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村亡編

436.同胞を助けてください!

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 ルカとナタリーは一緒に食卓を囲む。
 千年前は旅をしていて、一時的とはいえ、こうしてナタリーと苦楽を共にしていた。
 この間もその懐かしさを感じたのだが、今日は何やら様子が異なる。
 裏があるのが見え見えで、頼みごとをしにきた感覚だ。

「まあいいか。いただきます」
「いただきます」

 ルカとナタリーは手を合わせて目の前に並べられた食事に手を付ける。
 パンを千切り、とろ~り溶けたチーズを乗せると口の中一杯に広がる。
 旨味が舌の上を闊歩して、唾液を丸ごと喉の奥へと押し流す。
 誰かと取る食事は良い。心から思ったのも束の間。早速ナタリーは本題に入りたい様子で口を開く。

「ところでルカさん」
「この間は雪を降らせたよね。私がナタリーに頼まれて。今年は例年に比べて雪が少ないから、ついでに雪を降らせる魔術を実践して欲しいって」
「は、はい」
「後、街の人達に雪を見せたかったんだよね。私は頼まれたからやってあげたけど、アレで良かったんだよね」
「もちろんです。ルカさんの仕事は完璧でした。本当にお疲れ様でした」
「うん、お疲れ様。それで今日はなにしに来たの? まさかお礼のためにわざわざ手料理を持って来たわけじゃないんだよね」

 ルカは早速大きな鎌を掛けた。首筋にピタッと刃合せて絶対に逃がさない。
 ナタリーは表情を一切崩さないが、蟀谷から血管がピクピクしているのが分かる。
 相当焦っているようで、ルカの前に下手な小細工も嘘も効かないことを知っていた。

「ルカさんはこの休みの間はなにを」
「この間がホーリーで面倒なことになったからね。この冬はゆっくり過ごすことにしているよ。なにかの気晴らしに軽い旅行になら行っても良いけど」
「それでしたら!」
「もちろん面倒ごとも厄介ごとも、ましてや頼まれごとは断固として拒否するけどね」

 ルカはナタリーの口を遮った。
 首筋に刃合わせた刃が一気に口元を抉り、喋らせないように見張りを付ける。
 一言でも余計なことを言えば殺される。ナタリーの中にゾッとするものが這いより、強烈な悪寒が走った。それでもナタリーはグッと胸を押さえて口を開く。ここで怖気づくわけにはいかないからだ。

「ルカさん!」
「なんだい、ナタリー? 悪いけど私は……」
「お願いします!」

 ナタリーは席を立った。
 それから何をするのかと思いきや、床の上で慣れない正座になり土下座をした。
 何が起きたのか分からず、ルカは「はい?」と声にもならなかった。
 けれどナタリーからは精一杯の誠意を感じられ、ここまでする理由が知りたくなる。

「少し落ち着こうかナタリー。土下座なんてしなくていいから」

 大体この街、居やこの地方に土下座の文化はない。
 突然こんなことをされたらみんな困惑してしまい、話しどころではなくなる。
 ましてや相手はあのナタリーだ。この街の市長であり、アルカード魔術学校の校長であり、エルフ族の正当な長であり、なにより現代に残る六大魔術師、否六大魔法使いの一人だった。
 そんな相手に土下座をさせたとなれば、只事では済まない。
 もちろん断わるようなこと、無碍に扱うようなことになれば、その時にはルカの居場所はきっと無くなっているはずだ。権力を盾にするのは困ると、ルカは内心引いていた。

「お願いします。ルカさんにしか頼めないことなんです。どうかお話を聴いてはいただけないでしょうか?」

 ナタリーは土下座をしたまま続けた。
 ルカはしゃがみ込み、ナタリーの頭をポンと撫でる。
 昔からの友人にこんなことをして欲しくないのだ。

「顔を上げてよナタリー」
「ルカ、さん……?」
「私は怒ってないよ。確かに面倒臭いことに巻き込まれるのは嫌だけど、ナタリーがここまでするってことは、よっぽどなにかあるんだよね?」
「……ルカさんは、私に手を貸してくださるのですか?」
「それは話を聴いてからだよ。だからまずは顔を上げて、それか私の手を取って立ってくれるかな?」

 ルカはナタリーの手を取り立ち上がらせた。
 ゆっくり立ち上がると、ルカよりも背が高いからか、自分が子供のように感じてしまう。
 笑みを浮かべるルカとは異なり、ナタリーは薄っすらと涙の筋を垂らしていた。
 どれだけ嬉しいのか。ここまで来ると期待に応えられるか不安になるルカだったが、早速話を窺う。

「それで私に頼みたいことってなに? ちなみに無理難題は止めてね」
「ありがとうございます。それではルカさん……」

 ゴクリと唾液が流れ落ち、喉が詰まりそうになった。
 それでもナタリーは寛容なルカなら如何にかしてくれると思い、思い切って口を開く。
 きっと無茶難題じゃない。そう思ってルカに告げた。

「私の同胞を助けてください。お願いします、ルカさん!」

 直角に礼をしてお願いするナタリー。その姿をルカは無言で見ていた。
 まさかとんでもないことを頼まれるとは思わなかった。
 「同胞を助ける?」全く話が見えて来ず、困惑するルカだったがすぐにナタリーに尋ね返す。それだけじゃ何も分からない。面倒なことになりそうだと思う反面、一見して危険な匂いが漂っていた。
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