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聖夜編
297.指先程度なら余裕過ぎる
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リネアが目を開けると、そこにはルカが居た。
いつの間に目の前まで移動していたのか分からないが、それよりも気になることがあった。
ヘルボロスの頭を片手で抑え込み、余裕そうな表情を浮かべていたのだ。
「ル、ルカさん?」
「はい、何ですか?」
ルカのリネアは尋ねた。しかし飄々とした態度で、返されてしまった。
完全にドン引きだ。
先程までの脅威が何だったのかと忘れさせてしまう程の衝撃がそこにあった。
(これがルカさんの実力?)
リネアは押し黙ったまま、ルカのことを凝視した。
対するルカもリネアが突然黙ってしまったので困惑した。
(あれ? もしかして私、何かしたのかな? 助けたつもりなんだけど、何処か怪我してるのかな?)
お互い考えていることがまるで違った。
しかしそんな均衡をヘルボロスの小指が突き破った。
ドンッ!
ヘルボロスの小指は長い首を使って頭を叩きつけてきた。
振り子の要領で重たい頭を叩きつけると、ルカの体が吹き飛びそうになった。
けれどルカは振り子に入る前に気が付いていたので、ある程度対策をしていた。
「まあそう来るよね。よっと」
吹き飛ばされたのはあくまでも演技だった。
やられたふりをすることで立ち上がった時の精神的ダメージを稼いだ。
ちゃんと前もって受け身を取っていた。
そのおかげで倒れる前に立ち上がり、全身に《ブースト》を掛けた。
「せーのっ!」
ルカは地面を力一杯踏んだ。
すると素早くルカの体がヘルボロスの小指目掛けて突き上げられ、そのまま加速を付けた拍子に別の魔術と併用してヘルボロスの小指にダメージを与えた。
「ここで一度止まって……《ブースト》+《アクセル》!」
ルカの渾身の蹴りが炸裂した。
左足を軸に右足で思いっきり頭を蹴ると、たまらずヘルボロスの小指は声無く悲鳴を上げた。
「まあこれでダメージはかなり入ったかな?」
「じゅ、十分すぎると思いますよー?」
リネアには何は起こっているのか分からなかった。
相棒の地竜も瞬きをする間もなく、ルカの活躍を凝視していた。
あまりにも強すぎた。
あの一瞬で受け身を取り、魔術を連鎖させ、さらには掛け合わせたことで爆発的なまでの質量を持ったエネルギーを叩き込んだのだ。
こんな芸当ができる魔術師はそうおらず、まさしく逸材だと直感した。
ナタリーが気に掛ける訳も何となく分かった気がした。
「いやいや、いくらヘルボロスの小指とは言えこの程度で音を上げたりしませんよ」
「えっ?」
リネアは驚愕した。
確かにルカの言う通り、ヘルボロスの小指は蹴り飛ばされたとはいえ、まだピクピクと微かに動いていた。
いいや微かに動いているのはわざとだ。
それだけ体力の回復に努めるとともに、近づいてきたところをミミズのような頭で噛み食らおうという算段だった。
なかなかに頭が回っていた。
しかルカ曰く、ヘルボロスの小指はあくまでも指先でしかなく、指先以上でもなかった。
「リネアさん、訂正しますね。ヘルボロスの小指に脳は有りませんよ?」
「えっ? あんなに知略が働いているのにですかー?」
「はい。アレは本能的なもので、言ってしまえば虫みたいなものですよ」
「む、虫?」
ルカからしてみれば、本体の方が恐ろしいと聞いたことがあった。
五つの指先を従え、知略と破壊の限りを尽くす悪魔。そう聞いたことがあった。
しかしながら小指はあまりにも弱かった。
ルカはまだ何か隠し持っているのではないかと深く考えすぎていて、闇雲に手出しができなかった。
「全く面倒ですよね。遠距離攻撃が効けばいいんですけどね」
「効かないんですか?」
「はい。あの肌色の体には脂が詰まっていて、至近距離以外の攻撃を吸収して自分のエネルギーに変えてしまうんですよ。実際、さっきの蹴りは入ったので」
とは言え、既に勝負は決していた。
ルカは終始余裕そうで、にやにやと笑みを浮かべていた。
緊張感が足りなかった。
言葉には重みがあるのに、表情があまりにも愉快過ぎたのだ。
「それじゃあとっとと倒しますね」
ルカはそう言うと、ヘルボロスの小指に向かって近づいた。
しかし次の瞬間、ヘルボロスの小指の首が大きく動いた。
「おっ!」
ヘルボロスの小指は頭から痰を吐きかけた。
しかしただの痰ではなく、触れた途端に地面が溶けた。
「じ、地面が抉り取られたー!」
「いいや、多分表面が溶けたんですよ。へぇー、溶解液を出せるんだ。面白いな」
ルカは知らない動きをされて楽しんでいた。
普通なら楽しむ余裕などないはずなのに、ルカからは笑顔が止まらなかった。
何にも囚われない。何にも縛られない。誰にも触れられない。
思いっきり戦える開放感が久々にルカの全身を拘束から解除していたのだ。
こんなに面白いことは無いと、いつもの命の危機に晒されない状況にかなり満足しているのだった。
いつの間に目の前まで移動していたのか分からないが、それよりも気になることがあった。
ヘルボロスの頭を片手で抑え込み、余裕そうな表情を浮かべていたのだ。
「ル、ルカさん?」
「はい、何ですか?」
ルカのリネアは尋ねた。しかし飄々とした態度で、返されてしまった。
完全にドン引きだ。
先程までの脅威が何だったのかと忘れさせてしまう程の衝撃がそこにあった。
(これがルカさんの実力?)
リネアは押し黙ったまま、ルカのことを凝視した。
対するルカもリネアが突然黙ってしまったので困惑した。
(あれ? もしかして私、何かしたのかな? 助けたつもりなんだけど、何処か怪我してるのかな?)
お互い考えていることがまるで違った。
しかしそんな均衡をヘルボロスの小指が突き破った。
ドンッ!
ヘルボロスの小指は長い首を使って頭を叩きつけてきた。
振り子の要領で重たい頭を叩きつけると、ルカの体が吹き飛びそうになった。
けれどルカは振り子に入る前に気が付いていたので、ある程度対策をしていた。
「まあそう来るよね。よっと」
吹き飛ばされたのはあくまでも演技だった。
やられたふりをすることで立ち上がった時の精神的ダメージを稼いだ。
ちゃんと前もって受け身を取っていた。
そのおかげで倒れる前に立ち上がり、全身に《ブースト》を掛けた。
「せーのっ!」
ルカは地面を力一杯踏んだ。
すると素早くルカの体がヘルボロスの小指目掛けて突き上げられ、そのまま加速を付けた拍子に別の魔術と併用してヘルボロスの小指にダメージを与えた。
「ここで一度止まって……《ブースト》+《アクセル》!」
ルカの渾身の蹴りが炸裂した。
左足を軸に右足で思いっきり頭を蹴ると、たまらずヘルボロスの小指は声無く悲鳴を上げた。
「まあこれでダメージはかなり入ったかな?」
「じゅ、十分すぎると思いますよー?」
リネアには何は起こっているのか分からなかった。
相棒の地竜も瞬きをする間もなく、ルカの活躍を凝視していた。
あまりにも強すぎた。
あの一瞬で受け身を取り、魔術を連鎖させ、さらには掛け合わせたことで爆発的なまでの質量を持ったエネルギーを叩き込んだのだ。
こんな芸当ができる魔術師はそうおらず、まさしく逸材だと直感した。
ナタリーが気に掛ける訳も何となく分かった気がした。
「いやいや、いくらヘルボロスの小指とは言えこの程度で音を上げたりしませんよ」
「えっ?」
リネアは驚愕した。
確かにルカの言う通り、ヘルボロスの小指は蹴り飛ばされたとはいえ、まだピクピクと微かに動いていた。
いいや微かに動いているのはわざとだ。
それだけ体力の回復に努めるとともに、近づいてきたところをミミズのような頭で噛み食らおうという算段だった。
なかなかに頭が回っていた。
しかルカ曰く、ヘルボロスの小指はあくまでも指先でしかなく、指先以上でもなかった。
「リネアさん、訂正しますね。ヘルボロスの小指に脳は有りませんよ?」
「えっ? あんなに知略が働いているのにですかー?」
「はい。アレは本能的なもので、言ってしまえば虫みたいなものですよ」
「む、虫?」
ルカからしてみれば、本体の方が恐ろしいと聞いたことがあった。
五つの指先を従え、知略と破壊の限りを尽くす悪魔。そう聞いたことがあった。
しかしながら小指はあまりにも弱かった。
ルカはまだ何か隠し持っているのではないかと深く考えすぎていて、闇雲に手出しができなかった。
「全く面倒ですよね。遠距離攻撃が効けばいいんですけどね」
「効かないんですか?」
「はい。あの肌色の体には脂が詰まっていて、至近距離以外の攻撃を吸収して自分のエネルギーに変えてしまうんですよ。実際、さっきの蹴りは入ったので」
とは言え、既に勝負は決していた。
ルカは終始余裕そうで、にやにやと笑みを浮かべていた。
緊張感が足りなかった。
言葉には重みがあるのに、表情があまりにも愉快過ぎたのだ。
「それじゃあとっとと倒しますね」
ルカはそう言うと、ヘルボロスの小指に向かって近づいた。
しかし次の瞬間、ヘルボロスの小指の首が大きく動いた。
「おっ!」
ヘルボロスの小指は頭から痰を吐きかけた。
しかしただの痰ではなく、触れた途端に地面が溶けた。
「じ、地面が抉り取られたー!」
「いいや、多分表面が溶けたんですよ。へぇー、溶解液を出せるんだ。面白いな」
ルカは知らない動きをされて楽しんでいた。
普通なら楽しむ余裕などないはずなのに、ルカからは笑顔が止まらなかった。
何にも囚われない。何にも縛られない。誰にも触れられない。
思いっきり戦える開放感が久々にルカの全身を拘束から解除していたのだ。
こんなに面白いことは無いと、いつもの命の危機に晒されない状況にかなり満足しているのだった。
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