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聖夜編
426.消えた男と残された遺体の謎
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ルカとドリアードは神妙な顔付きになった。
ここまで積み上げて来た明るい空気が一変する。
一体何処に消えてしまったのかと思うくらい、重苦しい雰囲気が漂った。
ルカとドリアードが気にかけているのは孤児院を襲った誘拐犯の連中だ。
おそらく今回だけではない。
以前からこの手の犯罪に手を染めていたに違いなかった。
「ルカさん、貴女はどうお考えですか?」
「如何とは?」
「今回の誘拐未遂事件、あの男達がこれまでに絡んできた事件の数々、如何お考えですか?」
「如何と言われても困るかな。ただし、あの男達が他の事件に絡んでいる可能性はゼロではないからね。仮に誘拐をしていなかったとしても、未遂という結果は生まれた。それだけで十分だよ」
ルカは特に興味を抱いていなかった。
むしろ考えるところはそこではなく、ルカが頭を使う余地はない。
この事案は町や国が頭を悩ます話で、ルカが関わる方がおかしかった。
「確かに、誘拐未遂自体は起こってしまった結果」
「そういうことだよ。問題は他の事件に加担している場合。国際問題にもなりかねないからね」
「やはりそうですか」
如何考えても、国際問題の筈だ。
ダリアも後でスカーレット王国にこの話を持ち帰る予定らしい。
そんな中、ルカ自身は面倒に巻き込まれなければと、心から願っていた。
もちろん手伝えることはあるかもしれないが、そこまで手を貸す義理は無いのだ。
だからだろうか。前以って釘を刺すことにした。
「悪いけど、私に頼らないでね。なにもしてあげられないし、する気も無いから」
「ん? 貴女は非情な人間ですね。同じ種族でありながら、その態度」
「仕方ないよ。結局他人は他人。人間は大勢の意見には従うが、個としての力は著しく非力。だから他人に何て興味は無いし、目を向けている時間はない。自分も大事にできないし、他人のことも大事にできない、憐れな生き物なんだから」
ルカは人間賛歌を口にした。否、人間の愚かさを強調した。
するとドリアードは不敵な笑みを浮かべた。
当たり前だ。精霊と人間では根本で違う面があるのだ。
「烏滸がましい考えです」
「そうかな。私は私の考えを準じているだけだよ?」
「それが烏滸がましいんですよ」
ルカは自分の考えを間違っているとは言わなかった。
人間誰しも自分なりの考えと根拠を持っている。
だからルカはドリアードに咎められても頑固なまでに自分の根拠を突き通した。
「まあそれはいいとして、男達への尋問は如何なってるのかな?」
「続いていますよ。とは言え、いくら問おうが欲しい情報は吐きませんがね」
「だろうね。それじゃあなにか分かったことはあるの?」
ルカはここまでの話を聞いていなかったのか、あまりにも矛盾することを尋ねた。
するとドリアードは食い付くことはせず、淡々と呟いた。
如何やら最初から理解してくれていたらしい。
「私の能力を使って分かったのは、やはり逃げた男の行方です」
「そうだよね。取り逃したこと、シルヴィに散々怒られたよ」
ルカもドリアードも一番危惧していたのは逃げた召喚士だ。
もっとも、本当に召喚士だったのかすら危うい。
あれだけ卓越した魔術の使い手だ。召喚士は建前と見てもおかしくは無く、ライラックの攻撃をわざと食らい、意識がモンスターに向いている隙に逃げる算段と整えていたとしか思えないのだ。
全く、賢くて実力もある程度備えた魔術師は面白くて厄介だ。
「それで見つかったの?」
「私のこの反応で見つかったと思っているの?」
「思ってないよ。どうせ見つかってないんでしょ?」
「ムカッ!」
ドリアードは怒っていた。眉根を寄せていた。
ルカは可愛いなと思ったが、口に出すとブチ切れされそうなので敢えて無言を貫く。
しかしドリアードはその隙を見逃さず、ルカを非難する。
「そういう貴女は見つかったんですか?」
「いいや、流石に私は世界の全てを見通す目もあらゆる生物を探知する力も持ってないよ。それに興味もないからね」
ルカは自分のことを顕著に見てはいなかった。
だからだろうか。おごり高ぶることもなく、冷静に無理なものは無理だと伝える。
「それで私を非難したんですか?」
「とは言え、魔力の断片は覚えたよ。魂の一部、波動くらいは感じたかな」
次に会ったら見間違うことはないだろう。
ルカは自信満々に笑みを浮かべていた。
「それくらいなら私も感じ取りましたよ」
「えっ、本当? 凄いね、もうそこまで進んでたんだ」
ルカは素直に驚いた。流石はこの町の市長であり大地の精霊だ。
おまけにルカに教えてくれたのは、それに伴う不思議な事件だった。
ムッと唇を噛むと、ルカに知恵を借りたい素振りを見せる。
「ただ、おかしなことに途中で魔力の波動と断片がプッツリ消えていたんです」
「消えてた? へぇ、隠すのが上手いんだね」
「そうではなく、別人の魔力にすり替えられていたんです」
「はっ? すり替えるってなに、まるで別人みたいな言い方だね」
「そう言うことですよ。私が見つけたのは大地に横たわる男の遺体。あまりに不自然な状況で、貴女を知恵を借りたいんです」
ドストレートに申し出喰らってしまった。
とは言え不思議なこともあるものだ。今の時代にそんな不可思議な真似をするなんてと、ルカは紅茶を飲みながら、ティーポットから新しい紅茶を注ぐのだった。
ここまで積み上げて来た明るい空気が一変する。
一体何処に消えてしまったのかと思うくらい、重苦しい雰囲気が漂った。
ルカとドリアードが気にかけているのは孤児院を襲った誘拐犯の連中だ。
おそらく今回だけではない。
以前からこの手の犯罪に手を染めていたに違いなかった。
「ルカさん、貴女はどうお考えですか?」
「如何とは?」
「今回の誘拐未遂事件、あの男達がこれまでに絡んできた事件の数々、如何お考えですか?」
「如何と言われても困るかな。ただし、あの男達が他の事件に絡んでいる可能性はゼロではないからね。仮に誘拐をしていなかったとしても、未遂という結果は生まれた。それだけで十分だよ」
ルカは特に興味を抱いていなかった。
むしろ考えるところはそこではなく、ルカが頭を使う余地はない。
この事案は町や国が頭を悩ます話で、ルカが関わる方がおかしかった。
「確かに、誘拐未遂自体は起こってしまった結果」
「そういうことだよ。問題は他の事件に加担している場合。国際問題にもなりかねないからね」
「やはりそうですか」
如何考えても、国際問題の筈だ。
ダリアも後でスカーレット王国にこの話を持ち帰る予定らしい。
そんな中、ルカ自身は面倒に巻き込まれなければと、心から願っていた。
もちろん手伝えることはあるかもしれないが、そこまで手を貸す義理は無いのだ。
だからだろうか。前以って釘を刺すことにした。
「悪いけど、私に頼らないでね。なにもしてあげられないし、する気も無いから」
「ん? 貴女は非情な人間ですね。同じ種族でありながら、その態度」
「仕方ないよ。結局他人は他人。人間は大勢の意見には従うが、個としての力は著しく非力。だから他人に何て興味は無いし、目を向けている時間はない。自分も大事にできないし、他人のことも大事にできない、憐れな生き物なんだから」
ルカは人間賛歌を口にした。否、人間の愚かさを強調した。
するとドリアードは不敵な笑みを浮かべた。
当たり前だ。精霊と人間では根本で違う面があるのだ。
「烏滸がましい考えです」
「そうかな。私は私の考えを準じているだけだよ?」
「それが烏滸がましいんですよ」
ルカは自分の考えを間違っているとは言わなかった。
人間誰しも自分なりの考えと根拠を持っている。
だからルカはドリアードに咎められても頑固なまでに自分の根拠を突き通した。
「まあそれはいいとして、男達への尋問は如何なってるのかな?」
「続いていますよ。とは言え、いくら問おうが欲しい情報は吐きませんがね」
「だろうね。それじゃあなにか分かったことはあるの?」
ルカはここまでの話を聞いていなかったのか、あまりにも矛盾することを尋ねた。
するとドリアードは食い付くことはせず、淡々と呟いた。
如何やら最初から理解してくれていたらしい。
「私の能力を使って分かったのは、やはり逃げた男の行方です」
「そうだよね。取り逃したこと、シルヴィに散々怒られたよ」
ルカもドリアードも一番危惧していたのは逃げた召喚士だ。
もっとも、本当に召喚士だったのかすら危うい。
あれだけ卓越した魔術の使い手だ。召喚士は建前と見てもおかしくは無く、ライラックの攻撃をわざと食らい、意識がモンスターに向いている隙に逃げる算段と整えていたとしか思えないのだ。
全く、賢くて実力もある程度備えた魔術師は面白くて厄介だ。
「それで見つかったの?」
「私のこの反応で見つかったと思っているの?」
「思ってないよ。どうせ見つかってないんでしょ?」
「ムカッ!」
ドリアードは怒っていた。眉根を寄せていた。
ルカは可愛いなと思ったが、口に出すとブチ切れされそうなので敢えて無言を貫く。
しかしドリアードはその隙を見逃さず、ルカを非難する。
「そういう貴女は見つかったんですか?」
「いいや、流石に私は世界の全てを見通す目もあらゆる生物を探知する力も持ってないよ。それに興味もないからね」
ルカは自分のことを顕著に見てはいなかった。
だからだろうか。おごり高ぶることもなく、冷静に無理なものは無理だと伝える。
「それで私を非難したんですか?」
「とは言え、魔力の断片は覚えたよ。魂の一部、波動くらいは感じたかな」
次に会ったら見間違うことはないだろう。
ルカは自信満々に笑みを浮かべていた。
「それくらいなら私も感じ取りましたよ」
「えっ、本当? 凄いね、もうそこまで進んでたんだ」
ルカは素直に驚いた。流石はこの町の市長であり大地の精霊だ。
おまけにルカに教えてくれたのは、それに伴う不思議な事件だった。
ムッと唇を噛むと、ルカに知恵を借りたい素振りを見せる。
「ただ、おかしなことに途中で魔力の波動と断片がプッツリ消えていたんです」
「消えてた? へぇ、隠すのが上手いんだね」
「そうではなく、別人の魔力にすり替えられていたんです」
「はっ? すり替えるってなに、まるで別人みたいな言い方だね」
「そう言うことですよ。私が見つけたのは大地に横たわる男の遺体。あまりに不自然な状況で、貴女を知恵を借りたいんです」
ドストレートに申し出喰らってしまった。
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