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魔術運動会編1

80.ダリアの過去③

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 その時、不思議なことが起こった。
 竜車の外が暗がりに沈んだのです。
 まるで突然夜になったみたいに暗くなり、周りを取り囲む護衛の騎士達は、地竜の背にまたがったまま、困惑していました。
 それは敵襲に備えるためです。

「全員戦闘態勢に入れ。突然の夜だ。何者かによる手だろう」
「隊長。暗くて何も見えません」
「絶対に火をたくな。敵に勘づかれるぞ」
「はい、わかりました」

 そう口にしている間のことでした。
 騎士の一人がばたりと倒れ、鮮血を吹きます。

「ぐはぁ!」
「どうした!」
「うわぁ!」
「タイチョー!」

 次から次へと騎士達が倒れていく。
 敵は暗がりに乗じて近づいて来ていた。
 赤い鮮血が飛び散る中、ふと視界に入ったのは、黒い服を着こみ、顔を隠した人影だった。
 その数はパッと見ただけで、十はいた。

「敵は暗闇に乗じて動いている。全員、剣を持て」
「隊長、既に敵は動いています。奴らの狙いは!」
「おそらくだ。全員で、竜車を守れ。死んでも近づけさせるな!」
「だったら、死んでみるか?」

 ふと耳元で聞こえてきたのは、男の声だった。
 騎士の一人は剣を抜き、男と対峙するが、それは足止めに過ぎなかった。
 すると竜車に走っていく影がある。
 しかし誰も対処することができなかった。

「しまった」
「もう遅い!」

 カキーン! ——

 金属の擦れる音が甲高く、響いていた。
 その瞬間、竜車の扉が開かれた。


 竜車の中は、震えるダリアと警戒するメイドたちだけだった。
 ダリアも剣を所持しているが、それもあくまで護身用だった。
 しかし、その手は剣の柄を握っている。
 メイドの二人も、ダリアを隠すように、手を添えた。

「大丈夫です、ダリア様」
「私たちが、必ずお守りいたします」
「ナルさん、ネルさん」
「「例え、死んでも。この身に代えても」」

 二人の覚悟は決まっていました。
 しかしダリアは目をうるうるさせています。
 確かに剣の腕は高いといえど、それでも人を切ったことなどありませんでした。だから、ダリアは体を震わせているのです。

「私は、お二人にも死んでほしくないです」
「「ダリア様」」
「だから、その時は私も……」
「へぇー。じゃあー、死んでもらおうかなー」

 竜車の中に声がしました。
 三人の視線は、竜車の扉に向きます。
 そこにいたのは、黒服の男。ランプの光に照らされて、その姿が映し出されました。

「貴方は」
「なんだよ、女王陛下いねえじゃんか。せっかく情報をもらったって言うのによ」
「女王陛下? さては、暗殺ですか」
「チッ。まあいい。代わりにいい女たちがいるからな。こいつらを痛めつけて、他国にでも売れば、金も手に入るし、この国も痛手を負うだろうな」

 男は余裕綽々と言った様子で、頭を掻いていました。
 そんな男の首目掛けて、ナルはナイフを突き立てるも、男は簡単に防いでしまいました。
 その上、ナルの右腕が切られます。

「舐めてんじゃねえそ、女!」
「くっ」

 感情を押し殺していました。
 しかし右腕の手首から先から、赤々とした血が流れだします。
 それからネルも近づいかれた瞬間に、左目を切り裂かれました。
 その手に握ったナイフは、男にかすりもしません。

「俺はこう見えて元は騎士だぞ。その程度で、俺に一太刀食らわせられると思ったか!」
「ナル、ネル!」

 ダリアは叫んだ。
 しかし二人はダリアを守るために立ち上がろうとしますが、蹴り飛ばされてしまい、悲痛を訴えます。
 その姿を間近で見てしまったダリアは目から涙を浮かべましたが、体の震えが収まりません。
 それどころか、鼓動が速くなりました。

「それでお前を守っていたってことは、お雨は殺せばいいんだな」
「う、ううっ」
「如何した? 剣を抜かないのか? そんなんで、俺に勝てると思うのかよ!」

 男の剣が振り下ろされた。
 真っ直ぐ叩きつけるみたいだったが、その剣がダリアに触れる瞬間、ダリアの剣が、男の首を吹き飛ばした。
 真っ赤な血が流れだす。
 すでに意識はないまま、ダリアは本能を覚醒させ、思うがままに剣を振るっていた。
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