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聖夜編

429.クリスマスの翌日

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 あれから更に一夜が明けた。
 クリスマスもイヴが終わり、無事にクリスマスを迎えそれも過ぎた。
 今日を迎えてしまうと、なんというのだろうか。向かい風に煽られている感じがした。

「さてと、町の観光に行こうかな」

 ルカ達は完全にその場の空気に乗り損ねていた。
 それもそのはず、昨日はクリスマス。それを一夜明けてしまうと、今日という日は何と言うこともない普通の日だ。

 その情景については宿の外に出れば一発で分かるはずだった。
 クリスマスもイヴ、当日を超えてしまうと、そこに残るのは喧騒が過ぎ去った寂しい地。
 イベントが終わってしまった残骸で、楽しいこともないと思っていた。

 けれど違っていた。
 まさか違うとは思わず、宿の外の光景に頭を悩ます。

「なんでこんなに人がいるのかな?
「知らないわよ。当日でもないのに、みんな帰り損ねたとは思えないけど。むしろこれからみたいな雰囲気すらあるけど」

 ホーリーの町中は非常にたくさんの人が有象無象に流れていた。
 まるで流れだ。非常に緩やかで濃い流れが何処までも続いてる。

 一体何処までこの流れは続いているのか。
 ルカ達は茫然と眺めることしかできないでいた。
 それもそのはず、今日はイヴでも当日でもないのだ。

「如何なってるのかな?」
「だから知らないわよ。私の方が知りたいわ」
「あはは、でもみんな楽しそう? だよー」
「そうですね。血走ってますね」
「皆さん帰れなかったのでしょうか?」
「そうとは限らないけど……難しいよね」

 もう訳が分からない。
 兎にも角にもこんなところにいたらこの流れにいつまでも乗れず、最悪流される可能性もある。
 せっかく一夜使って体力も魔力も全回復させたのに、これ以上無駄時間を潰すのはせっかくの観光にならなかった。

「よし、行ってみよう」
「そうね。ここにいても仕方ないわ」
「はぐれないように皆さん気を付けましょう!」

 全員揃ってこの流れに飛び込むことにした。
 ルカ達は息を飲みながら流れにスッと乗り込みと、途中で降りることすら困難になる。

 前からも後からも人の圧が忙しなく襲い掛かる。
 息遣いすら聞こえて来て、何処か蒸し暑い。
 人が密集するせいで、服などが摩擦で擦れ合ったり、口から吐き出された二酸化炭素が充満して熱を生む。
 おまけに人の目は血走り、血流の流れはやけに速い。

「あ、熱い」
「本当、観光どころじゃないわね」
「あはは、確かにねー」

 ルカ達は観光どころでは無い気がした。
 けれどこの機会を逃すのも違う。
 ルカ達の目的は町の観光。その場所はただ一つだった。

 もちろんクリスマスツリーじゃない。
 あれはもう見たし、きっと人の束ができている。
 
 となれば一体何を見たいのか。
 きっと普通の人達は見たくもないはずだ。
 けれどルカ達はこの町に来たのだからと、町の高台に向かった。



 高台は公園になっていた。とても小さい公園だ。
 人もまばらしかいない。当然と言えば当然だ。
 今やこの町はクリスマスムードが続いている。おまけに薄い雪が公園に積もっている。
 高台と言う場所も災いして、とても寒くて仕方なかった。

「誰もいないわね」
「そうだね。だけどそれだけの場所ってことかな?」
「なんだか残念ですね」
「ですが私達は見ておいて損はないはずですよ」
「だろうね。おっ、見えて来た」

 高台にある展望台。
 そこには木の丸太で作られた立派な策が施されていた。
 子供達が落っこちる心配もない。
 安心してもたれかかることができるのだ。

「うわぁ。とっても綺麗ですね!」

 ダリアが呟いた。確かに綺麗な光景だった。
 それはまるで幻想的なモニュメント。
 町一色がその様相を生み出していると、ルカ達は達観してしまった。

「本当にそうだね」
「そうよね。町全体が一枚の立体絵になっているなんて」
「しかもこの形……そう言えばこの町ってさー」
「そう言うことだよ。本当に良いよね」

 ルカ達は町並みをただただ見つめていた。
 瞬きを何度もしてこの景色を瞳の中に焼き付ける。
 十分見つめていると、頬を冷たい風が撫でた。
 それを皮切りにして、シルヴィアは口を開く。

「でもルカ、如何してこれが見たかったの?」
「ん?」

 シルヴィアはもっともなことを尋ねた。
 ルカは頭の上ではてなを生み出す。
 けれど答えが欲しいのは全員同意見らしい。

「確かにねー。一昨日も見たよ?」
「ルカさん、この景色にはなにか意味があるんですよね!」
「意味って? そんなものはないよ」

 期待を込められていたが、残念ながらそんな意味はない。
 ルカはきっぱりと呟くと、一言だけ追加はした。
 シルヴィア達が納得していないからだ。

「でもそうだね。この町並みを今まで守って来た偽物に敬意を表したかった、からかな?」
「如何いう意味よ。でもこの町並みを見たら少しだけ分かるけど」

 如何やら理解を示してくれたらしい。
 それもそのはずこの町が生み出す一枚絵は面白い。
 その姿はまさしくサンタ・ク・ロース。赤い服に白い髭。薄っすらとした壁の色が線を繋いで作っていた。

 ルカ達はしばし景色を堪能した。
 すると冷たい風がまた頬を撫でた。
 これ以上いる必要はないかもしれない。
 ルカ達は言葉なく意識で会話をすると、高台を後にするのだった。
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