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雷鳥編

242.鋼の竜①

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 デビルマウスをライラックが退けた後、ルカ達はトンネルの中をどんどん進んだ。
 奥に行けば行くほどモンスターも多くなる。
 入り口付近でデビルマウスに出会ったからか、ルカ達は全員連戦を想定した。

「って、流石にないわよね」
「如何かな? この手のトンネルとなると、たくさんのモンスターが通行止めしている可能性は十分あるよ」
「ってことはまた私の出番だねー。任せてよー、私さまだ暴れたりないんだよねー」
「と言っていますが、シルヴィさんは如何しますか?」
「ルカ、ダリアみたいな喋り方止めて」

 シルヴィアはうんざりした顔色で、ルカを睨みつけた。
 ルカもルカでライラックの真似を止めて、真剣にトンネル中を確認する。
 気配を魔力として探ると、ルカには一瞬でわかった。

「後何匹かいるね」
「如何してわかるのよ?」
「経験かな」

 凶悪なモンスターの多い地域に住んでいたルカだからこそ、この程度のことは造作もなかった。
 するとルカの気配察知は的確で、トンネル内にモンスターが現れる。

「ほら、居たでしょ?」
「居たって言うか、居座っているわね。これってデビルマウスじゃないわよね?」
「これって……岩ですか?」
「岩だね。ゴロローンっていうモンスターだよ」

 トンネルに大きな岩がすっぽりとはまっていて、ルカ達は立ち往生する羽目になった。
 しかも大岩は動く気配すらない。
 ゴロローンは手足すらないただの大きな大岩なので、一回はまると動かせないのだ。

「如何するのよ。このままじゃ先に進めないわよ?」
「また壊しちゃう? 私の糸なら余裕だよ」
「それは今回話だね。トンネルの形が変形して使い物にならなくなるかもしれない」
「それじゃあ如何するのよ?」
「ちょっと考えてみようよ。ダリア、私が水を出すから炎を出してくれるかな?」

 私がやろうとしているのは安全な方法だった。
 ダリアは疑問を持ったものの、「はい!」とはっきりと了承した。

「ちょっと、一体何をする気なのよ!」
「お湯を作って押し出す。ゴロローンはモンスターだからね。少しでも隙間に摩擦を生む物があればゴロローンは自力で動くよ」
「そ、そういうものなのね。私、知らなかったわ」

 普通は知らないから、シルヴィアが知らなくても無理はない。
 これも千年前からの経験則。
 昔ゴロローンに洞窟の入り口を塞がれて、大変だった思いをしたと、ルカは今更ながらに懐かしんだ。

「それじゃあ行くよ。ダリア、私は水を出してから1分後に温めて」
「わかりました」

 私は両手をかざした。
 すると大量のきれいな水がトンネルの中を浸し、ゴロローンに撒いていた。

「本当でこんなことで動くのかしら?」
「大丈夫だって。これだけ天井に隙間があるんだから、行けるはずだよ」

 傾斜があればもっと良かったのに。
 ルカは口にできないことを思いつつ、ダリアに水を温めて貰った。
 若干ぬるめに感じる。ルカの水の方が量が多いので、温泉のように気持ちよくはない。

「ルカさん、もう少し火力を増しますか?」
「大丈夫だよ。後は自然に動くから」

 ダリアも半信半疑だった。
 シルヴィアやブルースターが後学のために文句を吐きながらも見ていると、急にゴロローンに異変が起こった。

 ガタガタガタガタ!

 大きな岩が急に動き始めた。
 突然のバイブレーションにシルヴィアたちは驚き、ルカは不敵な笑みを浮かべる。

「もう一息だよ。それじゃあせーのっ!」

 ダリアの腕をそっと引き寄せ、ゴロローン超至近距離でお湯を浴びせる。
 若干温まったお湯の効果でゴロローンは動けなかったものの、急に前に転がり始めた。

「ル、ルカさん!」
「ほら成功したね。ダリアのおかげだよ、ありがとう」
「い、いえ! 私はルカさんの騎士ですから」
「あはは、冗談でも嬉しいよ」

 ダリアは冗談で言ったわけではない。
 頬を赤らめていて、気恥ずかしいのか怒っているのかもわからない。
 ルカは内心上手く行って良かったと思いつつ、シルヴィア達を見た。
 唖然とした表情を浮かべて固まっている。

「う、嘘でしょ?」
「本当に動いてしまいましたね。これは勉強になりました」

 ブルースターはしっかりと目で見たことを記録した。
 シルヴィアも何処に忍ばせていたのか、メモ用紙を取り出すと鉛筆を使って一生懸命書き込んでいた。

「そこまでためにはならないから、豆知識程度に覚えておけばいいと思うよ」
「へぇー、そうなんだー」
「そうなんだよ。って、ライラック何を持っているのかな?」

 不自然にライラックの手には鉛色の何かが握られていた。
 小さな石ころの断片だろうか?
 先が鋭くなっていて、先程までは落ちていなかったはずだとルカは記憶を確かにする。

「これ? これはね、ゴロローンが踏んづけてたものだよ」
「もしかしてそれを踏みつけてたせいで摩擦が生まれなかったのでしょうか?」
「そんなのわかんないよ。でもさ、ゴロローンに流される前に取っておいてよかったよ。これ、私にもわかるよ」

 ライラックが手にしていたのはとてつもない魔力を秘めていた。
 如何やら面倒なモンスターの一部なようで、ルカにはわかっていた。
 アレは鋼竜の身体の一部だ。
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