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聖夜編

289.食堂でお昼

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 ちょうどお昼になった。
 午前の授業が終わり、教室から一斉にクラスメイトが消えて行った。

 当然だが雪も消えていた。
 ルカが授業中に降らせた雪は、およそ五分で全て消え去ってしまった。
 掃除をしなくて楽だったが、何処か味気なかった。

「さてと、それじゃあ昼食を取りに行こうか」
「えっ? ルカさん、お弁当は?」

 ダリアが不思議そうな顔を浮かべた。
 ルカがいつも手製の弁当を持ってくるので意外に思われてしまった。

「今日は作って来てないから。せっかくだし、久々に食堂に行こうかなって」

 ルカが笑顔で答えた。
 いつもいつも弁当を作っていたので、学校の食堂で出されるいわゆる学食を食べたかったのだ。

 もちろん食べたことはあった。
 だけど今から三か月も前なので、少し変わったメニューが追加されているかもしれない。
 そこでルカはあえて作らずに食堂で食べると決めていた。

「四人はお弁当?」
「は、はい……そうですか。それじゃあ私も付いていきますね!」
「えっ? 別に大丈夫だよ?」
「いいえ!」

 ダリアは立ち上がった。
 それから両手で弁当を持ち、ルカの顔をまじまじと見つめる。

「私はルカさんと一緒に食べたいんです」
「その言い方だと、私達とは食べたくないってこと?」
「そんなことないですよ! ですので皆さんで行きましょう!」

 シルヴィアが茶々を入れると、ダリアはすぐさま一蹴してしまった。
 あまりの切り替えの速さに最初からそのつもりだったらしい。

「食堂は確か学食以外を食べても良いはずです。もちろんお弁当を持参していれば席に着いて食べることができます」
「それはそうですね。……私も構いませんよ」
「それじゃあ早速行こうー。もうお腹空いたよー」
「寝てただけなのにお腹は減るのね」

 シルヴィアがライラックに厳しく言った。
 しかしライラックは何のその、全く聞いていなかった。


 食堂はとても広かった。
 ルカ達だけではなく、一年生から五年生まで、ずらりと並んでいた。

 ここに年齢による差は無く、空いた席に好きなように座っていた。
 もちろん反対側では、今もせっせと食堂の職員が料理を作って提供していた。

 出来合いのものだけではなかった。
 最新設備の厨房からは超高温の炎魔法で油を飛ばしているのが肌感で伝わる程だ。

 まさしく戦場。ルカは「うわぁ」と拍手喝采を送りたくなった。
 それくらい膨大な熱量が三分の一の空間を支配しており、ルカは異常だとも思ってしまう。

「何度来ても凄いね」
「こんなのいつものことよ。それより空いている卓を探しましょう」

 シルヴィアは軽く流してしまった。
 もう少し労っても良いと思ったのだが、ルカは特に口に出すことはしなかった。

 それから空いている席を探してみると、意外に端の方は人が少なかった。
 こういう広い空間だと人間は真ん中を避けたがると思ったが、如何やらコミュ力がある生徒には通用しないらしい。

 見れば生徒に混ざって教師陣もかなり居た。
 生徒達の輪の中に入り、午後の授業に付いて話していた。
 勉強熱心だと思う反面、窮屈に感じないのかと不安も過ったが、ルカには全く関係なかった。

「まあいっか」
「何がいいんですか?」

 ダリアが尋ねた。
 しかし気にする話でもないので、「何でもないよ」と答え頭を優しく撫でた。

 ダリアは嬉しそうな笑みを浮かべた。
 顔がふにゃーとなっていたので、誰でも想像が付いた。

「それよりルカは何を食べるのよ? 今から並んで間に合うものにしなさいよ」
「分かっているよ。そうだねー……あっ、良いのある」

 ルカは席だけ先に取ると、何を注文するか考えた。
 張り出されているメニューを見て見ると、一つ食べたいものが見つかった。
 この辺りでは食べられない物なので、人もそこまで並んでいなかった。

「それじゃあ注文して来るよ」
「行ってらっしゃーい!」

 ライラックが手を振って見送った。
 上半身を突っ伏して今にも寝てしまいそうな体勢を取ってはいたが、勝手に弁当を食べたりはしなかった。

 ルカは財布を亜空間から取り出した。
 それから空いていた列に並ぶと、ルカは並んだ瞬間に注文することができた。

「すみません」
「はーい、サンドイッチは向こうね。それからオムライスとオムレツは二つ隣だから」

 そこにはおばさんが物調面で立っていた。
 何を勘違いしているのか、ルカは訂正する。

「あっ、違います」
「ん? えっ、もしかしてこの列なの? 何年ぶり?」
「な、何年?」

 そんなの知るわけが無かった。
 しかしこの反応を見るによっぽど人気が無いようだ。

 もちろん味を知っている人間からすれば美味いのは分かっていた。
 しかしここまで食堂のおばさんが不安そうな顔をすると逆に不安になった。

「本当で注文してくれるのかい?」
「は、はい。ダメですか?」

 正直口はコレを食べることに決まっていた。
 しかし断られるのなら仕方が無かったが、おばさんの反応は違った。
 むしろ好意的だった。

「そんなことないよ。それじゃあ本格派の腕前見せてあげるから!」
「本格派ならお願いします。ちなみに味は……」
「醤油に味噌、塩に豚骨何でも行けるよ」
「それじゃあ醤油で。今日は定番で」
「醤油ね。それじゃあ待っときな!」

 急に活気が出ていた。先程までの雰囲気が一変している。
 おばさんの満ち満ちた表情が飛び込んでくると、ルカも期待したくなった。
 いいや、期待は最初からしていなかった。
 何故なら美味いと確信していたからだ。
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