上 下
221 / 549
悪魔教会編

220.闇の魂、地の底に還らず

しおりを挟む
 あれから2週間。
 ルカ達はようやく学校に通えるようになった。
 取り調べなど色々なことが重なった結果、かなりの時間を無駄に過ごした。

「それで、闇の魂はいつ還るのかな?」

 ルカは時空の裂け目に呼びかけた。
 そこには鋭い牙と黄色い眼が潜み、ルカのことを覗き込んでいる。

「まあいいんだけどね。はい、チェックメイト」

 ルカはチェスをして遊んでいた。
 相手はもちろんバルトラの魂。
 教祖の肉体を離れ、本来なら闇の奥深くに還るはずが、何故かルカの生み出した時空の裂け目に棲みついていた。ここを地の底と勘違いしてるのか、危害を加えてこないので問題はないのだが多少は気になる。

「まあ還るなら還るでいいんだけどさ。……私の友達に危害を加えたら、今度は魂ごと消し炭にするからね」

 ルカは睨みを利かせると、バルトラの魂は時空の裂け目に引きこもってしまった。
 こんな脅し文句でこうなるようではたかが知れている。
 ましてやこんな臆病者に力を借りようとは、あの教祖も馬鹿な男だったと軽く流してしまえた。

「まあ、楽しいからいいんだけどね」

 ルカは乾いた笑いを浮かべていた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「それで、シルヴィアとライラックはどうだった?」
「もう最悪よ。お父様達にたくさん怒られたわよ」
「私は楽しかったけどねー」

 シルヴィアはげんなりしている一方でライラックは笑みを零した。
 ルカはどんな表情をしたらいいのかわからなくなる。
 なのでスルーしてダリアの方に目を向けた。何故か剣を研いでいる。怖い。

「えーっと、ダリアは何で剣を研いでいるのかな?」
「今回のことで私もまだまだ未熟だと悟らされたんです。ですので、もっともっと強くなって。ルカさんの隣に立っても、恥にならないように心がけたいんです!」
「うん、笑顔が怖い」

 これはもはや忠義とかそんな縛りを越えた戦闘狂の目をしていた。
 ルカは反応に困ってしまい、表情が強張る。

「それでルカはどうだったのよ?」
「どうって?」
「魔法と戦ったんでしょ? 勝てたのは……まあ、何となくわかってたけど」
「あはは、たまたまだよ」
「嘘ばっかり」

 シルヴィアは唇を尖らせると、プイッと顔を背けた。
 ルカには微妙な心配など無用なので首を捻った。

「それに私よりもブルースターの方が心配でしょ?」
「あっ、そういえば今日からだっけ?」
「そうだよ。今日からブルースターが学校に登校するんだから」

 ブルースターは教会との騒動を終結させた。
 素の英雄の称号はルカには必要ないことなので、ナタリーに頼んでブルースターの手柄にしてもらった。
 そのおかげで特に指摘を受けることもなく祭り上げられて、ルカもブルースターもwinwinの関係になった。

「全く無責任な偽善者さんね」
「偽善者? ブルースターはそんな子じゃないけど」
「貴女よ貴女!」

 シルヴィアがルカを睨む。
 流石にびっくりしたので一歩身を退くと、「まあいいわ」とシルヴィアは半ば諦め気味に折れた。

「でも、ブルースターのことみんな知らないでしょ?」
「確かに。転入ってわけでもないし、単位も既に取っているみたいだから……難しいかもね」

 果たしてブルースターが受け入れられるのか。
 少し心配になるが、目の前に制服を着た青髪の少女がいた。

「あっ、アレってブルースターじゃない?」
「本当だ。おーい、ブルースター! ……えっ?」

 何故かブルースターの周りに人だかりができていた。
 物珍しいからだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
 単純に人気者だった。

「もしかしてブルースターさんですか!」
「凄い。勲章を与えられたんですよね!」
「背が高い……カッコいいなー」

 今回の教会騒動を鎮めたとしての英雄像と、単純にスタイルの良さから凄いことになっていた。
 確かにブルースターは背も高いし、美人さんだ。
 何より丁寧な口調で厳しいことを言わない。

「凄い人だかりね」
「確かに……アレは近寄り難い……」
「おーい、ブルースター!」
「ブルースターさん、おはようございます」

 しかしライラックとダリアは空気を読まなかった。
 あえて空気を読まなかったのではない。完全に空気を読もうともしなかった。
 シルヴィアは止めようとしたけれど、時すでに遅し。ルカもその中に混ざっていた。

「おはようブルースター。朝から人気者だね」
「皆さん、おはようございます。それでは、また」

 ブルースターは話を切り上げ、ルカ達の側にやって来る。
羨望の眼差しを浴びせられる中、ブルースターは特に気に留める様子もなくルカ達との談議に花を咲かせる。

「どう? 学校は」
「面白いところですね。楽しみです」

 特に気にしていない様子なので、心配しただけ損した。
 だけど何はともあれ、こうしてブルースターも登校できるようになってよかった。

「あーあ、ブルースターがいればもっと楽に魔術運動会も勝てたのにねー」
「そうですか? 私はご噂はかねがね」

 皮肉めいた返しだった。
 ルカ達はそんなブルースターも可愛らしく思いつつも、ブルースターの制服姿が新鮮で目を奪われていた。

「おや、皆さんお揃いですね」
「あっ、校長先生」

 そこに都合よくやって来たのはナタリーだった。
 こんな時間にやって来るなんて、あまりに都合のよさ過ぎる反応だった。

「ブルースターさん、制服姿似合っていますね」
「ありがとうございます校長先生」

 ブルースターは素直に頭を下げた。
 それからブルースターはルカ達の手を握る。

「それでは皆さん、行きましょうか」
「あっ、ちょっとブルースター!」
「これから私の学生生活が始まるんです。皆さんには共犯になっていただきますよ」
「「「何それ?」」」

 例えがわかり難かった。
 とは言え、これで一段落ついたとホッと胸を撫で下ろせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

女王の成長

苺姫 木苺
ファンタジー
西条翼23歳 翼は周りから天才美女と言われていた。 異世界で、子どもになっていた。 幼児になった翼もといショコラがだめになった国を建て直していきます。 そして、12歳の時に見知らぬ女の子に「貴方は悪役女王で私はこの世界のヒロインなの!だから、消えて!!!悪役は必要ないの!」と、突然言われます。 翼が転生??した世界はなんと大人気恋愛小説の世界だったのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

美少女に転生しました!

メミパ
ファンタジー
神様のミスで異世界に転生することに! お詫びチートや前世の記憶、周囲の力で異世界でも何とか生きていけてます! 旧題 幼女に転生しました

異世界でもマイペースに行きます

りーさん
ファンタジー
 とにかくマイペースな少年、舞田理央。 ある日、異世界に行ってみないかという神の誘いを受ける。  詳しく話を聞くと、自分は魔力(魔素)を吸収する体質で、異世界で魔力(魔素)が多くなりすぎているから、回収してほしいらしい。  いつかはのんびりと暮らしてみたいと思っていたし、そのついでなら、ということで了承した。  伯爵家の次男として目覚めた彼は、とにかくのんびりマイペースをモットーにいろいろ好き勝手しながら、異世界に旋風を巻き起こしたり巻き起こさなかったりするお話。 ーーーーーーーーーー 『手加減を教えてください!』とリンクしています。これだけでも、話は成立しますが、こちらも読んでいただけると、もっと深読みできると思います。

龍王様の半身

紫月咲
ファンタジー
同じ魂を2つに分かたれた者。 ある者は龍王となり、ある者は人となった。 彼らはお互いを慈しみ、愛し、支え合い、民を導いていく。 そして死が2人を別つ時も、新たに生まれくる時も、彼らは一緒だった…。 ところがある時、新たに生まれた龍王の傍に、在るべきその半身がいない!? この物語は、愛すべき半身を求める龍王と、誤って異世界で生まれ、育ってしまった半身の女性、そして彼らを取り巻く龍と人との切なかったり、ツンデレだったり、デレデレだったりするお話です。 基本ご都合主義、最強なのに自覚なしの愛されヒロインでお送りします。 ◆「小説家になろう」様にて掲載中。アルファポリス様でも連載を開始することにしました。なろう版と同時に加筆修正しながら更新中。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

県立冒険者高等学校のテイマーくん

丸八
ファンタジー
地球各地に突如ダンジョンと呼ばれる魔窟が現れた。 ダンジョンの中には敵性存在が蔓延り、隙あらば地上へと侵攻してくるようになる。 それから半世紀が経ち、各国の対策が功を奏し、当初の混乱は次第に収まりを見せていた。 日本はダンジョンを探索し、敵性存在を駆逐する者を冒険者と呼び対策の一つとしていた。 そして、冒険者の養成をする学校を全国に建てていた。 そんな冒険者高校に通う一人の生徒のお話。

処理中です...