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魔術運動会編1
92.ライラックの糸③
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男は興奮していた。
ここまでボコボコにされるなど、今までなかったからだ。
未知の体験をしている実感があったので、男は血だらけになりながらも生にしがみついていた。
「如何したのかなー? もう、抵抗する気も失せちゃったぁー?」
「ここまでの相手がいるとは思わなかった。まさか、汎用性の塊のような糸だったなんて」
「それはどうもー」
「ふん、褒めてはないんだがな」
「褒められてる気はしないよー。嬉しくないしねー」
ライラックは糸を放つ。
男は爪を何とか戻ろうとするが、戻せない。
これ以上は食らえない。それを悟った男は、自分の爪をへし折った。
「おんどりゃぁ!」
「嘘でしょ!」
ライラックが素になった。
目を丸めると、糸が解けてしまい、瞬時に切り離す。
男の爪は魔術で何度でも再生するから、自分の爪を折ろうが、関係ないのだろう。
「相変わらず、これは痛えな」
「自分の爪を切断するなんて、どういう神経しているのかなー?」
「お前のせいだろう。しかし、これで五分に持ち込んだ。形成の有利さはないはずだ」
「そうだねー。だったら、もう一度やってあげるよ。《鋼鉄の糸》」
ライラックは爪を狙って、糸を投げつけた。
しかし今回は男も慎重で、爪で糸を弾く。
ライラックの《鋼鉄の糸》はかなりの強度を持っていて、並大抵では弾けない。そこで鞭状ではなく、鋭い剣のようにして対抗した。
「剣にすれば、近距離でも対抗できる」
「考えたね。これはなかなか面白そうだ。じゃあ、せっかくの機会楽しまないとね」
ライラックの表情が変わる。
男は悪寒のようなものを感じた。それは狂気にも似ているが、それよりも体を絡めとるような、異様な雰囲気が立ち込めていた。
(このままだとマズいな。何か、何か策を練らねば……)
男は周囲に目を配る。
すると町中なだけあって、少しギャラリーがいた。この戦闘を見せ者とでも思っているのだろう。
その中には親子連れもいる。男はそれを見つけると、にやりと笑った。
「見つけた。お前を殺す策」
「私を殺す前に、自分が殺されるビジョンを見た方がいいよー」
ライラックは糸を放った。
鋭く張った糸は、壁を貫くほどに硬く、そして丈夫だった。
男は視線を配る余裕はない。が、その手は着実だった。
「ほらほらー、避けないと死んじゃうよ」
ライラックは容赦しなかった。
しかし男に触れる直前、ライラックの指が停まる。男に触れる前だった。そこには女の子がいた。
鞭のような爪で拘束された女の子だ。
「汚い真似するね」
「殺し合いに汚いもない」
「ううっ、お母さん……」
「動くな。殺すぞ?」
男は爪の先を女の子の首筋に当てた。
赤い血が流れる。
ライラックはそれを見て動けなくなった。しかも周りにいる人たちの目線も変わる。
「お、おい。これヤバくないか?」
「は、早く逃げようぜ」
そう口にし出したが、男は視線も動かさずに告げる。
「おい、逃げるな。お前たちも後で殺すからな」
「「「うっ!」」」
動けなくなった。
冷たい覇気のない言葉には、もはや殺意しかなかった。
それを受けたライラックは本気だと確信し、完全に足を止めた。右の人差し指以外は。
「おいおい、人質取られただけでもう降参か? 大したことのない魔術師だな」
「いいや。私はいいんだけどね、ただ周りがねー」
「舐めているのか。俺は本気だぞ」
「私も本気だよ。本気で殺しに行く」
「俺を殺す? この状況でか」
「うん。もう布石は十分かなー」
ライラックは笑っていた。
しかし目は笑っていない。完全に冷たい。そんな眼差しが男の気持ちを萎縮させるだけではなく、全身の悪寒をより一層走らせる。しかし、それだけではない、すでに男はライラックに敗北していることに気づいていなかった。
ここまでボコボコにされるなど、今までなかったからだ。
未知の体験をしている実感があったので、男は血だらけになりながらも生にしがみついていた。
「如何したのかなー? もう、抵抗する気も失せちゃったぁー?」
「ここまでの相手がいるとは思わなかった。まさか、汎用性の塊のような糸だったなんて」
「それはどうもー」
「ふん、褒めてはないんだがな」
「褒められてる気はしないよー。嬉しくないしねー」
ライラックは糸を放つ。
男は爪を何とか戻ろうとするが、戻せない。
これ以上は食らえない。それを悟った男は、自分の爪をへし折った。
「おんどりゃぁ!」
「嘘でしょ!」
ライラックが素になった。
目を丸めると、糸が解けてしまい、瞬時に切り離す。
男の爪は魔術で何度でも再生するから、自分の爪を折ろうが、関係ないのだろう。
「相変わらず、これは痛えな」
「自分の爪を切断するなんて、どういう神経しているのかなー?」
「お前のせいだろう。しかし、これで五分に持ち込んだ。形成の有利さはないはずだ」
「そうだねー。だったら、もう一度やってあげるよ。《鋼鉄の糸》」
ライラックは爪を狙って、糸を投げつけた。
しかし今回は男も慎重で、爪で糸を弾く。
ライラックの《鋼鉄の糸》はかなりの強度を持っていて、並大抵では弾けない。そこで鞭状ではなく、鋭い剣のようにして対抗した。
「剣にすれば、近距離でも対抗できる」
「考えたね。これはなかなか面白そうだ。じゃあ、せっかくの機会楽しまないとね」
ライラックの表情が変わる。
男は悪寒のようなものを感じた。それは狂気にも似ているが、それよりも体を絡めとるような、異様な雰囲気が立ち込めていた。
(このままだとマズいな。何か、何か策を練らねば……)
男は周囲に目を配る。
すると町中なだけあって、少しギャラリーがいた。この戦闘を見せ者とでも思っているのだろう。
その中には親子連れもいる。男はそれを見つけると、にやりと笑った。
「見つけた。お前を殺す策」
「私を殺す前に、自分が殺されるビジョンを見た方がいいよー」
ライラックは糸を放った。
鋭く張った糸は、壁を貫くほどに硬く、そして丈夫だった。
男は視線を配る余裕はない。が、その手は着実だった。
「ほらほらー、避けないと死んじゃうよ」
ライラックは容赦しなかった。
しかし男に触れる直前、ライラックの指が停まる。男に触れる前だった。そこには女の子がいた。
鞭のような爪で拘束された女の子だ。
「汚い真似するね」
「殺し合いに汚いもない」
「ううっ、お母さん……」
「動くな。殺すぞ?」
男は爪の先を女の子の首筋に当てた。
赤い血が流れる。
ライラックはそれを見て動けなくなった。しかも周りにいる人たちの目線も変わる。
「お、おい。これヤバくないか?」
「は、早く逃げようぜ」
そう口にし出したが、男は視線も動かさずに告げる。
「おい、逃げるな。お前たちも後で殺すからな」
「「「うっ!」」」
動けなくなった。
冷たい覇気のない言葉には、もはや殺意しかなかった。
それを受けたライラックは本気だと確信し、完全に足を止めた。右の人差し指以外は。
「おいおい、人質取られただけでもう降参か? 大したことのない魔術師だな」
「いいや。私はいいんだけどね、ただ周りがねー」
「舐めているのか。俺は本気だぞ」
「私も本気だよ。本気で殺しに行く」
「俺を殺す? この状況でか」
「うん。もう布石は十分かなー」
ライラックは笑っていた。
しかし目は笑っていない。完全に冷たい。そんな眼差しが男の気持ちを萎縮させるだけではなく、全身の悪寒をより一層走らせる。しかし、それだけではない、すでに男はライラックに敗北していることに気づいていなかった。
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