1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

聖夜編

２９２．校長室の呼び出されたけれども

　ルカは不満を募らせていた。
　表情がいつもと違って穏やかではなかった。

「ちょっとルカ。何でそんな顔しているのよ」
「別に」
「整った顔立ちが怒っているように見えるわよ」
「まあ怒っているからね。正直ムカついているよ」

　ルカは眉根を寄せていた。
　ルカは基本的には寛容で、ここまで怒りを露わにすることはなかった。

　しかし今回は例外だ。ルカの怒りの導火線に火を点けてしまった。
　しょうもないことではなく、ルカはふつふつと怒りの炎を燃やしていた。

「まあアレだよねー。食べものの恨みは怖いってことだよー」

　ライラックは分かってくれていた。
　親指を立ててグッドマークを送ると、「やっぱりかぁー」と口走った。

　それから程なくして校長室の前に辿り着いた。
　いつ見てもここに入るとこは身構えてしまうもので、特に今日はルカがこの調子なので入るに入れなかった。

「ううっ……」
「シルヴィ、そんな調子で大丈夫？」

　ライラックがシルヴィアを煽った。
　顰めていた表情をハッとさせて、シルヴィアがムキになる。

「だ、大丈夫に決まっているわよ！　は、入るわよ」
「如何でもいいよ。とにかく早く終わらせるよ」

　ルカがシルヴィアよりも早く扉を開けた。
　魔力が若干漏れていて、扉の警戒装置が発令された。

　学校全体に警戒態勢が敷かれる前に、ルカの圧倒的な魔力練度によって警戒装置が無効化された。
　ルカの前には警戒装置すら無意味らしい。

「失礼しまーす」

　シルヴィアが恐る恐る校長室に入った。
　中ではナタリーが椅子に座っていたが、眉根を吊り上げて警戒していた。
　しかしルカ達の顔色を見ると、薄っすらと警戒を解く。

「はぁー。皆さんでしたか」
「こ、校長先生。えっと、失礼します」
「大丈夫ですよ、シルヴィアさん。そう警戒されなくても……ところでルカさんは如何してそんなに苛立っているんですか？」
「誰かさんのせいかな？」

　ルカがナタリーに対して魔力を飛ばした。
　するとナタリーの髪の毛が静電気でも浴びたみたいに膨れ上がった。

　全身に稲妻が走ると、突如として氷の世界に突き飛ばされたような悪寒が背筋を凍らせた。
　ナタリーは一人孤立したような気持ちになり、暗闇の世界に閉じ込められた。

「はぁはぁ……如何して本気で怒って」
「本気じゃないよ。二割くらい？」
「これで二割……やはり力が上がっていますね。あはは、そ、それでルカさん、少しだけ抑えて貰ってもよろしいですか？」
「無理かなー。こっちはまだご飯食べてないんだよね。お腹減っているんだよね。今すぐに呼ばなくても放課後に呼んでくれればいいのにさ。わざわざ放送まで使って呼び出すなんて、相当のことじゃないと許さないけどね？」

　ナタリーは絶句していた。
　ルカの二割の本気を目の当たりにして過呼吸になってしまった。

　全身から汗が滲み出ていた。
　体内の水分が恐怖心で汚染される。

「まあいいよ。とりあえず食べ物の恨みは怖い。万死に値するってことだけは覚えておいてね。にこっ！」

　ルカは満面の笑みを浮かべた。いつもは見せない行為なので、全身が警戒する。

「は、はい。分かりました。肝に銘じておきます」
「うんうん。肝に銘じておいてね。……うん、うんうん」
「何か言ってください。こ、怖いです……」

　ナタリーは震えていた。
　そんな最中、シルヴィアが頑張ってルカに肘を入れた。

「ちょっとルカ。校長先生に失礼でしょ？」
「大丈夫だよ」

　ルカの目はにこやかだが笑っていなかった。
　シルヴィアも震え上がり、全員が黙ると、ルカがナタリーを本題の舞台へと押し上げた。

「それでナタリー。如何してこんな時間に呼んだのかな？」
「あっ、はい。それはですね……こほん。是非皆さんにお願いしたいことがございまして」
「「「お願い？」」」

　全員が怪しんだ。ルカだけではなく、シルヴィアやライラックでさえ表情が訝しんだ。
　大抵ナタリーが持ってくる内容は、ルカ達を面倒な方向へと導いてしまう。
　それがルカの最大の懸念点だったが、一応話だけは聞いてあげた。

「一応話は聞くよ」
「ありがとうございます。それでは皆さん、ホーリーは御存じですよね？」
「ホーリー？」

　何だその神聖な名前はと、ルカは思ってしまった。
　しかしルカ以外の面々にはホーリーと聞いて、いち早く察した。
　むしろホーリーにはそれしかないと思われてしまう程有名なお祭りがあるからだ。

「ホーリー？」
「ちょっとルカ。朝説明したでしょ？」
「朝？　ああ、サンタ・ク・ロースね。クリスマスのイベントだよね？　それが如何かしたの」
「ホーリーがその発祥でしょ？　繋げてみなさい」
「いや分かっているよ。分かっているけど面倒なニオイがするから考えたくないだけだよ」

　ルカは目を瞑っていた。
　しかしナタリーの口から答えが言われてしまった。

「と言うことで、皆さんにはホーリーの街に行って来てもらいたいんです」
「やっぱりかー」

　ルカは溜息を吐いた。
　絶対面倒なことになると予想ができたからだ。