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聖夜編
395.ダリアと小男②
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口元を覆って、今更ながらに息を止めた。
全身に毒が回っているらしく、体が重い様に動かない。
指先も痙攣していて、剣を持つ手に力が入らない。
ダリアは眉根を寄せてはいたが、それでも立っていた。
「けけっ、如何っすか。俺の調合した毒は?」
「卑怯ですよ」
「卑怯? そんなもん、喰らった奴が悪いに決まっているじゃないっすか!」
「それは分かっています。喰らってしまった私が悪いんです」
油断していた。まさか毒を撒くなんて思わなかった。
ダリアは自分が甘いと反省した。
それにしても毒の回りが遅い。チッチの顔色から見て、想定外の反応だ。
「おかしいっすね。気化性の毒の筈なのに、全然効いてないじゃないっすか」
「気化性?」
「どうせ死ぬから教えてやるっすけど、この毒は酸素に化合して発生するんすよ。もちろん俺も喰らうんすけど、おかしいっすね。本当ならとっくに死んでいる頃合いの筈なのにっす」
それを聴いてまだチャンスがあるとダリアは感じた。
如何やらチッチは気が付いていないらしく考えに耽っていた。
けれど答えが見つからずに困っている。
そこを逃す隙は無い。ダリアは《剣錬成》で長剣と短いダガーを作った。
「おおっと!」
シュパン!
ナイフが一本飛んできた。
牽制のつもりのようで、目の前に落下する。
幸い喰らいはしなかったが、チッチの方が動けることを再確認したダリアは渋い表情になった。
「動くと本気で殺すっすよ!」
「どのみち殺されるぐらいなら、最後の最後まで足搔きますよ」
「はぁ? 誇り高き剣士なら、最後の時くらいは大人しく……」
「いいえ、私は誇り高くなんてありません。誰かのために剣を振るい、自分の身すら誠心誠意守り抜く。それが私のプライドです!」
ダリアは思い出していた。先生と慕う剣士のことを。
ダウナーボイスで語り掛け、背は小さいけれど圧倒的な実力と気迫を兼ね備えた寝ぼけ眼の剣士。あの実力と無謀なまでの修業に駆り出されて何度も死にかけた日々を思えばこの程度の脅しに屈するわけにはいかない上に、そもそもが負けるわけにはいかなかった。
何よりも今は自分の立場なんてない。ただひたすらに生き残る。そして勝利を捥ぎ取る。それが一番カッコよくて、成すべきことだと分かっていた。
(でも、体が動けないのに如何したら……)
その時、頭の中に雪山で寒さに震えていた時のことを思い出した。
あの時は先生が助言をしてくれたのだ。
「さ、寒い……」
「ダリア、体を温める」
「体をですか?」
「うん。ダリアならできるはず、女王陛下の魔力を受け継いでいるんだから。やってみて」
「は、はい!」
あの時は言われるがまま、無我夢中だった。
全身に魔力を巡らせて発汗効果を上げる。
すると全身がポカポカと温まり、血行を促進させて不純物を外に押し流した。
「そ、そうです! これがありました」
「何を言ってるんすか?」
チッチは首を捻った。ダリアが閃いた様子で、表情がパッと明るくなったからだ。
毒素が体を回るのなら、毒素だけを外に押し流してしまえばいい。
幸い緊張感と痙攣からか、防衛本能で魔力が活性化している。
過剰な魔力をダダ洩れにさせていて、不純物が汗と一緒に流れていた。
いくら気化性と言え、毒は毒。血液中に入り込んでいるのなら、毛穴から出せるのだ。
(少しなら、ほんの少しなら動けますね。それなら!)
ほんの少しだけ爪先を動かしてみた。
警戒したチッチはたったそれだけの動作にもかかわらず、牽制目的で再度ナイフを投げつける。
ナイフ捌きは正確無比で、的確に投げナイフはダリアに放たれたが、今度は足元ではなく本気で殺しに来ている位置だった。
「くどいっす!」
「無駄ですよ」
けれどチッチが投げ付けたナイフをダリアはダガーで弾いた。
その瞬間、追尾する原因になっていた透明な糸も断ち切った。
これでナイフを投げられない。そう悟ったダリアは一気に前に躍り出る。
「これが私の実力です《スカーレット・イン・ファイア》!」
ダリアが魔術を唱えると、剣身が轟々と燃えだして、長剣が炎の剣に早変わりした。
火花を散らし、パチパチと音を奏でる。
その状態で剣を前に突き出すと、流石のチッチも慄く。
咄嗟に動揺から後退し、足が竦んでしまった。それだけではない。ダリアが動ける理由も察しが付かないのだ。
「ど、如何して動けるんすか!」
チッチが叫んだ。
突然元気よく前に足を踏み出して動き出したダリアの驚きを隠せない。
そんなチッチにダリアは教えてあげた。自分が動ける理由は単純だったからだ。
「毒は私の炎で無効なんです!」
「ふ、ふざけるなぁっす!」
「ふざけてないです。これで終わりにします!」
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
チッチの体を炎を纏った長剣が切り裂いた。
もちろん急所は外し、直前で燃えない炎に変えた。
そのおかげでチッチの体はくの字に折れて後ろに吹き飛ぶだけで済み、バタンと倒れてしまった。それから呻き声を上げるだけになり、ピクリとも動かなくなってしまった。
「はぁはぁはぁはぁ……やりました。私、勝ちましたよ」
ダリアは剣を突き立てて体を支えた。
全身に回った毒素がなかなか抜けない。
体を温めることだけを後は考え、魔力を余分に残すと、その場にへたり込んでしまった。
全身に毒が回っているらしく、体が重い様に動かない。
指先も痙攣していて、剣を持つ手に力が入らない。
ダリアは眉根を寄せてはいたが、それでも立っていた。
「けけっ、如何っすか。俺の調合した毒は?」
「卑怯ですよ」
「卑怯? そんなもん、喰らった奴が悪いに決まっているじゃないっすか!」
「それは分かっています。喰らってしまった私が悪いんです」
油断していた。まさか毒を撒くなんて思わなかった。
ダリアは自分が甘いと反省した。
それにしても毒の回りが遅い。チッチの顔色から見て、想定外の反応だ。
「おかしいっすね。気化性の毒の筈なのに、全然効いてないじゃないっすか」
「気化性?」
「どうせ死ぬから教えてやるっすけど、この毒は酸素に化合して発生するんすよ。もちろん俺も喰らうんすけど、おかしいっすね。本当ならとっくに死んでいる頃合いの筈なのにっす」
それを聴いてまだチャンスがあるとダリアは感じた。
如何やらチッチは気が付いていないらしく考えに耽っていた。
けれど答えが見つからずに困っている。
そこを逃す隙は無い。ダリアは《剣錬成》で長剣と短いダガーを作った。
「おおっと!」
シュパン!
ナイフが一本飛んできた。
牽制のつもりのようで、目の前に落下する。
幸い喰らいはしなかったが、チッチの方が動けることを再確認したダリアは渋い表情になった。
「動くと本気で殺すっすよ!」
「どのみち殺されるぐらいなら、最後の最後まで足搔きますよ」
「はぁ? 誇り高き剣士なら、最後の時くらいは大人しく……」
「いいえ、私は誇り高くなんてありません。誰かのために剣を振るい、自分の身すら誠心誠意守り抜く。それが私のプライドです!」
ダリアは思い出していた。先生と慕う剣士のことを。
ダウナーボイスで語り掛け、背は小さいけれど圧倒的な実力と気迫を兼ね備えた寝ぼけ眼の剣士。あの実力と無謀なまでの修業に駆り出されて何度も死にかけた日々を思えばこの程度の脅しに屈するわけにはいかない上に、そもそもが負けるわけにはいかなかった。
何よりも今は自分の立場なんてない。ただひたすらに生き残る。そして勝利を捥ぎ取る。それが一番カッコよくて、成すべきことだと分かっていた。
(でも、体が動けないのに如何したら……)
その時、頭の中に雪山で寒さに震えていた時のことを思い出した。
あの時は先生が助言をしてくれたのだ。
「さ、寒い……」
「ダリア、体を温める」
「体をですか?」
「うん。ダリアならできるはず、女王陛下の魔力を受け継いでいるんだから。やってみて」
「は、はい!」
あの時は言われるがまま、無我夢中だった。
全身に魔力を巡らせて発汗効果を上げる。
すると全身がポカポカと温まり、血行を促進させて不純物を外に押し流した。
「そ、そうです! これがありました」
「何を言ってるんすか?」
チッチは首を捻った。ダリアが閃いた様子で、表情がパッと明るくなったからだ。
毒素が体を回るのなら、毒素だけを外に押し流してしまえばいい。
幸い緊張感と痙攣からか、防衛本能で魔力が活性化している。
過剰な魔力をダダ洩れにさせていて、不純物が汗と一緒に流れていた。
いくら気化性と言え、毒は毒。血液中に入り込んでいるのなら、毛穴から出せるのだ。
(少しなら、ほんの少しなら動けますね。それなら!)
ほんの少しだけ爪先を動かしてみた。
警戒したチッチはたったそれだけの動作にもかかわらず、牽制目的で再度ナイフを投げつける。
ナイフ捌きは正確無比で、的確に投げナイフはダリアに放たれたが、今度は足元ではなく本気で殺しに来ている位置だった。
「くどいっす!」
「無駄ですよ」
けれどチッチが投げ付けたナイフをダリアはダガーで弾いた。
その瞬間、追尾する原因になっていた透明な糸も断ち切った。
これでナイフを投げられない。そう悟ったダリアは一気に前に躍り出る。
「これが私の実力です《スカーレット・イン・ファイア》!」
ダリアが魔術を唱えると、剣身が轟々と燃えだして、長剣が炎の剣に早変わりした。
火花を散らし、パチパチと音を奏でる。
その状態で剣を前に突き出すと、流石のチッチも慄く。
咄嗟に動揺から後退し、足が竦んでしまった。それだけではない。ダリアが動ける理由も察しが付かないのだ。
「ど、如何して動けるんすか!」
チッチが叫んだ。
突然元気よく前に足を踏み出して動き出したダリアの驚きを隠せない。
そんなチッチにダリアは教えてあげた。自分が動ける理由は単純だったからだ。
「毒は私の炎で無効なんです!」
「ふ、ふざけるなぁっす!」
「ふざけてないです。これで終わりにします!」
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
チッチの体を炎を纏った長剣が切り裂いた。
もちろん急所は外し、直前で燃えない炎に変えた。
そのおかげでチッチの体はくの字に折れて後ろに吹き飛ぶだけで済み、バタンと倒れてしまった。それから呻き声を上げるだけになり、ピクリとも動かなくなってしまった。
「はぁはぁはぁはぁ……やりました。私、勝ちましたよ」
ダリアは剣を突き立てて体を支えた。
全身に回った毒素がなかなか抜けない。
体を温めることだけを後は考え、魔力を余分に残すと、その場にへたり込んでしまった。
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