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聖夜編

427.死体を動かす魔法

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 ルカは紅茶をティーカップに新しく注ぎ直した。
 ほんわりと湯気を出すと、ルカはそっと唇を添える。

 喉の奥を温かくて渋みのある紅茶が流れた。
 美味しい。気持ちがリラックスされる。
 流石はドリアード。美味しい紅茶を用意してくれていると、改めて感じた。

 しかし一人で黄昏ているとドリアードの視線が痛い。
 早く答えを訊きたそうにしていて、眼力が痛いほど伝わる。

「はぁ。そんなに私の知恵を借りたいの?」
「ええ」
「借りれる知恵もないけど?」
「そんなつまらない冗談は面白くないですよ」

 凄い期待で、ルカは唇を噤んだ。
 とんでもなく面倒なことになっている。
 これは早々に切り上げてお暇するべきだ。

 ルカは足りない知恵を振り絞るように、頭の中をグルグル回転させる。
 必要な情報は何なのか。足りないものは何なのか。
 欲しい情報を探るように昔の魔法から魔術を想像した。

「昔の魔法で死者を操る魔法があるんだ。それから死体の中に潜り込む魔法もね。今の時代、そんな非人道的な魔法が魔術として残っているだろうか。正直怪しいけどね」

 ルカは紅茶を飲みながらそう答えた。
 するとドリアードはムッとした表情を浮かべる。
 当然だ。そんな冒涜的行為を大地の精霊がわざわざするはずもない。理解し難いのだ。

 けれどそれすら一旦無視して考えてみよう。
 ルカは足りなかったピースを埋めるように、一級指定禁止魔法を組み合わせる。

 死体と遺体は同じく屍ではあるが、言葉の重みも丁重具合も全く違う。
 けれど今回の場合、見つかった男の遺体を改めて死体と捉える。
 すると如何なるか。単純だ。簡単に言えば、死体を使えてしまうのだ。

「つまり、何処からか持ち寄った男の遺体を操り、まるで生きているかのように見せたと?」
「あるいは、遺体の中に入り込んで操っていた。私はこっちの方が可能性としては高いと思うよ。なにせ魔力が断片的に残っているらしいからね」

 ドリアードは眉根を寄せていた。
 しかしルカは淡々と呟くと、今までに経験してきた魔法の知識から推測をする。
 ドリアードの話から、おそらくは誰かが死体の中に入っていたとしか思えない。
 ルカは確率的にも高いと思い、ドリアードに話したのだが、ムッとした表情を浮かべていた。

「そんな卑劣な真似を平気でできるとは……」
「にわかには信じ難いかな? 残念だけど、人間はそれくらい平気でやるよ。もちろん全員が双じゃないけれど、たかが外れるとあらゆる闇に手を染めるからね」

 ルカは人間という生き物のことを全て解っているとは言えない。
 だけどそういう非道な行いをする人間は少なからずいる。
 けれどそれと同族が諭すのはあまりにも苦しいものがあった。

「本当に愚かな生き物です」
「それが人間なんだよ。にしても驚いたな。まさか死体の中に入る魔法がまだ残っているなんて。いや、固有魔術を魔法並みに極めたからできたとか? どのみちかなり難易度は高いよ」
「そうなの? 私には分からないけれど」
「一級危険魔法だよ? 私の知ってる特級禁止魔法には少し効力が弱いけど、それでも絶大だよ」

 一級魔法は難易度が高い。習得には時間と訓練が必要だ。
 けれど禁止魔法となれば話は違う。
 そもそも公に公表されることもなく、古い書物や言伝でしか伝わらないのだ。
 だからだろうか。現代にまで根付いていること自体が異質過ぎた。

「本当使わない方が良いよ」
「貴女は使えるの?」
「私? うわぁ、なにその目。私のことを疑っているなら残念だけど違うよ。でもその質問への答えは持っている」

 まさかの疑いの目を向けられてしまった。
 しかしそれも分かる。何せその魔法を使える魔法使いはそういないからだ。

「もちろんYESだよ。私は使える。使えるけど使わないだけ」
「そうですか。これからも使わないでくださいね」
「分かってるよ。そんな出番要らないから」

 ルカは笑顔で答えた。これで信じて貰えたかは不明だ。
 けれどドリアードは頭を抱えてしまった。
 正直これ以上のことは手に余るのだ。

「はぁ。もう、訳が分からない。このまま時間が解決してくれたらいいのに」
「あはは、解決はしてくれるだろうね。でも行動を起こすことは大事だよ」
「分かったような口を利かないで欲しい」
「ごめんごめん。だって他人事だからね」

 そう言うとルカは紅茶に再び手を付ける。
 スッと喉を流れる茶葉の味と香りがとても美味しかった。
 
「そう言えばルカさん、もう一つ不思議なことがあったよ」
「不思議なこと?」
「他に三つ、人の温もりがあった。だけど暗くて悍ましくて、とても温かくはなかったけれど」

 ルカは目を見開き、眉根を寄せてしまった。
 紅茶を再度飲もうとするがその手すら止まってしまう。

「新事実だね。と言うことは集団だったわけだ」
「複数人が相手となると、この町の一件だけでは済まなくなります」
「それこそ国際問題だよ。私の出る幕じゃない」

 ルカは完全にスルーすることを決めた。
 ドリアードは一人頭を悩ませると、如何にもできないことの限りで心底崩れそうだった。
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