだが、そんな話は今は如何だっていい。
問題はこの飛竜がナタリー達エルフ族に仕えるものであり、誰がここに呼んだのかだ。
「まさかナタリー、エルフの森にわざわざこの子を?」
まさか遣わせてくれるとは思わなかった。
ルカは「ふん」と笑いを浮かべてしまうと、何故か飛竜から声が聴こえた。
口をパクパク動かすと、ルカは魔術を使っていないのに、飛竜が喋っている。
「なんで笑っているの?」
「なんでって、私なんかに飛竜を寄越したからだよ」
「ん? 遠いからじゃないの?」
「それもあるけど、まさかエルフ族の竜車に乗せて貰えるとは思わなかったんだよ」
ルカはナタリーに移動手段の手配を頼んだとはいえ、ここまでの厚い待遇とは思わなかった。
現に飛竜の後ろには木組みでできたいい感じの荷車がある。
屋根も扉も窓も付いていて、最高の代物だった。
「それってこれのこと?」
「それのこと」
しかし当の飛竜はその良さに気が付いていない。
当然だ。竜のパワーや価値観からしてみれば、こんなもの必要がない。
自分を縛る枷でしかなく、自由に歩を進めることも叶わないのだ。
「私達のために竜車を引くの、ちょっと嫌でしょ?」
「僕は嫌いじゃないけど?」
「そうなんだ。良い子だね」
ルカはそっと飛竜の頬を撫でた。
するとくすぐったそうに「グギャァ」と鳴いた。
体に傷がない。おまけに大きくもない。この子はまだ子供……いや、大人に成りかけの段階だ。ルカは千年前に見た個体とは違うことを悟ったが、時間の流れとは儚いものだと知っていた。
「それより君は誰? ナタリーから頼まれてきたけど」
「私はルカ。トキワ・ルカ。ナタリーとは古い友人かな」
「そうなんだ! 僕はね、ジュナイダーだよ! ジュナイダー二代目」
「ジュナイダー? あれ、その名前は確か……」
如何やら受け継いでいるらしい。全くナタリーもかなり味のあることをする。
ルカはクスクスと笑いを浮かべると、そっとジュナイダー二代目に手を伸ばす。
「ところでジュナ二はエルフの森に行ったことはある?」
「うん! リタリーに連れて行ってもらったよ!」
「リタリーに? それなら安心だね。それじゃあ……時間まで、遊ぼっか」
ルカはジュナイダー二代目に遊びの誘いを入れてみた。
するとジュナイダー二代目は「やった!」と嬉しそうにはにかんでくれる。
やっぱり子供だ。いくら大人に成りかけの飛竜とは言え、子供っぽさも残っている。
ルカはそっと手を伸ばすと、ジュナイダー二代目と遊ぶことにし、退屈な時間を過ごすことにした。
「それじゃなにをして遊ぶ?」
「うーん……追いかけっこ!」
「追いかけっこ? それじゃあ空でやろうか」
「翼を使ってもいいの! いいのいいの!」
「もちろん。たまには飛ばないと使い物にならないでしょ? それじゃあ私が逃げるから、追いかけて来てね」
「よーし、絶対捕まえるぞ!」
ルカとジュナイダー二代目は朝早くだったこともあり、空へとその姿を逃がした。
一瞬で舞い上がると互いに追いかけっこをし合う。
飛竜らしく翼を広げるジュナイダー二代目に対し、ルカはいつも通りの〈フライ〉だったが、圧倒的なスピードは変らず、いくら飛竜とは言え捕まる気がしない。
少し大人げない遊びを繰り広げるのだった。
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