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悪魔教会編

220.闇の魂、地の底に還らず

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 あれから2週間。
 ルカ達はようやく学校に通えるようになった。
 取り調べなど色々なことが重なった結果、かなりの時間を無駄に過ごした。

「それで、闇の魂はいつ還るのかな?」

 ルカは時空の裂け目に呼びかけた。
 そこには鋭い牙と黄色い眼が潜み、ルカのことを覗き込んでいる。

「まあいいんだけどね。はい、チェックメイト」

 ルカはチェスをして遊んでいた。
 相手はもちろんバルトラの魂。
 教祖の肉体を離れ、本来なら闇の奥深くに還るはずが、何故かルカの生み出した時空の裂け目に棲みついていた。ここを地の底と勘違いしてるのか、危害を加えてこないので問題はないのだが多少は気になる。

「まあ還るなら還るでいいんだけどさ。……私の友達に危害を加えたら、今度は魂ごと消し炭にするからね」

 ルカは睨みを利かせると、バルトラの魂は時空の裂け目に引きこもってしまった。
 こんな脅し文句でこうなるようではたかが知れている。
 ましてやこんな臆病者に力を借りようとは、あの教祖も馬鹿な男だったと軽く流してしまえた。

「まあ、楽しいからいいんだけどね」

 ルカは乾いた笑いを浮かべていた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「それで、シルヴィアとライラックはどうだった?」
「もう最悪よ。お父様達にたくさん怒られたわよ」
「私は楽しかったけどねー」

 シルヴィアはげんなりしている一方でライラックは笑みを零した。
 ルカはどんな表情をしたらいいのかわからなくなる。
 なのでスルーしてダリアの方に目を向けた。何故か剣を研いでいる。怖い。

「えーっと、ダリアは何で剣を研いでいるのかな?」
「今回のことで私もまだまだ未熟だと悟らされたんです。ですので、もっともっと強くなって。ルカさんの隣に立っても、恥にならないように心がけたいんです!」
「うん、笑顔が怖い」

 これはもはや忠義とかそんな縛りを越えた戦闘狂の目をしていた。
 ルカは反応に困ってしまい、表情が強張る。

「それでルカはどうだったのよ?」
「どうって?」
「魔法と戦ったんでしょ? 勝てたのは……まあ、何となくわかってたけど」
「あはは、たまたまだよ」
「嘘ばっかり」

 シルヴィアは唇を尖らせると、プイッと顔を背けた。
 ルカには微妙な心配など無用なので首を捻った。

「それに私よりもブルースターの方が心配でしょ?」
「あっ、そういえば今日からだっけ?」
「そうだよ。今日からブルースターが学校に登校するんだから」

 ブルースターは教会との騒動を終結させた。
 素の英雄の称号はルカには必要ないことなので、ナタリーに頼んでブルースターの手柄にしてもらった。
 そのおかげで特に指摘を受けることもなく祭り上げられて、ルカもブルースターもwinwinの関係になった。

「全く無責任な偽善者さんね」
「偽善者? ブルースターはそんな子じゃないけど」
「貴女よ貴女!」

 シルヴィアがルカを睨む。
 流石にびっくりしたので一歩身を退くと、「まあいいわ」とシルヴィアは半ば諦め気味に折れた。

「でも、ブルースターのことみんな知らないでしょ?」
「確かに。転入ってわけでもないし、単位も既に取っているみたいだから……難しいかもね」

 果たしてブルースターが受け入れられるのか。
 少し心配になるが、目の前に制服を着た青髪の少女がいた。

「あっ、アレってブルースターじゃない?」
「本当だ。おーい、ブルースター! ……えっ?」

 何故かブルースターの周りに人だかりができていた。
 物珍しいからだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
 単純に人気者だった。

「もしかしてブルースターさんですか!」
「凄い。勲章を与えられたんですよね!」
「背が高い……カッコいいなー」

 今回の教会騒動を鎮めたとしての英雄像と、単純にスタイルの良さから凄いことになっていた。
 確かにブルースターは背も高いし、美人さんだ。
 何より丁寧な口調で厳しいことを言わない。

「凄い人だかりね」
「確かに……アレは近寄り難い……」
「おーい、ブルースター!」
「ブルースターさん、おはようございます」

 しかしライラックとダリアは空気を読まなかった。
 あえて空気を読まなかったのではない。完全に空気を読もうともしなかった。
 シルヴィアは止めようとしたけれど、時すでに遅し。ルカもその中に混ざっていた。

「おはようブルースター。朝から人気者だね」
「皆さん、おはようございます。それでは、また」

 ブルースターは話を切り上げ、ルカ達の側にやって来る。
羨望の眼差しを浴びせられる中、ブルースターは特に気に留める様子もなくルカ達との談議に花を咲かせる。

「どう? 学校は」
「面白いところですね。楽しみです」

 特に気にしていない様子なので、心配しただけ損した。
 だけど何はともあれ、こうしてブルースターも登校できるようになってよかった。

「あーあ、ブルースターがいればもっと楽に魔術運動会も勝てたのにねー」
「そうですか? 私はご噂はかねがね」

 皮肉めいた返しだった。
 ルカ達はそんなブルースターも可愛らしく思いつつも、ブルースターの制服姿が新鮮で目を奪われていた。

「おや、皆さんお揃いですね」
「あっ、校長先生」

 そこに都合よくやって来たのはナタリーだった。
 こんな時間にやって来るなんて、あまりに都合のよさ過ぎる反応だった。

「ブルースターさん、制服姿似合っていますね」
「ありがとうございます校長先生」

 ブルースターは素直に頭を下げた。
 それからブルースターはルカ達の手を握る。

「それでは皆さん、行きましょうか」
「あっ、ちょっとブルースター!」
「これから私の学生生活が始まるんです。皆さんには共犯になっていただきますよ」
「「「何それ?」」」

 例えがわかり難かった。
 とは言え、これで一段落ついたとホッと胸を撫で下ろせた。
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