上 下
420 / 551
聖夜編

416.子供達に眠って貰おう

しおりを挟む
 ルカは一仕事を終えた。
 我ながら良い魔法をプレゼントとして贈ったとご満悦だ。
 とは言えこの魔法を理解できる人がどれだけこの町にいるだろうか?
 正直に言えばゼロに近いが、ルカは満足したので《フライ》で下りようとした。

「あっ!」

 だけど追加でやらないといけないことを思い出す。
 このままじゃ絶対に足りない。そう感じたルカは追加で魔術を掛けた。

「今回は超強力な……になるとマズいから、子供だけを眠らせる魔術を《リトル・スリープ》!」

 ルカは残った魔力を消費し魔術を使った。
 両手をパンと勢い良く叩くと、夜の静けさに相まって音が良く響いた。
それから叩いてくっつけた手を離すと、緑と紫の丁度中間の色合いをした魔力の粉が雪に浸透する。怪しい毒のようだけど、ルカには確信があった。

(これを浴びれば間違いない。さて、もう一仕事しましょうか)

 ルカは肩をグルングルン回した。
 体に染み付いた多少の疲れを取っ払うと、雲を突き破らないように反対に回り込みガラゆっくりと急降下するのだった。


 地上ではルカの贈ったプレゼントに視線を奪われる魔術師達の姿があった。
 ボーッとなって、心の淀みが綺麗さっぱり消えていく。
 目が虚ろになり、まるでオーロラの不思議な輝きに誘われ、幻想の世界に引き込まれる寸前のようだった。

「良いものが見られましたね」
「そうね。ついついうっとり見惚れちゃってたわね」

 ブルースターを口火にシルヴィアがギリギリ我に返る。
 危うく幻想の世界に引き込まれる寸前で、無事に帰ってくることができた。
 ホッと一息を付くと心の奥からスッキリする。
 ルカの使った魔術とは分かっているが、これだけ心が安らぐなら文句なしだった。

「あのまま引き込まれてたらどうなってたのかしら?」
「分からないけどー。きっと気持ち良かったんじゃないかなー?」
「そうね。まるで天国だったわ」
「あはは、シルヴィは夢見るのが上手いなー」
「あの、教会を任されている私の前でその手の話は止めていただけますか? 一応立場がありますので」
「あはは、ごめんごめーん」

 ダラリとした会話を展開するライラックだったが、ブルースターに止められた。
 グッと押し黙るとそれ以上言わなくなった。
 おかげだろうか。ダリアを始め、ジルア達も全員帰って来る。

「あっ!? い、今のは一体……」
「なにが起きたんだろうねぇ?」
「分かりませんが、心の淀みが解消されたようです。全く大した魔術だ……いや、これは魔術なのか?」

 ゴライアスは未だに疑念を抱き怪しんでいた。
 けれど心の淀みが消えたことで闇の魔術師と言う可能性は消えた。
 ゴライアスは自らの過ちを悔い、シルヴィア達に謝る。

「先程は失礼を行ってしまい、すみませんでした」

 急に頭を下げるのでシルヴィア達は驚く。
 けれどすぐに事情を察してしまった。
 だからだろうか。ここは痛み分けで両者が代表で謝る。

「こちらこそ、本人がいない前で勝手に激論になってしまいごめんなさい」
「けれど、これでルカさんへの疑いが晴れてなによりです」
「なんでダリアが誇らしそうなのかなー?」

 シルヴィアが謝る横で、ダリアが小さくガッツポーズを取っていた。
 ライラックは的確にいじってみせるが、それ以上のことにはならなかった。
 これでようやく一段落。皮切りに丁度よいのか、子供達が大きな欠伸を掻いた。

「「「ふはぁー」」」

 眠たそうに目元を擦っていた。
 突然眠たくなったらしく、体がふにゃふにゃになっていた。

「皆さん、もう遅いので寝ましょうね」

 ジルアが子供達に優しく声を掛ける。
 コクコクと首を縦に振りながら、今にも倒れてしまいそうだった。

「子供はすぐに寝ちゃうのね」
「だけどさー、あまりにも唐突じゃない?」
「そうですね。もしかするとこの雪に……ん?」

 ブルースターが目で追った。
 すると白い雪の中に、細かくて一瞬しか視認できないレベルの雪が混ざっている。
 魔力を帯びているのか、緑と紫の丁度間くらいの色をしていた。
 この雪に触れたせいで眠たくなったのか? ブルースターは手に触れて指で擦ってみるが、全く眠くならなかった。

「なにやってるのよ、ブルースター?」
「いえ、この雪に触れたせいで眠たくなったのかと思ったのですが、どうやら勘違いでしょうか?」

 とは言えこれくらいしか眠たくなる要因も見つからない。
 もしかしたらルカに混じった新手の魔術師の仕業かもしれない。
 そう思って最悪に備えて警戒していた。
 けれど無駄だと悟った。

「ちゃんと子供達は眠ったんだね」

 ブルースター達は振り返った。
 そこに居たのは一仕事を終えたルカだった。
 清々しい顔をしていて、子供達が眠ったか確認を取っていた。

「ルカさん、子供達が眠った理由をご存じですか?」
「ご存じもなにも私の仕業だよ。子供達に起きててもらうと、私達のバイトができないからね」

 ルカは平然と口にした。
 子供達は眠っているのでもういいと思ったのだ。

「そ、そうだったんですね」
「ふぅ。連戦にならなくて安心したわ」

 ブルースターとシルヴィアはホッと胸を撫で下ろした。
 ルカの仕業だと判り安心しきったらしい。

「安心しているところ悪いけど、急ぐよ。魔力切れを起こしているなら休んでても良いけど、動けるなら急いでプレゼントを全員分運ばないと」

 ルカは子供達が眠っているからか、堂々と発した。
 子供の夢を壊さないために、ルカなりに考えた策だったが、ダリアは乗ってくれた。

「そうですね。皆さん、最後に頑張りましょう!」
「はいはーい。それじゃあ適当にやっちゃうよー」

 ライラックは糸を飛ばした。
 魔法の袋の中に伸ばした糸がプレゼントと宙に浮かせる。
 これなら早く済みそうだ。ルカ達は最後まで気を抜かずに頑張った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...