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ワインナリー編

140.ルカからの助言

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ルカとナタリーは竜車に揺られていた。
 それから車輪が石片を蹴る音だけが微かに聞こえ、次第に黙ってしまう。
 そんな中、ルカは窓の向こうを見た。
 土の様子が少し違う。

「あれ? 土が変わった」
「ブルーベンに入ったみたいですね」
「なるほどこれが国境ってことね。わかりやすくていいや」

 ブルーベンはスカーレット王国の中にある。
 ブドウの産地として有名で、二大生産地の1つだった。
 片方がここスカーレット王国の中にあるブルーベン。もう1つがアクアイアのグレープスだ。
 ルカはワインを飲まないので、正直反応には困るがジャムも有名だった。
 ブルーベンはもともとブドウの前はブルーベリー産業で名を上げた。
 ブルーベンはブルーベリーの本場。
 だからこそ、ワインが飲めなくても楽しめそうだった。

「私ジャムが買いたいんだけど、いいかな?」
「はい、構いませんよ。私もブルーベンに来たのは1つにジャムが目的ですから」

 ナタリーも同調した。
 しかしルカには話しを合わせたんだと気付く。
 本当はルカにもワインの味を知ってほしいと思っているんだろう。
 そこまで読んでいたが、ルカは酒を飲む気はない。

「ん? あれは……」
「見えてきましたね。あれがブルーベンです」

 不意に窓の向こうに高い城壁が見えた。
 どうやらブルーベンに着いたらしい。
 ナタリーは竜車を操縦する御者に声を掛ける。

「少し速度を上げてくれますか?」
「はい、かしこまりました」

 すると突然加速した。
 竜車の速度がこんなものではないとルカも知っていたが、急にスピードが上がる。
 地竜は本来の速度に近づこうとして、楽しく軽快な走りを見せてくれた。

「うわぁ! 速い速い」
「これが竜車の速度です。もう少し早くもできますが、地竜の脚に連結している馬車が保つかどうかですね」

 それにしては揺れが少ない。
 ナタリーは普通の人が気付くこともできぬほどの微弱魔力を放っていた。
 そのおかげで連結部分が固定されている。
 例え地竜が全力で走っても引き剥がされない。

「腕上げたね、ナタリー」
「ありがとうございます。やはりルカさんには気が付かれてしまいますね」

 ナタリーもルカの手前だ。この千年間でどれだけ魔法が成長したのか見せようとした。
 そのせいもあり余計な力が加わる。
 ルカは一発でナタリーが本調子ではないことに気が付く。

「力みすぎ。そんな動きじゃ私には見破られちゃうよ」
「すみません。今後も精進します」
「精進するもしないも自由だけど、無理はしちゃダメだよ。それに結果にこだわるのも論外ね」
「はい」

 ナタリーは落胆した。
 もちろん自分に溜息が出る。
 ルカに叱られたことは嬉しかったが、まだまだ修行が足りないと自問自答を重ねる。
 どうすればもっと役に立てるか考えた。

「ナタリーの悪い癖。私の前だとすぐに力む」
「それはルカさんに……」
「もう認めているから。もちろん千年前からだよ。私と一緒に旅をして、一緒に仲間を探して、仲間と再会したときなんて、ほとんど1人で統率が取れていた。だからナタリーは得意なことを磨けばいいと思うよ」
「得意なことですか?」
「うん。前線でも後方でも仲間に指示を出す。そうすれば、自分だけで背負い込まなくてもいいから力みも減って、少しは楽になると思うよ」

 ルカのアドバイスは的確だった。
 それを聞いてナタリーが実践しないはずがない。

「はい、これからは声掛けも意識してみます」
「いい顔になった。やっぱりナタリーは澄ました顔じゃないと、しっくりこないよ」

 全てを見極める瞳。
 女王陛下とは少し違うが似て非なるものがある。
 そんな薄っすらとした瞳に、ルカはうっとりしていた。
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