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悪魔教会編

184.幹部たち

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 ルカとライラックは何とか自意識を保ち、教会の地下から出てきた。
 これだけ酷く澱んだ現場を見た後なので、心にも比叡が溜まっている。
 特に千年前の魔法使いとは言え、優しすぎる魔法使いのルカにとっては腹の底から煮えたぎるような思いだった。

「酷かったね」
「あれは教会の体を担っていない。ただの実験場だよー」

 ルカとライラックは自然と素に戻っていた。
 口調もいつも通りになり、やる気のない伸ばした声が耳に入る。

「それにしても悪魔を呼び出すためにあんな非人道的な真似必要なのかなー?」
「生贄はいる場合もあるよ。だけど本当は何か触媒を使うはずだね」
「じゃあさ、あれは何?」
「それはシルヴィたちとも相談しよう。そんなことにより今はこの場を速やかに離れることだ」
「そうだね。これ以上ここにいても変に怪しまれるだけだ」

 ルカとライラックは口調を変えた。もう少しだけこの口ぶりを真似する。
 フードを深く被り、路上でも警戒は怠らない。
 まずは教会を出ることだが、そこで嫌な気配を鉢合わせした。

「ライ、止まって」
「えっ!?」

 ルカとライラックは足を止めた。
 ライラックはまだ気が付いていないが、すぐに前方から怪しい連中が歩いて来るのを見つける。
 しかも魔力の流れがかなり澱んでいる。相当イカれた奴らだ。

「教会の人間だね。どうする?」
「どうもしない。気配だけは悟られないようにね」
「了解」

 ルカとライラックは表情を一切変えることなく、教徒の連中を横切った。
 いいや横切ろうとしたところを止められてしまった。

「待てっ」

 女の声だった。少し低めだが、はっきりとした物言いだった。
 その隣にはもう2人いる。
 片方は背が少し高いので男のようで、この間教祖と一緒に居た奴の1人だ。
 そしてもう1人は新顔。背が低いので子供のようにもみえるが、魔力は素直だった。素直に歪だ。

「はい、何でしょうか」
「幹部を前にして挨拶をしないのは何様ですか。礼儀をわきまえてください」
「申し訳ございません。幹部様とは知らなかったもので」
「新入りか。ここにいるということは見込み有りと言うことだな」
「「そのようです」」

 ルカとライラックは変にハモらせる。
 すると幹部らしき女の人は、ルカ達に訝しい目を向ける。
 猫のような耳が黄色に塗られていて、フードを剥がすとその顔が露見する。

「私はドッグルと呼ばれている。この教会の幹部だ」
「ドッグルさん。……リカオンですか?」
「目の付け所がいいですね。確かに私はリカオンです」

 睨まれてしまった。端正な顔立ちに鋭い眼。ルカは強い気迫を感じる。
 その目も他の教徒とは何か違う。
 まだ奥に光がある。漠然としたものではなく、打ちのめされたことのない煌々とする光が備わっていた。この人は強いと確信する。

「どうしましたか、私の顔に何かついていますか?」
「いえ、信念がおありな様ですね」
「信念ですか。そのような大層なものは既にありません。私はただ生き残りたいだけです」

 生き残りたい。その意味がよくわからない。
 ルカは首を傾げつつも、人混みができそうなのをライラックが見つける。
 どうやらそろそろ消える必要があるらしい。

「すみませんドッグルさん。私たちはそろそろ」
「同志のご武運をお祈り申し上げます」

 ルカとライラックはその場から速やかに消えた。
 人混みの中に身を埋めると、すぐさま返送を解く。
 これ以上はマズいと追跡を警戒しながら遠回りで教会に戻ることにした。

「何だったのかな、今の人たち」
「悪い人ではなさそうだった。しかもあの魔力は……」

 ルカは記憶を遡る。あの魔力は何処かで感じたことがあった。
 けれど今はまだ口にはしない。
 きっとナタリーが用意してくれた人だとはすぐに察しがついていたからだ。

「あのドッグルって人、絶対強いよ」
「そうだね。獣人の中でも死線をくぐってきた人の目をしてた」
「生にしがみつくだけの信念があるのは相当厄介だね。どうする、先にやっちゃう?」

 ライラックの口からはまたしてもとんでもなく殺気立った言葉が出てくる。
 けれどルカは否定した。
 ドッグルには先導していた男とは違うものを感じた。ただ人殺しをして欲しくないと思っている自分の気持ちがぶつかり合っているだけかもしれない。

「甘いなー。強い奴は先に殺しとかないと、自分の首が締めるんだよー」
「それは知っている。でも私は殺したくない」
「そんなんでよく戦えてるねー。疲れないー?」
「疲れないよ。ライラックの方こそ本音がでてるけど、大丈夫?」
「もちろん。私はいつも通りだよ。それより、このことどう報告しようか?」
「ブルースターとシルヴィに理解してもらう。ダリアはすぐにわかるから」
「だね、じゃあこのまま気持ちよく走っちゃおっか!」

 2人は屋根の上を駆け回しながら、教会に辿り着くのだった。
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