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聖夜編

368.調査に打って付けな穴

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 ルカ達は午前中に再び森へとやって来た。
 名前の付けられていない広大な森だ。
 ルカの後ろをシルヴィアとダリアが続き、周囲に怪しい人影が無いか要注意だ。

「誰も居ないわね」
「そうですね。本当に誰か居たんでしょうか?」
「ダリア、魔力じゃなくて、殺気を追ってみると良いよ」
「殺気ですか? はい、分かりました!」

 ルカはダリアにアドバイスをしてあげた。
 森の中には様々な系譜の魔力が存在し、互いに滞留し合っている。
 そのせいもあって、ちっぽけな人間の魔力を追うことは難しい。
 なのでちょっとした魔力を探るのは諦めて、ダリアの様に殺気を探知できるのなら、魔眼を使うよりも殺気を辿った方が良かった。

「殺気って、ちょっとルカ。それだと私のこと計算にしていないわよね?」
「そんなことないよ。それに今は怪しい人影を捜すよりも、黒い塊を見つける方が先決だよ」

 ルカの言い分は最もだった。
 とは言え、ルカもそれの黒い塊が見つからなくて困っていた。
 さっきから魔力を遠隔的に飛ばし、三次元的に、上空に地下と《スペース・サーチ》を駆使していた。
 しかしまだ見えてこない。もしかしたら相当深く潜られているのかもしれない。

「いや、それだけじゃなくて、この土地とあの結界が邪魔をして……なるほど、そう言うことか」

 ルカはある程度察した。おおよそ八割は間違いない。
 あの結界の役割を果たしている石板を何らかの魔術。それこそ、一般的なものではなく、魔法にほど近い固有系の何かで誤魔化しているのだ。
 となると、ルカも本気でやれば壊せる。
 けれどそんなことをしたら、この世界自体が壊れてしまうので、渋々止めた。

「ってことはさっき感じた強力な魔力……ふーん。認識阻害系の魔術。しかも周囲一帯に反応する系ね。上手くカモフラージュしているみたいだけど、そう上手く……ん?」

 ルカはブツブツ念仏を唱えながら歩いていた。
 突然立ち止まる。
 シルヴィアとダリアはルカの背中にぶつかってしまうと、鼻先を抑えていた。

「ちょっとルカ、急に止まらないでよ!」
「ルカさん、急に如何したんですか? 何も無い場所で・・・・・・・止まって・・・・
「何も無い? そっか」

 ルカの目の前には何も無かった。
 柔らかい土が平らにならされていて、その周囲一面を円形が描かれる。
 木々が生えてはいるものの、かなり距離が空いていて、中心からは三十メートルはあった。

「二人には何も無い様に見えるんだ」
「当たり前よ。実際何も無いわ!」
「は、はい。ですが少し妙ですね」
「妙? まあ確かにならされ方が自然じゃないわね」

 シルヴィアも違和感に気が付いた。
 サラサラと触ってみると、小さな石片が剥き出しになっていたりして、指先に引っかかるのだ。

「もしかしてここって最初はこんな感じなかったってこと?」
「そう言うこと。実際は!」

 ルカは強く地面を踏み込んだ。
 すると《インパクト》と言う魔術が発動。
 地面の底が抜けた。サラサラとした地面が無くなり、空洞がポッカリと出来上がる。

「な、何よコレ!」
「急に大きな穴ができましたよ!」
「上手く隠していたみたいだけど甘いね。私の前には無意味なのに」

 ルカはポツリと呟いた。
 するとシルヴィアとダリアの視線がルカへと注がれた。
 これは如何言うことなのか、分からないことが量産されて困惑する。

「ちょっとルカ、コレって如何言うこと?」
「如何言うことって?」
「急に大きな穴ができて、絶対普通じゃないわ。如何言うことかちゃんと説明して」
「説明も何も、私にも分からないよ。多分黒い塊、何かしらのモンスターの仕業だね」
「モンスターって?」
「それはまあ、土に関連するような。それこそ、土を掘れるようなタイプが一般的かな?」

 ルカの説明は大雑把だったが、それでもここに居るモンスターが何者なのか、ある程度の推測はできた。
 しかしながらまだ姿は見ていない。
 なのでルカは「仕方ない」と呟きながら、穴の中へと入ろうとした。
 けれど全力でシルヴィアとダリアに止められた。

「「待って!」」
「うわぁ!」

 ルカは両腕を掴まれてしまい、動けなくなった。
 無理に進めば二人とも落ちてしまうので、仕方なくルカは立ち止まる。

「ちょっと二人とも如何したの?」
「如何したのじゃないわよ。如何したのはルカの方。今、穴の中に入ろうとしたでしょ?」
「そうだよ。調査するにはそれが一番だからね」
「危ないから止めなさい! ほら、ダリアだって首をブンブン横に振っているでしょ!」

 ルカがふとダリアの方を見てみると、首を可愛らしくブンブン振っていた。
 ルカの右腕を掴んだまま必死で行かせないようにしている。
 よっぽど不安なようで、それを受けたルカも仕方なく、「分かったよ」と二人の頭を撫でて安心させた。

 ダリアは嬉しそうにしており、ホッと胸を撫で下ろす。
 シルヴィアは慣れていないので、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
 二人とも可愛くて、ルカは優しく微笑みかけた。
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