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聖夜編
314.バイトの内容はハートフル?
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ルカは無垢な笑顔で無理やり黙らせた。
余計なことを言おうとしたので仕方が無かったが、サンタ・ク・ロースは外れた入れ歯を付け直す作業で大変そうだった。
そんな中でシルヴィアとダリアが戻って来た。
二人ともこの状況が飲み込めず、一段と重たくなった空気に押し潰されそうだった。
「な、何よこれ」
「空気が重たいですね。お茶を淹れてきました。皆さんも如何ですか?」
ダリアが空気を換えようとして、トレイに乗せたカップを全員に差し出した。
ルカ達も受け取り一口啜ると、口の中いっぱいに茶葉の爽やかな味が広がった。
「これは高級な茶葉ですね」
「そうだね。かなり飲みやすい」
「ふぉっふぉっ。歳を取るとのう、喉に引っかからない飲み物の方が良いんじゃよ」
サンタ・ク・ロースは老体を患っていた。
ルカ達にとっては飲みやすいお茶でも、ゆっくり喉に詰まらせないようにしていた。
「大変ですね」
「そうじゃよ。だからこそ、ナタリーに頼んだんじゃ」
話が見えてこなかった。
今のところただ悪態を付いただけなので、印象最悪だろうとルカは思っていた。
「それで、サンタさん。私達を呼んだ理由と言うのは?」
口火を切ったのはブルースターだった。
サンタ・ク・ロースは顔を上げると、胸を撫でていた。
それから一呼吸を入れると、ゆっくり大事な話をした。
「ナタリーに頼んでやって来てもらったのは他でもない。この街の、クリスマスを盛り上げるためじゃ」
「「「クリスマスを盛り上げる?」」」
それだけでは意味が分らなかった。
とは言えサンタ・ク・ロースはこの街の市長なので、そう言った役職的な意味で言えば納得できた。
けれど話はそういう事ではなさそうだ。
「お主らが想像しているのは市長としてのクリスマスに手伝いじゃろ。それは違う。儂の役割は市役所の他の者が代わりを引き受けてくれるはずじゃ」
「それじゃあ何を?」
「クリスマスは聖なる夜に執り行われる祭りということになっておるじゃ。そしてこの祭りにはある伝統があっての。子供たちにプレゼントを届けるんじゃ」
「「「プ、プレゼント?」」」
話があまり見えてこなかった。
困惑するルカ達にサンタクロースは概要をよりまとめて話してくれた。
如何やらこの街では日頃良い子にしている子供たちにプレゼントを届ける風習がある。
期日は十二月二十五日の深夜。二十四日と二十五日の間。その僅かな期間の間に、光りの速度で朝までに届けるそうだ。
「そ、それがバイト? 私達が呼ばれた理由?」
「うむ。子供の夢を守る立派な仕事じゃよ」
確かにハートフルだとは思った。全員無言で黙ってはいたが、何も悪いことではなかった。
しかしダリアが気になっていることを言った。
「そのお仕事は市役所の方々ではダメなのでしょうか?」
「ダメではないが、それでは夢が無い。そうは思わんか?」
「た、確かに……」
ダリアも納得した。
普通の人が届けるよりも魔術師が内緒で届けた方が夢はあった。
「なーるほどね。つまりバレないようにプレゼントを届けろってことか」
「そうみたいね。でも今までは如何やっていたのかしら?」
「如何やってって?」
「簡単な話しよ。私達は五人だけど、今までは……ってまさか!」
シルヴィアはサンタ・ク・ロースを見た。
「うむ」と自信ありげだった。
「いかにも、儂が一人でやっとったぞ」
それは凄かった。老体に鞭を打ち、子供達のために頑張っていたんだ。
シルヴィアとダリアは単純に「凄い」と口走った。
それが嬉しかったのか、サンタ・ク・ロースはニヤニヤしていた。
「ひ、一人でって!? 如何やって?」
「儂の魔法じゃよ。お主は体感したじゃろ?」
サンタ・ク・ロースはブルースターに視線を合わせた。
心当たりがあることが一つあったので、「もしかして?」と考えだした。
「あの時、急に私の魔術が威力を増したのは……」
「そうじゃよ。これも儂の魔法があってこそじゃ」
ブルースターは謎が解けて口を開けていた。珍しい表情だった。
先程までは助けられた感覚はあったものの、如何やって助けて貰ったのか分からなかった。
話の流れで何となく助けられたと思ったのだが、改めて確信に変わった。
「あの、失礼ですがサンタ・ク・ロースさんの魔法はどんな物でしょうか?」
「ん? 気になるか?」
「はい。魔力を増幅させる魔法だとは思いますが……すみません。出しゃばりました」
ブルースターは興奮気味だったが、すぐに抑え込んだ。
魔術師も魔法使いも自分の武器を教えたくはなかった。
とは言え詳細を開示することで、その力を何倍にも膨らませることもできたので、一概に悪いとは言えなかった。
けれどそう易々と教えてくれる訳でもなかった。
だけどサンタ・ク・ロースは自分の魔法に付いて少しだけ教えてくれた。
「良いじゃろう。どうせ理解はできんからの。儂の固有魔法【聖灰】は魔力を飛ばしたり引き寄せたりできるんじゃ。原理に関しては秘密じゃがな。ふぉっふぉっふぉっ」
サンタ・ク・ロースは楽しそうだった。
しかしながらルカはその固有魔法を知っていたので、(だけどあの魔法は……)と内心心配していた。
余計なことを言おうとしたので仕方が無かったが、サンタ・ク・ロースは外れた入れ歯を付け直す作業で大変そうだった。
そんな中でシルヴィアとダリアが戻って来た。
二人ともこの状況が飲み込めず、一段と重たくなった空気に押し潰されそうだった。
「な、何よこれ」
「空気が重たいですね。お茶を淹れてきました。皆さんも如何ですか?」
ダリアが空気を換えようとして、トレイに乗せたカップを全員に差し出した。
ルカ達も受け取り一口啜ると、口の中いっぱいに茶葉の爽やかな味が広がった。
「これは高級な茶葉ですね」
「そうだね。かなり飲みやすい」
「ふぉっふぉっ。歳を取るとのう、喉に引っかからない飲み物の方が良いんじゃよ」
サンタ・ク・ロースは老体を患っていた。
ルカ達にとっては飲みやすいお茶でも、ゆっくり喉に詰まらせないようにしていた。
「大変ですね」
「そうじゃよ。だからこそ、ナタリーに頼んだんじゃ」
話が見えてこなかった。
今のところただ悪態を付いただけなので、印象最悪だろうとルカは思っていた。
「それで、サンタさん。私達を呼んだ理由と言うのは?」
口火を切ったのはブルースターだった。
サンタ・ク・ロースは顔を上げると、胸を撫でていた。
それから一呼吸を入れると、ゆっくり大事な話をした。
「ナタリーに頼んでやって来てもらったのは他でもない。この街の、クリスマスを盛り上げるためじゃ」
「「「クリスマスを盛り上げる?」」」
それだけでは意味が分らなかった。
とは言えサンタ・ク・ロースはこの街の市長なので、そう言った役職的な意味で言えば納得できた。
けれど話はそういう事ではなさそうだ。
「お主らが想像しているのは市長としてのクリスマスに手伝いじゃろ。それは違う。儂の役割は市役所の他の者が代わりを引き受けてくれるはずじゃ」
「それじゃあ何を?」
「クリスマスは聖なる夜に執り行われる祭りということになっておるじゃ。そしてこの祭りにはある伝統があっての。子供たちにプレゼントを届けるんじゃ」
「「「プ、プレゼント?」」」
話があまり見えてこなかった。
困惑するルカ達にサンタクロースは概要をよりまとめて話してくれた。
如何やらこの街では日頃良い子にしている子供たちにプレゼントを届ける風習がある。
期日は十二月二十五日の深夜。二十四日と二十五日の間。その僅かな期間の間に、光りの速度で朝までに届けるそうだ。
「そ、それがバイト? 私達が呼ばれた理由?」
「うむ。子供の夢を守る立派な仕事じゃよ」
確かにハートフルだとは思った。全員無言で黙ってはいたが、何も悪いことではなかった。
しかしダリアが気になっていることを言った。
「そのお仕事は市役所の方々ではダメなのでしょうか?」
「ダメではないが、それでは夢が無い。そうは思わんか?」
「た、確かに……」
ダリアも納得した。
普通の人が届けるよりも魔術師が内緒で届けた方が夢はあった。
「なーるほどね。つまりバレないようにプレゼントを届けろってことか」
「そうみたいね。でも今までは如何やっていたのかしら?」
「如何やってって?」
「簡単な話しよ。私達は五人だけど、今までは……ってまさか!」
シルヴィアはサンタ・ク・ロースを見た。
「うむ」と自信ありげだった。
「いかにも、儂が一人でやっとったぞ」
それは凄かった。老体に鞭を打ち、子供達のために頑張っていたんだ。
シルヴィアとダリアは単純に「凄い」と口走った。
それが嬉しかったのか、サンタ・ク・ロースはニヤニヤしていた。
「ひ、一人でって!? 如何やって?」
「儂の魔法じゃよ。お主は体感したじゃろ?」
サンタ・ク・ロースはブルースターに視線を合わせた。
心当たりがあることが一つあったので、「もしかして?」と考えだした。
「あの時、急に私の魔術が威力を増したのは……」
「そうじゃよ。これも儂の魔法があってこそじゃ」
ブルースターは謎が解けて口を開けていた。珍しい表情だった。
先程までは助けられた感覚はあったものの、如何やって助けて貰ったのか分からなかった。
話の流れで何となく助けられたと思ったのだが、改めて確信に変わった。
「あの、失礼ですがサンタ・ク・ロースさんの魔法はどんな物でしょうか?」
「ん? 気になるか?」
「はい。魔力を増幅させる魔法だとは思いますが……すみません。出しゃばりました」
ブルースターは興奮気味だったが、すぐに抑え込んだ。
魔術師も魔法使いも自分の武器を教えたくはなかった。
とは言え詳細を開示することで、その力を何倍にも膨らませることもできたので、一概に悪いとは言えなかった。
けれどそう易々と教えてくれる訳でもなかった。
だけどサンタ・ク・ロースは自分の魔法に付いて少しだけ教えてくれた。
「良いじゃろう。どうせ理解はできんからの。儂の固有魔法【聖灰】は魔力を飛ばしたり引き寄せたりできるんじゃ。原理に関しては秘密じゃがな。ふぉっふぉっふぉっ」
サンタ・ク・ロースは楽しそうだった。
しかしながらルカはその固有魔法を知っていたので、(だけどあの魔法は……)と内心心配していた。
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