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聖夜編
416.子供達に眠って貰おう
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ルカは一仕事を終えた。
我ながら良い魔法をプレゼントとして贈ったとご満悦だ。
とは言えこの魔法を理解できる人がどれだけこの町にいるだろうか?
正直に言えばゼロに近いが、ルカは満足したので《フライ》で下りようとした。
「あっ!」
だけど追加でやらないといけないことを思い出す。
このままじゃ絶対に足りない。そう感じたルカは追加で魔術を掛けた。
「今回は超強力な……になるとマズいから、子供だけを眠らせる魔術を《リトル・スリープ》!」
ルカは残った魔力を消費し魔術を使った。
両手をパンと勢い良く叩くと、夜の静けさに相まって音が良く響いた。
それから叩いてくっつけた手を離すと、緑と紫の丁度中間の色合いをした魔力の粉が雪に浸透する。怪しい毒のようだけど、ルカには確信があった。
(これを浴びれば間違いない。さて、もう一仕事しましょうか)
ルカは肩をグルングルン回した。
体に染み付いた多少の疲れを取っ払うと、雲を突き破らないように反対に回り込みガラゆっくりと急降下するのだった。
地上ではルカの贈ったプレゼントに視線を奪われる魔術師達の姿があった。
ボーッとなって、心の淀みが綺麗さっぱり消えていく。
目が虚ろになり、まるでオーロラの不思議な輝きに誘われ、幻想の世界に引き込まれる寸前のようだった。
「良いものが見られましたね」
「そうね。ついついうっとり見惚れちゃってたわね」
ブルースターを口火にシルヴィアがギリギリ我に返る。
危うく幻想の世界に引き込まれる寸前で、無事に帰ってくることができた。
ホッと一息を付くと心の奥からスッキリする。
ルカの使った魔術とは分かっているが、これだけ心が安らぐなら文句なしだった。
「あのまま引き込まれてたらどうなってたのかしら?」
「分からないけどー。きっと気持ち良かったんじゃないかなー?」
「そうね。まるで天国だったわ」
「あはは、シルヴィは夢見るのが上手いなー」
「あの、教会を任されている私の前でその手の話は止めていただけますか? 一応立場がありますので」
「あはは、ごめんごめーん」
ダラリとした会話を展開するライラックだったが、ブルースターに止められた。
グッと押し黙るとそれ以上言わなくなった。
おかげだろうか。ダリアを始め、ジルア達も全員帰って来る。
「あっ!? い、今のは一体……」
「なにが起きたんだろうねぇ?」
「分かりませんが、心の淀みが解消されたようです。全く大した魔術だ……いや、これは魔術なのか?」
ゴライアスは未だに疑念を抱き怪しんでいた。
けれど心の淀みが消えたことで闇の魔術師と言う可能性は消えた。
ゴライアスは自らの過ちを悔い、シルヴィア達に謝る。
「先程は失礼を行ってしまい、すみませんでした」
急に頭を下げるのでシルヴィア達は驚く。
けれどすぐに事情を察してしまった。
だからだろうか。ここは痛み分けで両者が代表で謝る。
「こちらこそ、本人がいない前で勝手に激論になってしまいごめんなさい」
「けれど、これでルカさんへの疑いが晴れてなによりです」
「なんでダリアが誇らしそうなのかなー?」
シルヴィアが謝る横で、ダリアが小さくガッツポーズを取っていた。
ライラックは的確にいじってみせるが、それ以上のことにはならなかった。
これでようやく一段落。皮切りに丁度よいのか、子供達が大きな欠伸を掻いた。
「「「ふはぁー」」」
眠たそうに目元を擦っていた。
突然眠たくなったらしく、体がふにゃふにゃになっていた。
「皆さん、もう遅いので寝ましょうね」
ジルアが子供達に優しく声を掛ける。
コクコクと首を縦に振りながら、今にも倒れてしまいそうだった。
「子供はすぐに寝ちゃうのね」
「だけどさー、あまりにも唐突じゃない?」
「そうですね。もしかするとこの雪に……ん?」
ブルースターが目で追った。
すると白い雪の中に、細かくて一瞬しか視認できないレベルの雪が混ざっている。
魔力を帯びているのか、緑と紫の丁度間くらいの色をしていた。
この雪に触れたせいで眠たくなったのか? ブルースターは手に触れて指で擦ってみるが、全く眠くならなかった。
「なにやってるのよ、ブルースター?」
「いえ、この雪に触れたせいで眠たくなったのかと思ったのですが、どうやら勘違いでしょうか?」
とは言えこれくらいしか眠たくなる要因も見つからない。
もしかしたらルカに混じった新手の魔術師の仕業かもしれない。
そう思って最悪に備えて警戒していた。
けれど無駄だと悟った。
「ちゃんと子供達は眠ったんだね」
ブルースター達は振り返った。
そこに居たのは一仕事を終えたルカだった。
清々しい顔をしていて、子供達が眠ったか確認を取っていた。
「ルカさん、子供達が眠った理由をご存じですか?」
「ご存じもなにも私の仕業だよ。子供達に起きててもらうと、私達のバイトができないからね」
ルカは平然と口にした。
子供達は眠っているのでもういいと思ったのだ。
「そ、そうだったんですね」
「ふぅ。連戦にならなくて安心したわ」
ブルースターとシルヴィアはホッと胸を撫で下ろした。
ルカの仕業だと判り安心しきったらしい。
「安心しているところ悪いけど、急ぐよ。魔力切れを起こしているなら休んでても良いけど、動けるなら急いでプレゼントを全員分運ばないと」
ルカは子供達が眠っているからか、堂々と発した。
子供の夢を壊さないために、ルカなりに考えた策だったが、ダリアは乗ってくれた。
「そうですね。皆さん、最後に頑張りましょう!」
「はいはーい。それじゃあ適当にやっちゃうよー」
ライラックは糸を飛ばした。
魔法の袋の中に伸ばした糸がプレゼントと宙に浮かせる。
これなら早く済みそうだ。ルカ達は最後まで気を抜かずに頑張った。
我ながら良い魔法をプレゼントとして贈ったとご満悦だ。
とは言えこの魔法を理解できる人がどれだけこの町にいるだろうか?
正直に言えばゼロに近いが、ルカは満足したので《フライ》で下りようとした。
「あっ!」
だけど追加でやらないといけないことを思い出す。
このままじゃ絶対に足りない。そう感じたルカは追加で魔術を掛けた。
「今回は超強力な……になるとマズいから、子供だけを眠らせる魔術を《リトル・スリープ》!」
ルカは残った魔力を消費し魔術を使った。
両手をパンと勢い良く叩くと、夜の静けさに相まって音が良く響いた。
それから叩いてくっつけた手を離すと、緑と紫の丁度中間の色合いをした魔力の粉が雪に浸透する。怪しい毒のようだけど、ルカには確信があった。
(これを浴びれば間違いない。さて、もう一仕事しましょうか)
ルカは肩をグルングルン回した。
体に染み付いた多少の疲れを取っ払うと、雲を突き破らないように反対に回り込みガラゆっくりと急降下するのだった。
地上ではルカの贈ったプレゼントに視線を奪われる魔術師達の姿があった。
ボーッとなって、心の淀みが綺麗さっぱり消えていく。
目が虚ろになり、まるでオーロラの不思議な輝きに誘われ、幻想の世界に引き込まれる寸前のようだった。
「良いものが見られましたね」
「そうね。ついついうっとり見惚れちゃってたわね」
ブルースターを口火にシルヴィアがギリギリ我に返る。
危うく幻想の世界に引き込まれる寸前で、無事に帰ってくることができた。
ホッと一息を付くと心の奥からスッキリする。
ルカの使った魔術とは分かっているが、これだけ心が安らぐなら文句なしだった。
「あのまま引き込まれてたらどうなってたのかしら?」
「分からないけどー。きっと気持ち良かったんじゃないかなー?」
「そうね。まるで天国だったわ」
「あはは、シルヴィは夢見るのが上手いなー」
「あの、教会を任されている私の前でその手の話は止めていただけますか? 一応立場がありますので」
「あはは、ごめんごめーん」
ダラリとした会話を展開するライラックだったが、ブルースターに止められた。
グッと押し黙るとそれ以上言わなくなった。
おかげだろうか。ダリアを始め、ジルア達も全員帰って来る。
「あっ!? い、今のは一体……」
「なにが起きたんだろうねぇ?」
「分かりませんが、心の淀みが解消されたようです。全く大した魔術だ……いや、これは魔術なのか?」
ゴライアスは未だに疑念を抱き怪しんでいた。
けれど心の淀みが消えたことで闇の魔術師と言う可能性は消えた。
ゴライアスは自らの過ちを悔い、シルヴィア達に謝る。
「先程は失礼を行ってしまい、すみませんでした」
急に頭を下げるのでシルヴィア達は驚く。
けれどすぐに事情を察してしまった。
だからだろうか。ここは痛み分けで両者が代表で謝る。
「こちらこそ、本人がいない前で勝手に激論になってしまいごめんなさい」
「けれど、これでルカさんへの疑いが晴れてなによりです」
「なんでダリアが誇らしそうなのかなー?」
シルヴィアが謝る横で、ダリアが小さくガッツポーズを取っていた。
ライラックは的確にいじってみせるが、それ以上のことにはならなかった。
これでようやく一段落。皮切りに丁度よいのか、子供達が大きな欠伸を掻いた。
「「「ふはぁー」」」
眠たそうに目元を擦っていた。
突然眠たくなったらしく、体がふにゃふにゃになっていた。
「皆さん、もう遅いので寝ましょうね」
ジルアが子供達に優しく声を掛ける。
コクコクと首を縦に振りながら、今にも倒れてしまいそうだった。
「子供はすぐに寝ちゃうのね」
「だけどさー、あまりにも唐突じゃない?」
「そうですね。もしかするとこの雪に……ん?」
ブルースターが目で追った。
すると白い雪の中に、細かくて一瞬しか視認できないレベルの雪が混ざっている。
魔力を帯びているのか、緑と紫の丁度間くらいの色をしていた。
この雪に触れたせいで眠たくなったのか? ブルースターは手に触れて指で擦ってみるが、全く眠くならなかった。
「なにやってるのよ、ブルースター?」
「いえ、この雪に触れたせいで眠たくなったのかと思ったのですが、どうやら勘違いでしょうか?」
とは言えこれくらいしか眠たくなる要因も見つからない。
もしかしたらルカに混じった新手の魔術師の仕業かもしれない。
そう思って最悪に備えて警戒していた。
けれど無駄だと悟った。
「ちゃんと子供達は眠ったんだね」
ブルースター達は振り返った。
そこに居たのは一仕事を終えたルカだった。
清々しい顔をしていて、子供達が眠ったか確認を取っていた。
「ルカさん、子供達が眠った理由をご存じですか?」
「ご存じもなにも私の仕業だよ。子供達に起きててもらうと、私達のバイトができないからね」
ルカは平然と口にした。
子供達は眠っているのでもういいと思ったのだ。
「そ、そうだったんですね」
「ふぅ。連戦にならなくて安心したわ」
ブルースターとシルヴィアはホッと胸を撫で下ろした。
ルカの仕業だと判り安心しきったらしい。
「安心しているところ悪いけど、急ぐよ。魔力切れを起こしているなら休んでても良いけど、動けるなら急いでプレゼントを全員分運ばないと」
ルカは子供達が眠っているからか、堂々と発した。
子供の夢を壊さないために、ルカなりに考えた策だったが、ダリアは乗ってくれた。
「そうですね。皆さん、最後に頑張りましょう!」
「はいはーい。それじゃあ適当にやっちゃうよー」
ライラックは糸を飛ばした。
魔法の袋の中に伸ばした糸がプレゼントと宙に浮かせる。
これなら早く済みそうだ。ルカ達は最後まで気を抜かずに頑張った。
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