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ワインナリー編
138.夏休みになったのに
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夏休み。
アルカード魔術学校の夏休みは約1ヶ月。
その間に学校側から出された課題を取り組み、日々の疲れをいやすとともに、魔術師としての修練に励む。
本来そんな目的で夏休みは設けられているのだが、一部例外はいる。
例えばこの少女、かつて魔女と呼ばれた最強の魔法使いトキワ・ルカは家の中でゴロゴロしていた。
「あー、流石に色々ありすぎだよ。疲れが溜まってるのかも」
ルカはベッドの上から動きたくなかった。
のんびりとした安寧を求めた生活のはずが、首をツッコんでしまう性格が仇となり様々なことに巻き込まれてしまった。
ブルホーンとの戦闘。殺人鬼関連の調査。
スカーレット王国の命運を握るような事件に、この間は古代兵器との激闘。
おまけに危険かつ絶大な価値を誇るアルティマフレアの入手と千年前と同じくらい濃い学生生活を送っていた。
「しんどいって言葉が私の口から出るなんてね。あはははは……」
ルカは笑っていた。
笑い話にもならないような壮絶な日々を送っていたのにこの反応だ。
ルカはルカなりに理解していた。
「でも、そのおかげでみんなと友達になれたし、色々なことが知れたからよかった」
この世界の事情が少しでもわかってきた気がする。
それだけで十分満足だった。
だからこうして休めるときは休む。
そうしたいと心から願っていたのだが、そんな淡い希望は易々と打ち砕かれた。
カンカンカーン!
硬い金属音がした。
ルカは閉じていた目を開け、上半身をベッドから起こす。
郵便物だろうかと思い玄関に向かうが、底で嫌な予感がした。
(このドアを開けていいのかな?)
ルカは迷った。
いつものパターンで何か始まるんじゃないかと焦った。
シルヴィアたちならいい。だがいつも厄介ごとを持ってくるのは、何故かルカのことを過信して心酔している千年前から付き合いのある友人たちなのだ。
(絶対いるよね。ナタリー)
しかしいつまでも立ち尽くしているわけにもいかない。
最近取り付けた金属の呼び鈴がうるさい。
ルカは仕方ないなと思いため息混じりにドアを開けた。
そこにいたのはやはり……
「おはようございます、ルカさん」
「ナタリー。……如何したの、こんな朝早くから」
やっぱりナタリーだった。
いつもの柔らかいブロンドヘアーを今日は2つに結っている。
正体を隠すためのお忍び用のヘアバンドだ。
かなりの効力があり、並大抵の魔術師に認識はまず難しい。
「それで今日は何の用? 悪いけど私は……」
「お出かけしませんか、ルカさん。2泊3日です。全て私が持ちますから」
何故だろうか。ルカは不安に思った。
ナタリーからの突然の誘い。
何か裏があるとしか思えない。
警戒していると、ナタリーは微笑んだ。
「そんなに警戒しないでください。私はルカさんと久々に旅行をしたいだけなんです」
「それが不安なんだけど」
ナタリーはそこから動こうとしない。
如何やら逃げられる様子はなく、後ろには竜車が控えていた。
確実にルカを連れて行く気だ。
「わかった。ちょっと準備するから待っててよ」
「はい、いくらでも待ちますよ。エルフですから」
「それは歳のことを言っているのかな? 私に向かって」
「はい。ルカさんに向かってです」
凄まじい根性をしていた。
ルカは部屋に戻ると準備を始める。とは言っても万が一に備えてすぐに旅行に行けるように準備をしていた。
元々は遠出用のためで、キャリーケースのまま置かれている。
「それにしても2泊3日にしてあの荷物。何処に行く気なんだろう」
ルカはクローゼットの中からハンガーにかけられた服を取り出す。
着心地の良い黒のパーカーに白のTシャツ。後は簡単に鞄と長めのパンツを履いた。
出かけるには十分すぎるぐらいストレッチが効いている。
「お待たせナタリー」
「スタイル良いですね、ルカさん」
「ありがとう。それですぐに出発?」
「はい、行きましょう。ブルーベンへ」
ナタリーの口から出た言葉は、ブルーベン。
ルカには縁遠い場所だった。
アルカード魔術学校の夏休みは約1ヶ月。
その間に学校側から出された課題を取り組み、日々の疲れをいやすとともに、魔術師としての修練に励む。
本来そんな目的で夏休みは設けられているのだが、一部例外はいる。
例えばこの少女、かつて魔女と呼ばれた最強の魔法使いトキワ・ルカは家の中でゴロゴロしていた。
「あー、流石に色々ありすぎだよ。疲れが溜まってるのかも」
ルカはベッドの上から動きたくなかった。
のんびりとした安寧を求めた生活のはずが、首をツッコんでしまう性格が仇となり様々なことに巻き込まれてしまった。
ブルホーンとの戦闘。殺人鬼関連の調査。
スカーレット王国の命運を握るような事件に、この間は古代兵器との激闘。
おまけに危険かつ絶大な価値を誇るアルティマフレアの入手と千年前と同じくらい濃い学生生活を送っていた。
「しんどいって言葉が私の口から出るなんてね。あはははは……」
ルカは笑っていた。
笑い話にもならないような壮絶な日々を送っていたのにこの反応だ。
ルカはルカなりに理解していた。
「でも、そのおかげでみんなと友達になれたし、色々なことが知れたからよかった」
この世界の事情が少しでもわかってきた気がする。
それだけで十分満足だった。
だからこうして休めるときは休む。
そうしたいと心から願っていたのだが、そんな淡い希望は易々と打ち砕かれた。
カンカンカーン!
硬い金属音がした。
ルカは閉じていた目を開け、上半身をベッドから起こす。
郵便物だろうかと思い玄関に向かうが、底で嫌な予感がした。
(このドアを開けていいのかな?)
ルカは迷った。
いつものパターンで何か始まるんじゃないかと焦った。
シルヴィアたちならいい。だがいつも厄介ごとを持ってくるのは、何故かルカのことを過信して心酔している千年前から付き合いのある友人たちなのだ。
(絶対いるよね。ナタリー)
しかしいつまでも立ち尽くしているわけにもいかない。
最近取り付けた金属の呼び鈴がうるさい。
ルカは仕方ないなと思いため息混じりにドアを開けた。
そこにいたのはやはり……
「おはようございます、ルカさん」
「ナタリー。……如何したの、こんな朝早くから」
やっぱりナタリーだった。
いつもの柔らかいブロンドヘアーを今日は2つに結っている。
正体を隠すためのお忍び用のヘアバンドだ。
かなりの効力があり、並大抵の魔術師に認識はまず難しい。
「それで今日は何の用? 悪いけど私は……」
「お出かけしませんか、ルカさん。2泊3日です。全て私が持ちますから」
何故だろうか。ルカは不安に思った。
ナタリーからの突然の誘い。
何か裏があるとしか思えない。
警戒していると、ナタリーは微笑んだ。
「そんなに警戒しないでください。私はルカさんと久々に旅行をしたいだけなんです」
「それが不安なんだけど」
ナタリーはそこから動こうとしない。
如何やら逃げられる様子はなく、後ろには竜車が控えていた。
確実にルカを連れて行く気だ。
「わかった。ちょっと準備するから待っててよ」
「はい、いくらでも待ちますよ。エルフですから」
「それは歳のことを言っているのかな? 私に向かって」
「はい。ルカさんに向かってです」
凄まじい根性をしていた。
ルカは部屋に戻ると準備を始める。とは言っても万が一に備えてすぐに旅行に行けるように準備をしていた。
元々は遠出用のためで、キャリーケースのまま置かれている。
「それにしても2泊3日にしてあの荷物。何処に行く気なんだろう」
ルカはクローゼットの中からハンガーにかけられた服を取り出す。
着心地の良い黒のパーカーに白のTシャツ。後は簡単に鞄と長めのパンツを履いた。
出かけるには十分すぎるぐらいストレッチが効いている。
「お待たせナタリー」
「スタイル良いですね、ルカさん」
「ありがとう。それですぐに出発?」
「はい、行きましょう。ブルーベンへ」
ナタリーの口から出た言葉は、ブルーベン。
ルカには縁遠い場所だった。
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