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雷鳥編
233.色んなものを観察しよう
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雷山を登り始めて20分近くが経った。
呼吸の乱れは徐々に減り、この薄い空気に適応できるようになってきた。
「ちょっと慣れて来たわね」
「本当に慣れてきたのかなー? だって顔は冷たいよー?」
「それは当然よ。コート羽織ってないもん」
シルヴィアとライラックのたわいもない話だった。
けれど少しずつ雪山の片鱗が牙を剥いているように感じた。
そんな中ダリアが周りをキョロキョロと見始めた。
徐々に白い頂上が迫って来ていて気になるのだろう。
ルカは何の気なしにダリアに話しかけてみることにした。
少しでも気晴らしになればいいと思ったのだ。
「如何したのダリア。もしかして物珍しい?」
「は、はい。それが、その……私、山には登ってことあるんですけど、雪で遊んだことは無くて」
「そうなの? もしかしてスカーレット王国って雪が積もらない?」
「そんなことないわよ。毎年ちゃんと雪は降るわ」
ということは生き方的な問題のはずだ。
ダリアは今まで部屋に引き籠っていて、外に出るのは先生と一緒に剣の修業をする時だけ。
雪山に修行することはあっても、雪で遊ぶような生易しいものではない。
「それにフィールドワークって楽しいですよね」
「確かに。珍しい生物が見られるからね」
「それもそうね。雷山って確か調べたけど、ライトニングバード以外にも珍しい生物が……あっ!」
急にシルヴィアが叫んだ。
何かと思い立ち止まると、必死に指を差していた。
かなり奥の方に何か動いている。ウサギのようだが、ルカは首を捻った。
そこまで珍しいだろうか?
そう思ったのはルカとライラックだけで、シルヴィアたちの視線が釘付けになっていた。
「ねえ、そんなに珍しいの?」
「珍しいわよ。ほら、あの白い斑点。あれ、シロホシウサギよ」
「シロホシウサギ? 何それ、美味しいの?」
「馬鹿っ! 何言っているのよ。食べるわけないでしょ。天然記念物よ!」
天然記念物? シロホシウサギも今やそのレベル何だ。
確かに美味しくないけれど、あの皮を使って昔は色々な工芸品が作られていたことを思い出す。
キュイーン!
すると今度は鳥の鳴き声が聞こえた。
空を見れば珍しい鳥が飛んでいる。大型のワシで、ダリアは興奮気味だった。
「見てくださいルカさん。あの鳥って」
「ハブキワシだね。尾の白い部分が鉄製になっていて、飛ばしてくるんだよ」
「絶滅危惧種。凄いです、うわぁ!」
急に何か落ちてきた。
黒い鉄の塊がダリアの目の前に振って来る。
如何やらハブキワシの尾の一部が抜けたようで、ずっしりとした重しがある。
「ビックリしました。急にこんなものが落ちて来るなんて」
「当たったら間違いなく死んでたね」
「災いを振り落としてきましたね」
「そうとも言えないよ。ダリアならわかるよね?」
ルカはダリアに落ちてきた鉄の塊を手渡す。
すると目付きを変え、興奮が呼び起こされる。
「な、何ですかこの鉄の塊! す、凄いです。これならいい剣が作れるはずです」
「ダリアが使うといいよ。打ち直さないとダメだけどね」
ハブキワシを見つけたのはダリアだ。
しかもダリアが指を差すと急に尾が弾け鉄の塊を落とした。
これは運命のようなものだとルカは思ったのだ。
「ちなみにさー、ダリア的に重さは如何なのー?」
「これだけあれば十分です。少し重たいですが、扱えますよ」
「凄いねー。私は遠慮したいなー」
ダリアとライラックが愉快に話していた。
するとブルースターが視線を釘付けにされた。
「おや、この植物も珍しいですね」
「今度は何?」
ブルースターは足下に咲いていた赤い実のなる植物に目を奪われた。
唐辛子のような赤い実が付いていて、ブルースターはもぎ取った。
赤い実は丸みを帯びていて、一見すると唐辛子のようだが何処となくトマトのようにも見えた。
ブルースターは躊躇った後、口の中に放り込むと耳を抑えた。
「はぁぁぁぁぁっ。か、辛い……」
「もしかしてトマトガラシを食べたの?」
「やっぱりこれはトマトガラシだったのですね。噂通りとても辛くてとてもみずみずしいです」
ブルースターが食べたのはトマトガラシと呼ばれるトマトのようなみずみずしさを持つ超激辛唐辛子だ。
寒い場所に自生し外気の寒さを糧にしてから身を増して成長する。
外敵から身を守るためだが、一見して美味しそうな赤い見た目をしている。
そのようでよく齧られるが、一口齧れば強烈な水分で絡みを倍増させ、口の中を腫れさせてしまうのだ。
とは言え辛い分だけ熱を生み出す効果も持っている。
登山家は服用することをお勧めしたい。
「普通はパスタに絡めるんだけどね。まさか生で行くなんて。私たちの格好的に逆効果だよ」
このコートのせいもあり、ルカ達の体温は常に均一に保たれている。
しかし一度抜けば極寒の中に晒されることになる。
つまりいくら体がトマトガラシの効果でポカポカになっても服を脱ごうとするのは止めた方がいいと、ルカは忠告した。
「はぁはぁ……」
「ブルースター、水を飲むのもやめた方がいいよ。30分ぐらいは効果が続くから耐えてね」
「は、はい」
フィールドワークにみんな浮かれすぎていた。
ルカは保護者的な立ち位置で見守りつつも、その目は遠く山頂を見ていた。
呼吸の乱れは徐々に減り、この薄い空気に適応できるようになってきた。
「ちょっと慣れて来たわね」
「本当に慣れてきたのかなー? だって顔は冷たいよー?」
「それは当然よ。コート羽織ってないもん」
シルヴィアとライラックのたわいもない話だった。
けれど少しずつ雪山の片鱗が牙を剥いているように感じた。
そんな中ダリアが周りをキョロキョロと見始めた。
徐々に白い頂上が迫って来ていて気になるのだろう。
ルカは何の気なしにダリアに話しかけてみることにした。
少しでも気晴らしになればいいと思ったのだ。
「如何したのダリア。もしかして物珍しい?」
「は、はい。それが、その……私、山には登ってことあるんですけど、雪で遊んだことは無くて」
「そうなの? もしかしてスカーレット王国って雪が積もらない?」
「そんなことないわよ。毎年ちゃんと雪は降るわ」
ということは生き方的な問題のはずだ。
ダリアは今まで部屋に引き籠っていて、外に出るのは先生と一緒に剣の修業をする時だけ。
雪山に修行することはあっても、雪で遊ぶような生易しいものではない。
「それにフィールドワークって楽しいですよね」
「確かに。珍しい生物が見られるからね」
「それもそうね。雷山って確か調べたけど、ライトニングバード以外にも珍しい生物が……あっ!」
急にシルヴィアが叫んだ。
何かと思い立ち止まると、必死に指を差していた。
かなり奥の方に何か動いている。ウサギのようだが、ルカは首を捻った。
そこまで珍しいだろうか?
そう思ったのはルカとライラックだけで、シルヴィアたちの視線が釘付けになっていた。
「ねえ、そんなに珍しいの?」
「珍しいわよ。ほら、あの白い斑点。あれ、シロホシウサギよ」
「シロホシウサギ? 何それ、美味しいの?」
「馬鹿っ! 何言っているのよ。食べるわけないでしょ。天然記念物よ!」
天然記念物? シロホシウサギも今やそのレベル何だ。
確かに美味しくないけれど、あの皮を使って昔は色々な工芸品が作られていたことを思い出す。
キュイーン!
すると今度は鳥の鳴き声が聞こえた。
空を見れば珍しい鳥が飛んでいる。大型のワシで、ダリアは興奮気味だった。
「見てくださいルカさん。あの鳥って」
「ハブキワシだね。尾の白い部分が鉄製になっていて、飛ばしてくるんだよ」
「絶滅危惧種。凄いです、うわぁ!」
急に何か落ちてきた。
黒い鉄の塊がダリアの目の前に振って来る。
如何やらハブキワシの尾の一部が抜けたようで、ずっしりとした重しがある。
「ビックリしました。急にこんなものが落ちて来るなんて」
「当たったら間違いなく死んでたね」
「災いを振り落としてきましたね」
「そうとも言えないよ。ダリアならわかるよね?」
ルカはダリアに落ちてきた鉄の塊を手渡す。
すると目付きを変え、興奮が呼び起こされる。
「な、何ですかこの鉄の塊! す、凄いです。これならいい剣が作れるはずです」
「ダリアが使うといいよ。打ち直さないとダメだけどね」
ハブキワシを見つけたのはダリアだ。
しかもダリアが指を差すと急に尾が弾け鉄の塊を落とした。
これは運命のようなものだとルカは思ったのだ。
「ちなみにさー、ダリア的に重さは如何なのー?」
「これだけあれば十分です。少し重たいですが、扱えますよ」
「凄いねー。私は遠慮したいなー」
ダリアとライラックが愉快に話していた。
するとブルースターが視線を釘付けにされた。
「おや、この植物も珍しいですね」
「今度は何?」
ブルースターは足下に咲いていた赤い実のなる植物に目を奪われた。
唐辛子のような赤い実が付いていて、ブルースターはもぎ取った。
赤い実は丸みを帯びていて、一見すると唐辛子のようだが何処となくトマトのようにも見えた。
ブルースターは躊躇った後、口の中に放り込むと耳を抑えた。
「はぁぁぁぁぁっ。か、辛い……」
「もしかしてトマトガラシを食べたの?」
「やっぱりこれはトマトガラシだったのですね。噂通りとても辛くてとてもみずみずしいです」
ブルースターが食べたのはトマトガラシと呼ばれるトマトのようなみずみずしさを持つ超激辛唐辛子だ。
寒い場所に自生し外気の寒さを糧にしてから身を増して成長する。
外敵から身を守るためだが、一見して美味しそうな赤い見た目をしている。
そのようでよく齧られるが、一口齧れば強烈な水分で絡みを倍増させ、口の中を腫れさせてしまうのだ。
とは言え辛い分だけ熱を生み出す効果も持っている。
登山家は服用することをお勧めしたい。
「普通はパスタに絡めるんだけどね。まさか生で行くなんて。私たちの格好的に逆効果だよ」
このコートのせいもあり、ルカ達の体温は常に均一に保たれている。
しかし一度抜けば極寒の中に晒されることになる。
つまりいくら体がトマトガラシの効果でポカポカになっても服を脱ごうとするのは止めた方がいいと、ルカは忠告した。
「はぁはぁ……」
「ブルースター、水を飲むのもやめた方がいいよ。30分ぐらいは効果が続くから耐えてね」
「は、はい」
フィールドワークにみんな浮かれすぎていた。
ルカは保護者的な立ち位置で見守りつつも、その目は遠く山頂を見ていた。
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