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雷鳥編

245.鋼の竜④

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 ルカ達はメタルグラムを起こさないよう注意しなければならない。
 ルカのリアリティのある話を聞いて震え上がるシルヴィア達を尻目に、ルカはメタルグラムが起きないことを確認した。

「とりあえず、まだ大丈夫みたいだから慎重に行こうか」
「ルカはこんな時でも呑気よね」
「呑気なのはライラックの方でしょ?」
「そういうことじゃなくてね……ああ、わからないのかしら。如何してルカはこんな時の方が生き生きしているのよ」
「それは……」

 ルカは声を押し殺した。
 「得体の知れない相手よりも得体が知れている相手の方がどれだけ強大でも怖くはないよ」と言おうとしたのだ、
 けれどルカはここで考える。またぐだぐだ言われて時間だけが立ってしまう。
 それを避けるため、ルカは何も言わないことにした。

 それよりもルカは出口を探す。
 ちょうどメタルグラムの反対側に、小さな洞穴がある。
 そこを目指してみることにした。

「とりあえず、あの洞穴に入ってみようよ」
「あの洞穴って……随分と小さいわね」
「崩れてきそうだよー」

 ライラックが怖いことを口にした。
 するとシルヴィアがギロッとライラックを睨んでおり、「やめてよね」と圧力をかけた。

「うわぁ、怖い。ねえルカ、早く行こうよ」
「そうだね。くだらない言い合いはお終い」
「ちょっと、くだらないなんて言わないでよね!」
「はいはい。それじゃあ行こうか」

 ルカはシルヴィアを軽くあしらって、先導をすることにした。
 ライラックやダリアが後ろを付いていく中、自分だけで遅れてしまったので慌てて追いかける。

「ちょっと、そんなに音を立てても大丈夫なの?」
「メタルグラムは耳があまり良くないからね。これぐらいなら問題ないよ」

 ルカはシルヴィアの質問にすんなり答えた。
 ホッと一安心して、胸を撫で下ろしている。
 メタルグラムを横目にし、いつ襲われるかわからない恐怖心に精神が震えた。
 けれどルカは前を向き、特に気負うこともしない。

「へぇー、本当に起きないのね」
「多分眠りに着いてからしばらく経っているんじゃないかな?」
「この空洞もおそらくはメタルグラムの仕業でしょうね」
「どういうことですか、ブルースターさん」

 ダリアはブルースターの突飛な回答に首を捻った。
 するとブルースターは補足をしっかりとする。

「これだけの巨大な空洞です。おそらく何かが眠っていたのでしょうね」
「眠っていた? もしかして鉄ですか」
「そうです。メタルグラムは鉄を食べる。そうですよね、ルカさん」

 ブルースターの問いにルカは「そうだよ」と答える。
 けれどここでも追記をしておく。

「ただし、鉄を主食にしているだけで金や銀、銅やニッケルなんかも食べるよ」
「そんなの何でも有りじゃない」
「何でも有りだよ。でも、それだけの鉄がここに眠っていたってことだよ。もしかして、雷山って昔は鉱山の一種だったのかな?」

 とは言えルカには判断できない。千年前の人間には直近のことなど知る由もない。
 するとシルヴィア達もあまり関心がなかったのか、「そうかもしれないわね」と曖昧な同意だった。

「鉱山でも鉱山じゃなくてもいいんだけどさー。メタルグラムがもしも起きたらどうなるの」
「頑張るしかないね」
「頑張るって、もしかして戦うの?」
「それとも逃げるか。どちらにせよ、相手をすることには変わらないからね。絶対に起こさないでよ」
「そんなの当たり前よ。それに、こんな石ころが当たったぐらいじゃ起きないんでしょ?」
「シルヴィ、それフラグだよ」

 シルヴィアは危険なフラグを呟いた。
 するとコツンとシルヴィアに足先に小石が触れる。
 何てことの無い、鋭くもない小さな石ころだったが、シルヴィアは不意に躓いてしまう。

「うわぁ!」
「おっと、大丈夫?」
「ええ平気よ。それにしても本当に歩き難いわね」
「整備なんてされていないからね。でもこんなのが居たら、整備なんてできない……よ?」

 ルカはメタルグラムを見て固まってしまった。
 言葉が途切れてしまい、喉の奥が引き攣ってしまう。
 その様子に何か異変を感じたのはダリアとブルースターだった。
 首を捻ってルカに声を掛けた。その瞬間。

「グゥォォォォォォォォォォン!」

 とてつもない爆音が洞穴の中に響き渡る。
 天井がガタガタと揺れ出して、小さな石ころや埃を落とした。
 明らかに先程までの平穏が一気に崩れて無くなる音を奏でる。

「ちょっと待ちなさいよ。これって、嘘でしょ?」
「もしかしたらさっきの躓きで起きたとか? いや、あり得るか」
「それじゃあ私のせいってこと?」
「それはわからないけど、マズいことには変わりないんじゃないかな?」

 ルカ達の視線が一点を見つめて動かなかった。
 そこには灰色の巨体を重い鎖から解き放ち、今立ち上がろうとしているモンスターがいた。
 予想はしていた。フラグが立っていたことも知っていた。
 けれどいきなり過ぎたので、誰もメタルグラムが目覚めたことを受け入れたくないのだ。
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