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聖夜編

381.ダリアとブルースターの合致(侵入編)

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 ホーリーの町は今日も素敵だった。
 夜の静寂が肌に触れ、ピタッとした特別な雰囲気を醸し出す。
 これで雪でも降ってくれれば、もっと素敵になるのに。
 そう思いながらも、実際には雪などは一切降ることはなく、ひんやりとした空気がヒリついていた。
「ううっ、ちょっと寒いですね」

 ダリアは少し寒くて仕方なく、魔眼を使うことにした。
 瞳の色も髪の色も真っ赤に染まり、全身が炎に包まれる。
 サンタ・ク・ロースの衣装は燃えることもなく、ダリアは炎の熱気を噴出することで空を高速で移動していた。まさに火の玉で、もしも誰かに見られていたら、完全に都市伝説になってしまうの確定だ。

「えっと、この辺りに……あっ、ありました!」

 ダリアは目的の建物を見つけたので、とりあえず玄関先に着地する。
 金属製の重たいドアノッカーが扉に付いていて、ダリアはコンコンしようとする。
 しかしそれをしたらバレてしまう。完全にサンタ・ク・ロースじゃない。
 そう思ったので、悪いとは思いつつも勝手に扉を開けることにした。

「失礼します」

 ダリアは恐る恐る扉を開けた。
 音を消して扉を開けてみると、なんと鍵は掛かっていなかった。
 不思議だなと思いつつも、ダリアは忍び込むように部屋の中に入ると、早速プレゼントを置いて退散することにする。

「えーっと、確か一番奥ですよね」

 ダリアは音を立てずに礼儀正しく一番奥の部屋に向かった。
 ここが子供部屋のようで、中には男の子が寝ている。
 ダリアは扉を開けて中に入ろうとすると、普通に鍵が掛かっていなかった。
 不用心だとは思いつつも、それだけこの町は平和だということなので、ダリアはホッとしていた。

「靴下の中に仕舞えば良いのですよね?」

 ダリアは魔法の袋の中からプレゼントを取り出すと、靴下の中に仕舞い込んだ。
 ちょっと押し込んでしまう形になってしまったけど、綺麗に靴下の中に収納できた。
 ダリアは満足すると、靴下を置いた。
 踵を変えし、普通に部屋を出る。玄関先に向かい、扉を開けて外に出る。
 あまりにも何事もなさ過ぎて拍子抜けしてしまったが、ダリアにとってはかなり心苦しい冒険になってしまった。

「ふぅ。無事に一つ目が終わりました」

 次の建物を目指してダリアは歩き始めた。
 空を飛ぶわけでもなく、近いので道を歩いていた。
 もはやサンタ・ク・ロースではなかったが、ダリアは一軒一軒丁寧にプレゼントを運ぶ、まさしく普通のサンタ・ク・ロースをやり切っていた。
 けれどその姿は明らかに宅配員なのだが……ダリアは気にしないのだった。



 ブルースターは《オーロラウィング》を広げて優雅に空を駆ける。
 翼をはためかせ、時には滑空し、冷たい空気を切り裂いて虹色の翼で空域を支配する。
 サンタ・ク・ロースらしさはないものの、その動きはかなり素早く、目的の建物を素早く見つけると、屋根の上に乗った。

「さてと。この家の女の子はこの下の部屋ですね。さて、如何やってプレゼントを届けましょうか?」

 ブルースターは悩んでしまった。
 《星の銃》を使うと悲惨な結果になるので、ここは普通に扉から家の中に入らせてもらうことにする。

「失礼致します。あっ、皆さん眠っていますね」

 家の中はとても静かでかなり暖かい。
 暖房をしっかりと用意しているのか、薄っすらと焼けて炭になった薪の匂いがする。
 かなり燃えやすい薪を使っているのか、少し甘い匂いがした。

「良い匂いですね。さてと女の子の部屋はこの辺り……ん?」

 ふとリビングが目に入った。
 当然ながら誰も居ないが、ブルースターの視線が暖炉に注がれる。
 何の変哲もない暖炉。しかし異様に燃えていて、もの凄く臭い。
 これはもしかしてと思い口元を覆ってリビングに入ると、かなり空気が重たくなっていた。
 ブルースターは廊下とリビングの臭いと空気の重さを受けて、目の色を変えて慌てていた。これは非常事態だ。

「うっ……一酸化炭素が逆流していますね」

 ブルースターは息苦しくなった。
 魔術を使って呼吸ができるようにする。
 何が原因なのかと探るが一瞬で理解できた。暖炉の煙突の中がかなり溜まっている。
 如何やら今年の内に掃除をしたのは良いものの、使用頻度が多かったのか、木片の焦げた炭が固まっていた。見ればこの家で使われている薪は少し特殊な魔性植物で、確かに香木の様に良い香りがするものの、溶けやすい上に固まりやすくもなっている。
 そのせいで煙突の中を炭が埋め尽くし、排煙ができなくなっていた。

「これは……少し掃除をしてあげた方が良いですね」

 ブルースターはプレゼントを置きに行くのを後回しにする。
 メモ帳を取り出すと切り端に薪のことを書く。
 こんなものを書いたら怪しまれるだろうが、ブルースターはそんなことを気にしたりしない。
 正体がバレることよりも命の危険を伝える方がよっぽど良い。

「これで良し。さてと、プレゼントを置いて来ましょうか」

 ブルースターはプレゼントを置きに向かった。
 何事もなかったかのように普通に扉を開け靴下の中にプレゼントを押し込む。
 無事に家の住人を救うことも叶ったブルースターは、煙突の掃除を軽くしてあげた後、次の建物に向かうのだった。
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