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聖夜編
290.ラーメンは美味い
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食堂のおばさんの満ち満ちた表情は腕前にも発揮されていた。
しばらく鈍ら同然だった腕を振り上げ、寸胴の鍋に継ぎ足しされていたスープの素を解禁した。
モワッと湯気が立ち込めた。
それと同時に、他の列からの視線が一斉に集まる。
「す、凄い見られている」
今の今まで封印されてきた出汁がここに来て解禁されたのだ。
湯気に乗り、食堂内一杯にその存在をアピールした。
「な、何だこのニオイ!」
「めちゃくちゃ出汁の効いた香りが……美味そう」
「でも何の食べものかしら?」
「さあね。でも珍しい子が立っているよ」
料理だけではなく、ルカにも注目が行った。
ルカはアルカード魔術学校ではそれなりに有名人だったからだ。
ほとんど上級生とも下級生とも交流は無かった。
いいや、完全に無かったのだがその名前だけは知られていた。
それだけのことを毎回平気でやってしまうので仕方ないと言えば仕方ない。
「何よ。この騒然とした雰囲気」
「ん? あっ、スプラ」
そこに現れたのは前に決闘をして、中途半端な形で終わらせてしまったスプラ・ブルーウェブの姿があった。
隣には友達のフロストも居た。
如何やら二人も食堂に足を運ぶらしく、いつもとは逸脱した雰囲気が立ち込めていたのを肌感で察したようだ。
「ちょっとルカさん、貴女何頼んだのです?」
「何って……見たら分かるよ」
ルカはそう口にしてでき上がるのを待った。
すると厨房ではおばさんが盛大に湯切りをしていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
全神経を集中させ、一本の麺になるように絡ませた。
全身から伝わる熱気を止めることはできず、果たしてこれは本当に学食なのかと疑いたくなるレベルの集中加減にルカはドン引きしていた。
「いや、流石にやりすぎな気が……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! あちゃあちゃあちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ふう、完成ね」
突然キャラが変わって発狂したかと思えば、素に戻ってびっくりした。
付いていけない反応の変わり方にルカはドン引いたままだが、でき上がった料理を見て感激した。
「はい、お待ちどう!」
「うわぁ、期待以上です!」
ルカは拍手喝采を送った。
目の前にはトレイの上に乗せられた丼、中には黄金色の麺と透き通るような色合いの黒いスープが入っていた。
しかも凄いのがナルトにメンマ、さらには厚切りのチャーシューまで入っていた。
たっぷりのねぎに煮卵と、これは学生食堂のレベルを当に超えていた。
「何コレ?」
「これはラーメンだよ」
「「ラーメン?」」
スプラとフロストは首を捻った。
他の人達も同様で、この国ではあまり馴染みが無かった。
この間ナタリーと一緒に行った食堂では注文もされていた。
しかしこの国の人では無かった。
それくらい、ラーメンの文化はこの国には定着していなかった。
「東の大国から伝わった食べものなんだけど……まあ食べて見たら分かるよ」
ルカはスプラとフロストにも味見をするように要求した。
二人は恐る恐ると言った様子で、慣れない箸に苦戦する。
「えーっと、こうでいいのかしら?」
「多分ですけどね」
スプラとフロストが苦戦を強いられる中、ルカは先に手を付けた。
箸で器用に麺を掬い上げると、極細縮れ麺に絡みついたスープの気泡が口の中で弾けた。
「美味い!」
「そう目の前で言って貰えると嬉しいよ」
食堂のおばさんも大満足だった。
しかし世辞などは一切無く、本当に美味しかった。
味噌や豚骨、ちょっと変わり種の担々麺などは好みに分かれてしまう。
しかし醤油や塩はあくまでも持論だがほとんどの人、嫌いではない気がした。
そのおかげか、スプラとフロストも一口頬張ると目を見開いていた。
今まで食べたことのないものが口の中で爆裂した。
未知との遭遇、その結果は二人の感性にも明らかだった。
「何コレ、凄く美味しいですわ!」
「本当。こんなに美味しかった何て……今まで知らなかったです」
二人とも感嘆としていた。
直後、背後からたくさんの視線を感じた。飢えた獣のようで、ルカは「あはは」と笑っていた。
「えっと、多分明日から滅茶苦茶流行ると思いますよ」
「如何言うことだい?」
「言葉通りですよ。この視線、全部ラーメンに注がれているんです。きっと忙しくなりますよ」
ルカはそう言い残すと、シルヴィア達の元へと戻ることにした。
それにしてもまさかこんな良いものに出会えるとは思ってもいなかった。
おそらく監修したのはナタリーだ。
ナタリーが作ったのではなく、美味しいラーメンが作れる人を捜していたのだ。
いつかルカが目覚めた時に、振舞えるようにと用意周到だった。
ルカは底まで気付いていながらも、一つだけ懸念していたことがあった。
「コレ、明日から食べられないね」
ルカはショックだった。
これだけ流行るのは良いことだけど、次食べられるのがいつになるのか分からなかった。
その瞬間、空気を振動が走った。
ルカは魔力の気配をピリリと感じ取り、何か嫌な予感が脳裏を過ってしまうのだった。
しばらく鈍ら同然だった腕を振り上げ、寸胴の鍋に継ぎ足しされていたスープの素を解禁した。
モワッと湯気が立ち込めた。
それと同時に、他の列からの視線が一斉に集まる。
「す、凄い見られている」
今の今まで封印されてきた出汁がここに来て解禁されたのだ。
湯気に乗り、食堂内一杯にその存在をアピールした。
「な、何だこのニオイ!」
「めちゃくちゃ出汁の効いた香りが……美味そう」
「でも何の食べものかしら?」
「さあね。でも珍しい子が立っているよ」
料理だけではなく、ルカにも注目が行った。
ルカはアルカード魔術学校ではそれなりに有名人だったからだ。
ほとんど上級生とも下級生とも交流は無かった。
いいや、完全に無かったのだがその名前だけは知られていた。
それだけのことを毎回平気でやってしまうので仕方ないと言えば仕方ない。
「何よ。この騒然とした雰囲気」
「ん? あっ、スプラ」
そこに現れたのは前に決闘をして、中途半端な形で終わらせてしまったスプラ・ブルーウェブの姿があった。
隣には友達のフロストも居た。
如何やら二人も食堂に足を運ぶらしく、いつもとは逸脱した雰囲気が立ち込めていたのを肌感で察したようだ。
「ちょっとルカさん、貴女何頼んだのです?」
「何って……見たら分かるよ」
ルカはそう口にしてでき上がるのを待った。
すると厨房ではおばさんが盛大に湯切りをしていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
全神経を集中させ、一本の麺になるように絡ませた。
全身から伝わる熱気を止めることはできず、果たしてこれは本当に学食なのかと疑いたくなるレベルの集中加減にルカはドン引きしていた。
「いや、流石にやりすぎな気が……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! あちゃあちゃあちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ふう、完成ね」
突然キャラが変わって発狂したかと思えば、素に戻ってびっくりした。
付いていけない反応の変わり方にルカはドン引いたままだが、でき上がった料理を見て感激した。
「はい、お待ちどう!」
「うわぁ、期待以上です!」
ルカは拍手喝采を送った。
目の前にはトレイの上に乗せられた丼、中には黄金色の麺と透き通るような色合いの黒いスープが入っていた。
しかも凄いのがナルトにメンマ、さらには厚切りのチャーシューまで入っていた。
たっぷりのねぎに煮卵と、これは学生食堂のレベルを当に超えていた。
「何コレ?」
「これはラーメンだよ」
「「ラーメン?」」
スプラとフロストは首を捻った。
他の人達も同様で、この国ではあまり馴染みが無かった。
この間ナタリーと一緒に行った食堂では注文もされていた。
しかしこの国の人では無かった。
それくらい、ラーメンの文化はこの国には定着していなかった。
「東の大国から伝わった食べものなんだけど……まあ食べて見たら分かるよ」
ルカはスプラとフロストにも味見をするように要求した。
二人は恐る恐ると言った様子で、慣れない箸に苦戦する。
「えーっと、こうでいいのかしら?」
「多分ですけどね」
スプラとフロストが苦戦を強いられる中、ルカは先に手を付けた。
箸で器用に麺を掬い上げると、極細縮れ麺に絡みついたスープの気泡が口の中で弾けた。
「美味い!」
「そう目の前で言って貰えると嬉しいよ」
食堂のおばさんも大満足だった。
しかし世辞などは一切無く、本当に美味しかった。
味噌や豚骨、ちょっと変わり種の担々麺などは好みに分かれてしまう。
しかし醤油や塩はあくまでも持論だがほとんどの人、嫌いではない気がした。
そのおかげか、スプラとフロストも一口頬張ると目を見開いていた。
今まで食べたことのないものが口の中で爆裂した。
未知との遭遇、その結果は二人の感性にも明らかだった。
「何コレ、凄く美味しいですわ!」
「本当。こんなに美味しかった何て……今まで知らなかったです」
二人とも感嘆としていた。
直後、背後からたくさんの視線を感じた。飢えた獣のようで、ルカは「あはは」と笑っていた。
「えっと、多分明日から滅茶苦茶流行ると思いますよ」
「如何言うことだい?」
「言葉通りですよ。この視線、全部ラーメンに注がれているんです。きっと忙しくなりますよ」
ルカはそう言い残すと、シルヴィア達の元へと戻ることにした。
それにしてもまさかこんな良いものに出会えるとは思ってもいなかった。
おそらく監修したのはナタリーだ。
ナタリーが作ったのではなく、美味しいラーメンが作れる人を捜していたのだ。
いつかルカが目覚めた時に、振舞えるようにと用意周到だった。
ルカは底まで気付いていながらも、一つだけ懸念していたことがあった。
「コレ、明日から食べられないね」
ルカはショックだった。
これだけ流行るのは良いことだけど、次食べられるのがいつになるのか分からなかった。
その瞬間、空気を振動が走った。
ルカは魔力の気配をピリリと感じ取り、何か嫌な予感が脳裏を過ってしまうのだった。
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