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聖夜編
320.ヘルボロスだらけの森
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サンタ・ク・ロースの想いとそれを呪いのように引き継いだドリアードの心情を汲み取ったルカは、溜息交じりではあったが引き受けることにした。
ドリアードは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
ルカからしてみればやるせない気持ちなのだが、流石に見過ごせなかった。それだけルカが魔法使いの中では異質な存在と言う訳だ。
「だけど二十五日の深夜に事を終えたら、貴女の存在は……」
「もちろんです。ですがそれが契約の定め何です」
ドリアードは柔らかい表情を浮かべていた。
けれどルカからしてみれば悲しい他なかった。
「そっか……それしか……私を時間を止めて……」
「必要はありませんよ。それにその力は……」
ドリアードは何か口にしようとした。
すると突然小屋の外からドーン! とけたたましい音が聞こえた。
「「ん?」」
ルカとドリアードは窓の外を覗き込んだ。
すると木々が激しく揺れていて、何事かと思っていると、寝室の扉が開いた。
「ルカ、今の音は何!?」
シルヴィアが慌てた様子で飛び込んできた。
ルカからしても分からないのでドリアードに尋ねようとしたが、そこに精霊としての姿は無く、サンタ・ク・ロースの姿を借りていた。
「分からないよ。サンタ・ク・ロースさんは知っていますか?」
「ふぉっふぉっ。恐らくこの森を彷徨うヘルボロスの一匹じゃろ」
「「ヘルボロス?」」
確か倒したはずだ。ルカも傍にいたので間違うはずがなかった。
それじゃあ一体何と勘違いしているのかと、ルカは考えた。
サンタ・ク・ロースも力を貸したのでヘルボロスの存在には嫌でも気が付いていたはずなのに。不思議な体験だ。
「サンタ・ク・ロースさん、ヘルボロスの薬指ならもう……」
「薬指? 違うわい。この森にはもう一匹、中指も彷徨っておるんじゃ!」
流石にルカも騒然として固まってしまった。
一つのエリアに二匹のヘルボロスが居るとは思わなかった。
ましてやその二匹を結界で閉じ込めているなんて、ドリアードの底力を感じ取った。
(凄すぎる……)
「ちょっと待ってよ。中指? 今度は中指なの!」
ルカが黙る間、シルヴィアは困惑して叫んでいた。
するとサンタ・ク・ロースは「そうじゃよ」と何判り切っていることをと言いたそうだった。
「ルカー、中指もいるって本当?」
「本当みたいだよ」
「流石にもう一回はきついよー」
リビングの方からライラック達が心配して顔を覗き込ませていた。
確かにルカも面倒だと思いつつも、シルヴィア達の魔力の消費が多いことを見抜いた。
「如何しましょうか、ルカさん?」
「ルカさん、如何したらいいですか?」
ブルースターとダリアが心配そうな顔をしていた。
ルカは「うーん」と唸る一方で、もう決めていた。
「それじゃあ私が倒してくるよ」
「「「えっ!?」」」
ルカは平然と口にした。しかしみんな猛反対だった。
何故かと思ったが、みんなヘルボロスの強さを重々承知していたからだ。
「じょ、冗談よね? 私の聞き間違いよね?」
「ううん。私が倒してくるよ」
「「「自殺行為!」」」
みんな必死でルカを止めようとした。
死に急ぐような行為をみすみす見逃すことはできなかった。
「何馬鹿なことを言っているのよ! まだこっちに近づいてないし、この小屋の周りにはたくさん罠があるから止めましょう。それにいざとなったら全員で……」
「でもみんな疲れているでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
もう一回戦う余力は残っていなかった。
だからこその選択なのだが、やっぱり不安そうだった。
ルカはダリアの頭をポンと撫でると、「私がそんなに軟に見える?」と駄目押しの一言を放ち、全員の意識が削がれているうちに行動に移った。
「それじゃあ行ってくるよ」
ルカは平然とした顔をしていた。
止めようとするも体の動かないシルヴィア達を背にして、ルカは小屋の外へと向かった。
するとぷっつり魔力の反応が途絶えた。
「本当に一人で行かせて良かったのかしら」
「やっぱり抑え込んででも止めた方が良かったかもしれませんね」
シルヴィアとブルースターが不安を吐露した。
突然小屋の外に出たルカの魔力が消えて、もしかしたらと最悪の想像が働いてしまった。
しかし払拭するように、サンタ・ク・ロースは励ましの言葉を贈った。
「大丈夫じゃよ」
しかしシルヴィア達の不安は募った。
魔力の反応が消えたことで、過る不安の方が強まった様子だ。
「そ、それはその……ルカは強いけど、流石にヘルボロス相手にはちょっとね……」
「相手は中指。薬指より強いんだよ?」
「ルカさん……」
みんなの顔色に不安が過っていた。
しかしサンタ・ク・ロースはもう一度唱えた。
「大丈夫じゃよ。あの主はとんでもなく強いからの。ふぉっふぉっふぉっ」
高笑いを始めた。
確かにルカの強さは際立っているが、やはり不安が拭いきれない。
けれどその不安は一瞬で弾け飛んでしまうことを、この時のシルヴィア達は知らなかった。
ドリアードは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
ルカからしてみればやるせない気持ちなのだが、流石に見過ごせなかった。それだけルカが魔法使いの中では異質な存在と言う訳だ。
「だけど二十五日の深夜に事を終えたら、貴女の存在は……」
「もちろんです。ですがそれが契約の定め何です」
ドリアードは柔らかい表情を浮かべていた。
けれどルカからしてみれば悲しい他なかった。
「そっか……それしか……私を時間を止めて……」
「必要はありませんよ。それにその力は……」
ドリアードは何か口にしようとした。
すると突然小屋の外からドーン! とけたたましい音が聞こえた。
「「ん?」」
ルカとドリアードは窓の外を覗き込んだ。
すると木々が激しく揺れていて、何事かと思っていると、寝室の扉が開いた。
「ルカ、今の音は何!?」
シルヴィアが慌てた様子で飛び込んできた。
ルカからしても分からないのでドリアードに尋ねようとしたが、そこに精霊としての姿は無く、サンタ・ク・ロースの姿を借りていた。
「分からないよ。サンタ・ク・ロースさんは知っていますか?」
「ふぉっふぉっ。恐らくこの森を彷徨うヘルボロスの一匹じゃろ」
「「ヘルボロス?」」
確か倒したはずだ。ルカも傍にいたので間違うはずがなかった。
それじゃあ一体何と勘違いしているのかと、ルカは考えた。
サンタ・ク・ロースも力を貸したのでヘルボロスの存在には嫌でも気が付いていたはずなのに。不思議な体験だ。
「サンタ・ク・ロースさん、ヘルボロスの薬指ならもう……」
「薬指? 違うわい。この森にはもう一匹、中指も彷徨っておるんじゃ!」
流石にルカも騒然として固まってしまった。
一つのエリアに二匹のヘルボロスが居るとは思わなかった。
ましてやその二匹を結界で閉じ込めているなんて、ドリアードの底力を感じ取った。
(凄すぎる……)
「ちょっと待ってよ。中指? 今度は中指なの!」
ルカが黙る間、シルヴィアは困惑して叫んでいた。
するとサンタ・ク・ロースは「そうじゃよ」と何判り切っていることをと言いたそうだった。
「ルカー、中指もいるって本当?」
「本当みたいだよ」
「流石にもう一回はきついよー」
リビングの方からライラック達が心配して顔を覗き込ませていた。
確かにルカも面倒だと思いつつも、シルヴィア達の魔力の消費が多いことを見抜いた。
「如何しましょうか、ルカさん?」
「ルカさん、如何したらいいですか?」
ブルースターとダリアが心配そうな顔をしていた。
ルカは「うーん」と唸る一方で、もう決めていた。
「それじゃあ私が倒してくるよ」
「「「えっ!?」」」
ルカは平然と口にした。しかしみんな猛反対だった。
何故かと思ったが、みんなヘルボロスの強さを重々承知していたからだ。
「じょ、冗談よね? 私の聞き間違いよね?」
「ううん。私が倒してくるよ」
「「「自殺行為!」」」
みんな必死でルカを止めようとした。
死に急ぐような行為をみすみす見逃すことはできなかった。
「何馬鹿なことを言っているのよ! まだこっちに近づいてないし、この小屋の周りにはたくさん罠があるから止めましょう。それにいざとなったら全員で……」
「でもみんな疲れているでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
もう一回戦う余力は残っていなかった。
だからこその選択なのだが、やっぱり不安そうだった。
ルカはダリアの頭をポンと撫でると、「私がそんなに軟に見える?」と駄目押しの一言を放ち、全員の意識が削がれているうちに行動に移った。
「それじゃあ行ってくるよ」
ルカは平然とした顔をしていた。
止めようとするも体の動かないシルヴィア達を背にして、ルカは小屋の外へと向かった。
するとぷっつり魔力の反応が途絶えた。
「本当に一人で行かせて良かったのかしら」
「やっぱり抑え込んででも止めた方が良かったかもしれませんね」
シルヴィアとブルースターが不安を吐露した。
突然小屋の外に出たルカの魔力が消えて、もしかしたらと最悪の想像が働いてしまった。
しかし払拭するように、サンタ・ク・ロースは励ましの言葉を贈った。
「大丈夫じゃよ」
しかしシルヴィア達の不安は募った。
魔力の反応が消えたことで、過る不安の方が強まった様子だ。
「そ、それはその……ルカは強いけど、流石にヘルボロス相手にはちょっとね……」
「相手は中指。薬指より強いんだよ?」
「ルカさん……」
みんなの顔色に不安が過っていた。
しかしサンタ・ク・ロースはもう一度唱えた。
「大丈夫じゃよ。あの主はとんでもなく強いからの。ふぉっふぉっふぉっ」
高笑いを始めた。
確かにルカの強さは際立っているが、やはり不安が拭いきれない。
けれどその不安は一瞬で弾け飛んでしまうことを、この時のシルヴィア達は知らなかった。
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