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聖夜編

410.ジルアの怪我を診に行きましょうか

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 振動が収まった。
 孤児院は外が激しい戦闘になり、その影響で中まで音が響き、振動が伝わっていた。
 今にも倒壊するんじゃないか。そんな恐怖と戦いながら、傷だらけのジルアと子供達は建物の端の方により、壁に背を付け震えていた。

「ううっ、怖いよ。また揺れたよぉ」

 カザリは一番震えていた。
 既に半べそをかいていて、涙袋に涙を溜め込んでいる。
 体が痙攣し震えている。不安と恐怖で一杯になったようで、冷たくなっていた。

「大丈夫ですよ皆さん。きっとすぐに収まりますから」

 ジルアは必至に子供達をあやした。
 不安や恐怖に対抗すべく、声だけは決して途切れさせない。
 明るい言葉で元気を送り、不安を取り除こうとする。
 けれど勘の良いグレイとゲイルは気が付いていた。ジルアは相当無理をしている。

「ジルアお姉ちゃん。傷が……」
「このままじゃ開いちまうよ」

 ジルアは相当怪我をしていた。痛みが激しく全身を蠢きながら駆ける。
 それを持ち前の優しさで決して見せないように振舞う。
 表情にはやや苦渋が見え、眉がピクピクしていた。
 自分のことよりも子供達を大事にしている証拠だ。

「大丈夫ですよ。ジルアお姉ちゃんは強いですから」

 ジルアはやせ我慢をしていた。流石にミューイやカザリも伝わる。
 けれど自分の不安で押し潰されそうで、ジルアのことを気遣えない。
 こんな時に回復魔術が使えたら。グレイとゲイルは自分達の不甲斐なさを呪った。

「本当に。どうして急に振動が止まったのでしょうか?」

 壁に背を付けているとよく分かる。
 突然激しかった揺れも振動も何もかもがピタッと止まった。
 もしかしたら終わったのかもしれない。それは何が? ジルアは見えないものの足音に恐怖して、自分の心が砕けるんじゃないかと思った。
 
 その度に子供達をギュッと抱き寄せる。
 体は冷たいのに、触れあうと温かい。
 おかげでまだ立ち直れた。ジルアは早くこの恐怖から解放されたいと強く望むのだった。



 とりあえず、一段落は付いた。
 怪しい子供攫いの男達はまとめて縛り上げ、ウォビュートモールも息絶えた。
 荒れ果てたのは近くの森と庭先、それから孤児院の建物が少々と言ったところ。
 これくらいならホーリーの技術を使えば簡単に治せる。
 大きな被害が出なくて良かったと胸を撫で下ろすが、一つ気になることがあった。

「さっきからジルアの姿が無いけど、何処に行ったのー?」

 ライラックが質問を投げた。
 こんな一大事に顔を出さないのはあまりにも不自然。
 きっと何かあったのではと、ライザーとゴライアスは気が気でない。流石に同僚だ。

「私達が来た時には居たよね?」
「そうね。一人で子供達を庇って交戦してたわ」
「「ジルアが交戦!?」」

 ライザーとゴライアスはとんでもない速度で食い付いた。
 流石にジルアが一人では戦えないと判っているのだ。
 無論、その心配は大きかった。ジルアの姿が無いということは今頃酷いことになっている。二人の顔に焦りが見え始め、急いで探しに向かう。

「ルカ、私達も探しに行くわよ」
「そうだね。あれだけの傷を負っていたら血液も相当失っているはずだ」

 ジルアのことだから、自分よりも子供を優先する。
 孤児院の鑑の様な人だと判っているからこそ、男達の攻撃を一手に引き受けた。
 幸い、最後に姿を見た時から魔力の流れを読んでいた。
 まだ息はある。けれどかなり弱っていて動かない。これは手早く診ないと手遅れになるかもしれないと、全員の先導を切った。

「多分こっちだね。それじゃあ行こうか」
「こっちって、ルカ分かるの?」
「当然だよ。あれだけ攻撃を受けたんだ。きっと手がかりも……ほら」

 孤児院の崩れた壁から中に入った。
 剥き出しになった廊下には、たくさんの血液が滴っている。
 同じ色味をしていて、同一人物のもの。
 消す余裕なんてなく、丁寧に跡を残していた。ダリアは魔眼を使い確認を取る。

「ジルアさんのものです。魔力が弱く、かなり衰弱していますね」
「血液が減って、酸欠を起こしているのかもね。これは《パーフェクト・ヒール》じゃない方が良さそうだ」

 過剰出血は最悪死に至る。ルカの中で方針が変わった。

(《パーフェクト・ヒール》はあくまでも怪我を完璧に治す。血液は少ししか回復しない……そうだ!)

 別の魔術を使って治すことにしたルカは向かいながら頭を使った。
 血液が減っているならと、亜空間から取り出すアイテムを決める。
 手遅れになっていなければいいのだが。不安が微かに過りつつも、きっと大丈夫だと高を括って信じるのだった。
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