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聖夜編

371.天然物のスノードロップディア

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 ルカは高原の牧草に横になる。
 仰向けのまま頭の上で腕を組んでいた。
 完全に腕を枕にしつつ、揺らぎの滝の心地よい音色と涼しげな風。さらには程よく暖かい地面のおかげで、ルカはのんびりくつろぐことができた。

「ふはぁー」

 大きな欠伸を掻いてしまった。
 ルカは内心(これくらい緩い日があると良いよねー)と思っていた。

 一方のシルヴィア達は滝の方まで飛んでいた。
 如何やら近くで見たいらしく、ルカは薄っすらと開けた目でその光景を覗いていた。

「みんな若いなー。って、私も見た目的には若いのかな」

 実際寝ていた分を引けば、同年代の子達とも大差はない。
 しかしルカの今まで培ってきた経験がそうさせてくれない。
 そのせいでズレを感じてしまったので、わざわざ滝の方まで行ってみようとは思わなかった。

「もう少し寝ておこうかな。夜は大変だし」

 今日はやらないといけないことがある。
 なので、ルカは今のうちに休息を取ることに全力を注ぐ。
 再び目を閉じてのんびりとくつろぎ始めた時、遠くの方から声がした。

「ブォォォォォォォォォォン!」

 ルカは目を開けて「ん?」と声を漏らす。
 音のした方に視線を向けると、そこには四足歩行の生物が居た。
 如何やらモンスターのようだが、こちらに危害を加えてくる気は無さそう。
 ましてや、ここから遠く離れた小高い山の上に居た。小さく見えてしまうので、ルカは視野を拡大した。

「《ズーム・アイ》」

 ボソボソ唱えてみる。
 すると視界にはっきりと映り込んできたのは、ルカを少し驚かせる生物だった。

「あっ! 凄いな。まさかと言うか、やっぱり生きていたんだ」

 ルカが見つけたのは、昨日食べたスノードロップ・ディア。
 しかしただのスノードロップ・ディアではない。
 養殖ではなく天然のようで、脚の締まりも遠目から見てかなり良い。

 頭の角には雪のような結晶が付いていた。
 真ん中には黒いオリーブの様な宝石が見え、如何やらかなり高位の固体らしい。

「エルダー・スノードロップ・ディアね。まさかこんな超希少固体に出遭えるなんて……珍しい。ちょっと行ってみよう……って気にはならないかな」

 エルダー・スノードロップ・ディアは警戒心が強い。
 その警戒度はスノードロップ・ディアの非じゃない。
 ルカは今まで一度たりとも……ではないが、一度だけ見た時にその実感を味わった。

「そう言えば、あの時も下手に近づかなかったら、向こうから近づいて来てくれたね。まあいっか」

 流石にこの距離だ。絶対に来られないだろうと予想して、諦めて目を閉じる。
 するとシャンシャン! と鈴の音の様な音が聴こえだす。
 何かと思い目を開けた。すると急にポカポカ暖かな陽気が何処へやら、急激に冷えだす。

「ん?」

 寒いなと思って目を開けた。
 するとそこにはエルダー・スノードロップ・ディアの頭があった。
 こちらをジッと覗き込んでいる。もしかして夢? と誤認した。

「まさかね。本物な訳……うわぁ、本物だ」

 ルカは優しくて伸ばした。
 鼻の頭に手のひらが触れると、しっかりとした感触がある。
 如何やら本物のようでルカは少しだけ驚いたが、何よりも驚きなのは、全く動じず逃げることもしない。

「えっと、何で私の所に?」

 別段首輪などは付けていない。
 と言うことは天然で確定。しかもルカの所に自分の脚で来た時点で、敵意もない。
 如何やら安心してくれているようで、ルカは少し起き上がって、体を預けてみた。

「よいしょっと。あれ? やっぱり逃げない」

 何で逃げないんだろう。ルカはそう思った。
 ふと気になってエルダー・スノードロップ・ディアの足元を見た。
 すると気になる物を見つける。
 ふくらはぎの当たりに薄っすらと傷が入っていて、ルカは記憶を呼んだ。

「そう言えば、昔マーシャル・ディアを治したことがあったっけ? あの時は嫌がられて、少し傷が残って……もしかしてあの時の?」
「ブォォォォォン!」

 どうやらあの時の固体らしい。
 まさか千年間も生きて、進化しているとは思わなかった。
 しかもルカのことを覚えていた。そのことに驚いてしまって、優しく鼻の頭を撫でる。

「ありがとう。私のことを覚えていてくれて」

 ルカはなんだかとっても夢心地だった。
 気持ちが良くて、心が張れる。
 頭がポワポワしていて、エルダー・スノードロップ・ディアから魔力を供給されているみたいだ。

 ポトッ!

 ふと何か落ちていた。
 それは黒いオリーブのようだった。
 しかし嗅いでみると、甘酸っぱいキイチゴのようだ。

「もしかしてくれるの?」

 ルカはエルダー・スノードロップ・ディアに尋ねた。
 落ちていた木の実を口の中に入れると、懐かしい味が広がる。

「美味しい……うわぁ」

 ふと体が軽くなった。
 気が付けばエルダー・スノードロップ・ディアの姿は跡形もなく消えていた。

 もしかして今まで観ていたのは全部夢?
 かと思ったが、どうやらシルヴィア達がこっちに戻って来ていた。
 警戒心が強いせいで、ルカやセレナ以外には懐いてくれなかった。
 ルカはそのことを改めて再認識すると、遠く方から声が聞こえた。

「ブォォォォォォォォォォ!」

 そこには確かにエルダー・スノードロップ・ディアの姿がある。
 如何やら幻ではない。
 ルカはか細く「また会えるといいね」と呟いた。
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