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雷鳥編
250.手を放してはダメ
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ルカは左手を放した。
すると指先に水分が触れ、簡単に滑ってしまう。
「ヤバっ!?」
しかしルカは落ちることはなかった。
右足のつま先を岩と岩の間に挟み込み、体をしっかり固定する。
その上でシルヴィアの援護をちゃんと怠っていない。
シルヴィアの視線の先で、ジャベリンバードがギィィィィ! と耳鳴りのような音を立てて止まっていた。
いいや、むしろこれ以上先に行けないようにされていた。
「な、何が起こっているの?」
シルヴィアはパニックになった。
何とか不安定になった体勢を元に戻し、目の前で起こっていることを分析する。
ルカの魔術であることは理解している。
けれどこんな完璧な防御魔術を見たことがないので、素直に見惚れていた。
「凄く綺麗な防御魔術。魔力のブレも歪みも、ましてや力の分散も全部できているわ」
「感心している場合じゃないでしょ?」
しかしルカはそんなシルヴィアを咎めた。
ジャベリンバードはルカの完璧なまでの防御魔術に阻まれてはいるが、それでもシルヴィア目掛けて攻撃を続けている。
全身を一本の槍のように窄める形で変形し、耳鳴りをさせていた。
少しでも気を抜けば、確実にシルヴィアの目を貫いている。
その恐ろしさが、ルカの魔術で拡散されていた。が、シルヴィアは奮い立てて意識を切り替え。
「そ、そうよね。それじゃあ今度こそ、《エアー・バレット》!」
「それじゃないって!」
シルヴィアはもう一度同じ魔術を使った。
当然だ。シルヴィアの得意な魔術は風属性。風の魔術を引き出しから最初に持ってくるのは必然である。
しかしルカは「それじゃない」と訴えた。
如何してか? そんなの、さっきみたいに風圧の反動で落ちるから。後は滑りやすいのに風を使って岩肌を風化させるなんて論外だと思ったのだ。
頭で考えられるシルヴィアならわかってくれるはず。
そのための時間も稼いだはずだ。
けれどシルヴィアが取った最善の策は、ルカにとっては最善でも何でもない悪手だった。
「いっけぇ!」
人差し指から空気を圧縮した弾丸が打ち出された。
全身を投げ槍のように突撃させたジャベリンバードに直撃する。
硬く硬化した嘴と翼。
本当なら空気弾何てなんてことないはずなのに、超至近距離から撃たれれば流石に効いてしまう。
ジャベリンバードは僅か一センチぐらいの距離から空気弾を撃たれ、案の定直撃。
体が後方に吹き飛ばされて、岩肌に叩きつけられて絶命した。
「や、やったわ! 私勝ったわよ!」
「そうだね。でも、空気弾は良くなかったね」
ルカはジト目になって喜んでいるシルヴィアに釘を刺した。
褒められると思っていたシルヴィアは意外に思い、むしろ褒めてくれなかったことにプクッと頬を膨らます。
「な、何よ。少しは褒めてくれても良いわよね」
「何言ってるのさー。今のはルカの方が正しいって」
けれど親友のライラックはルカと同じくシルヴィアを罵倒。
余計にむくれるシルヴィアだったが、急に岩肌がボロっと崩れて、脚が外れた。
「えっ!? ……」
シルヴィアの中で時間がゆっくりに感じた。
超スローモーションで真下に落下していく体。
抗うこともできず、ただ思考だけが遅れる。
(私、落ちた?)
それだけは明確に理解できた。
けれどこのままじゃ間違いなく死ぬ。
そう思った瞬間、頭と心は恐怖心に支配された。
こんなところで死にたくない。
そう思えば思う程、内側から黒い何かが蠢き出す。
自然魔術を行使しようとした。
引き出しの最上段。逸見の飛行魔術を使うも間に合わないと悟り、目をギュッと瞑った。
「だからダメだったんだよー」
その瞬間、体が逆さまになった。
左足が吊られ、空中に宙吊りになる。
背中が岩肌に擦れて若干痛かったが、如何やら落っこちてはいないみたいだ。
「な、何が起こったの?」
驚いて自分の左脚を見れば一目瞭然。
細いワイヤーのような糸が絡まっていたのだ。
その視線の先を追えば、当然のように笑っている。
「ライ、助けてくれたのね!」
「こうなるだろうと思って、命綱を二本体制にしておいたんだよねー」
こうなることを予想されていたのは腹が立った。
けれどおかげで助かったと、シルヴィアは安堵する。
「大丈夫ですか、シルヴィアさん!」
「ええ大丈夫よ。それよりもライ。如何してこうなるってわかっていたのよ?」
ダリアに心配されつつもすぐにいつもの調子を取り戻す。
それからライラックに質問した。
「如何してって、ルカと同じだよ」
「ルカと? そう言えばさっきそれじゃないって煽っていたわね」
「煽ったわけじゃないけどさ。ジャベリンバードを空気弾では倒せない。せいぜい吹き飛ばして、叩きつける程度。そうなれば如何なる?」
「如何なるって……そんなの崖が揺れる……あっ!」
「正解。だから気を付けようね」
シルヴィアは黙り込んで、コクリと首を縦に振った。
ジャベリンバードが崖に叩きつけられると振動が起こる。
振動が起これば水分で若干脆くなった岩肌は崩れやすくなる。
そうなれば如何なる? もちろん崩れるかもしれない。ルカ達はそこまで読んでいたのだ。
すると指先に水分が触れ、簡単に滑ってしまう。
「ヤバっ!?」
しかしルカは落ちることはなかった。
右足のつま先を岩と岩の間に挟み込み、体をしっかり固定する。
その上でシルヴィアの援護をちゃんと怠っていない。
シルヴィアの視線の先で、ジャベリンバードがギィィィィ! と耳鳴りのような音を立てて止まっていた。
いいや、むしろこれ以上先に行けないようにされていた。
「な、何が起こっているの?」
シルヴィアはパニックになった。
何とか不安定になった体勢を元に戻し、目の前で起こっていることを分析する。
ルカの魔術であることは理解している。
けれどこんな完璧な防御魔術を見たことがないので、素直に見惚れていた。
「凄く綺麗な防御魔術。魔力のブレも歪みも、ましてや力の分散も全部できているわ」
「感心している場合じゃないでしょ?」
しかしルカはそんなシルヴィアを咎めた。
ジャベリンバードはルカの完璧なまでの防御魔術に阻まれてはいるが、それでもシルヴィア目掛けて攻撃を続けている。
全身を一本の槍のように窄める形で変形し、耳鳴りをさせていた。
少しでも気を抜けば、確実にシルヴィアの目を貫いている。
その恐ろしさが、ルカの魔術で拡散されていた。が、シルヴィアは奮い立てて意識を切り替え。
「そ、そうよね。それじゃあ今度こそ、《エアー・バレット》!」
「それじゃないって!」
シルヴィアはもう一度同じ魔術を使った。
当然だ。シルヴィアの得意な魔術は風属性。風の魔術を引き出しから最初に持ってくるのは必然である。
しかしルカは「それじゃない」と訴えた。
如何してか? そんなの、さっきみたいに風圧の反動で落ちるから。後は滑りやすいのに風を使って岩肌を風化させるなんて論外だと思ったのだ。
頭で考えられるシルヴィアならわかってくれるはず。
そのための時間も稼いだはずだ。
けれどシルヴィアが取った最善の策は、ルカにとっては最善でも何でもない悪手だった。
「いっけぇ!」
人差し指から空気を圧縮した弾丸が打ち出された。
全身を投げ槍のように突撃させたジャベリンバードに直撃する。
硬く硬化した嘴と翼。
本当なら空気弾何てなんてことないはずなのに、超至近距離から撃たれれば流石に効いてしまう。
ジャベリンバードは僅か一センチぐらいの距離から空気弾を撃たれ、案の定直撃。
体が後方に吹き飛ばされて、岩肌に叩きつけられて絶命した。
「や、やったわ! 私勝ったわよ!」
「そうだね。でも、空気弾は良くなかったね」
ルカはジト目になって喜んでいるシルヴィアに釘を刺した。
褒められると思っていたシルヴィアは意外に思い、むしろ褒めてくれなかったことにプクッと頬を膨らます。
「な、何よ。少しは褒めてくれても良いわよね」
「何言ってるのさー。今のはルカの方が正しいって」
けれど親友のライラックはルカと同じくシルヴィアを罵倒。
余計にむくれるシルヴィアだったが、急に岩肌がボロっと崩れて、脚が外れた。
「えっ!? ……」
シルヴィアの中で時間がゆっくりに感じた。
超スローモーションで真下に落下していく体。
抗うこともできず、ただ思考だけが遅れる。
(私、落ちた?)
それだけは明確に理解できた。
けれどこのままじゃ間違いなく死ぬ。
そう思った瞬間、頭と心は恐怖心に支配された。
こんなところで死にたくない。
そう思えば思う程、内側から黒い何かが蠢き出す。
自然魔術を行使しようとした。
引き出しの最上段。逸見の飛行魔術を使うも間に合わないと悟り、目をギュッと瞑った。
「だからダメだったんだよー」
その瞬間、体が逆さまになった。
左足が吊られ、空中に宙吊りになる。
背中が岩肌に擦れて若干痛かったが、如何やら落っこちてはいないみたいだ。
「な、何が起こったの?」
驚いて自分の左脚を見れば一目瞭然。
細いワイヤーのような糸が絡まっていたのだ。
その視線の先を追えば、当然のように笑っている。
「ライ、助けてくれたのね!」
「こうなるだろうと思って、命綱を二本体制にしておいたんだよねー」
こうなることを予想されていたのは腹が立った。
けれどおかげで助かったと、シルヴィアは安堵する。
「大丈夫ですか、シルヴィアさん!」
「ええ大丈夫よ。それよりもライ。如何してこうなるってわかっていたのよ?」
ダリアに心配されつつもすぐにいつもの調子を取り戻す。
それからライラックに質問した。
「如何してって、ルカと同じだよ」
「ルカと? そう言えばさっきそれじゃないって煽っていたわね」
「煽ったわけじゃないけどさ。ジャベリンバードを空気弾では倒せない。せいぜい吹き飛ばして、叩きつける程度。そうなれば如何なる?」
「如何なるって……そんなの崖が揺れる……あっ!」
「正解。だから気を付けようね」
シルヴィアは黙り込んで、コクリと首を縦に振った。
ジャベリンバードが崖に叩きつけられると振動が起こる。
振動が起これば水分で若干脆くなった岩肌は崩れやすくなる。
そうなれば如何なる? もちろん崩れるかもしれない。ルカ達はそこまで読んでいたのだ。
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