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聖夜編

313.サンタ・ク・ロースは臆病な魔法使い

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 ルカはドアノブに手を掛けた。
 ゆっくり開けてみると、中で待っていたのはベッドに横たわるお爺さんだった。

「やっぱり」
「ふぉっふぉっ。よく来たの、ナタリーの生徒達よ」

 お爺さんはルカ達を歓迎してくれた様子だ。
 だけど内側には強烈な魔力が秘めていた。
 とてつもない魔術師だとシルヴィア達も直感したが、お爺さんはルカ達に軽く自己紹介するためベッドから起き上がろうとした。

「それじゃあの、軽く自己紹介がてら。儂はの……おー、痛たたたたぁ」

 腰が悲鳴を上げていた。
 途中まで腰を起こした途端に悲鳴を上げたのだ。
 よっぽど腰を悪くしているようで、立ち上がることも難しそうだった。

「だ、大丈夫ですか!」
「う、うむ。平気じゃよ。すまんの若い魔術師に卵よ……ん? その顔、何処かで見覚えが」

 ダリアは優しいのですぐさま駆け寄った。
 すると顔を見て何かピンときた様子だが、ダリアは無理やりにでも誤魔化した。

「私は会ったことありませんよ。きっと誰かと勘違いしているんです」
「そうじゃとは思うが……はて? 誰じゃったかな」
「そんなことより腰は大丈夫ですか?」
「う、うむ。今のところは少し落ち着いた。すまんが向こうからお茶を取って来てもらえんか? 使っていない器もたくさんあるからの」

 ダリアはお爺さんに言われて正直にお茶を淹れに言った。
 心配になったシルヴィアも尽きそうと、寝室の中は少しだけ広くなった。

「さてと。まずはここに居る魔術師の卵たちに儂に付いて話しておこうかの」
「そうですね。貴方は一体何者ですか?」

 ブルースターが正直に尋ねた。
 するとお爺さんはニヤついた笑みを浮かべた。待ってましたといわんばかりな様子で、ルカは眉根を寄せた。

「ふぉっふぉっ。そんなに儂が気になるか」
「えっ? 自分から聞いてほしそうにしてたよねー?」
「むっ! お主は空気が読めんのか?」
「読まない、読めない、読みたくなーい。私は自由なんだぁー。ってことでさ、どうぞ?」

 ライラックは陽気に振舞った。
 主導権を与えないようにする行為でルカはナイスだと思った。

「むっ。儂はサンタ・ク・ロース。魔法使いじゃ」
「「魔法使い?」」

 ブルースターとライラックが首を捻ると、サンタ・ク・ロースは今度こそと思った。
 けれど二人は顔を見合わせた。お互いに相槌を入れた。

「「知ってますよ」」
「はぁっ!?」

 サンタ・ク・ロースは意外そうだった。口をあんぐりと開け、入れ歯が取れそうになった。
 その様子を見ていたルカはクスッと笑みを浮かべた。最高の展開だった。

「だってナタリー校長の知り合いってことは長寿ってことでしょ?」
「そうですね。恐らく長寿になる体質、もしくは特異的な固有魔法でしょうか? どちらにせよ、これだけの力量を備えているのは魔術師ではありえません」
「〈ミスト〉の人達よりもつよそうだもんね」

 二人とも観察眼が鋭かった。
 確かに最高峰の魔術師でもあり、その実力の一端を見た二人ならば、目の前に居るお爺さんの実力をある程度推測することは可能だった。
 つまるところ魔法使いという選択肢しか残らず、御爺さんは肝心の手鼻をへし折られてしまった。

「むっ。そう来たか」
「残念でしたね。サンタさん」
「お主も何か言わんか! 儂のせっかくの鉄板ネタを潰し酔って」
「カリカリすると人望得られなくなりますよ? そんな相手に誰かを従わせることなんてできませんよ」

 もっと寛容に慣れと遠回しで言った。
 別に魔法使いだからと言って、魔術師達をいびって良い訳がなかった。

「むっ。時代が追い付いておらんわ」
「置いてかれているんだよ」

 ルカは酷いことを言った。だけど魔法使いは魔術師の尊敬であって、他者を見下してもいいわけが無かった。
 そんなノリが通用する相手などこの世に存在しないのだ。

「じゃが儂は本当に優れた魔法使いなんじゃよ。実際助けてやったじゃろ!」
「そうなった原因は誰のせいかな?」
「むっ……それを言われると頭が上がらんわい」

 だけどブルースターだけは助けて貰ったので驚いていた。
 いまいち如何やったのか分からないので、流石に未だ半信半疑ではあったが。

「そうだったんですか?」
「いかにも。儂の魔法があってこそ、ヘルボロスの薬指を葬ることができたのじゃ」
「へぇー。それじゃあ私達が居なかったら危なかったね」
「むっ……そうじゃな。それは、時間の問題でそうじゃな……」

 確かに問いたいところを突かれてしまった。
 言い返す手段が無くなり、完全に主導権をルカ達に持って行かれてしまった。

 この立場の無い状況にサンタ・ク・ロースは不快感に苛まれた。
 このままでは立場が無いと思い、苦肉の策で思いついた。
 ニヤニヤした笑みを浮かべて、ルカのことを凝視していた。

「お主こそ、本当は……」
「はい、それ以上は無しね」

 ルカは笑顔の圧力をサンタ・ク・ロースに向けた。
 流石に老体には堪えたのか、筋肉が相当弱まり、入れ歯が外れてしまったのでした。
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