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魔術運動会編1

50.目的不明は目的の投影

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 ルカは逃亡者を捕まえた。
 気になる捕まえ方は至って、シンプルで、片手で首根っこをつまんで、動けなくしたんだ。

 ルカはその気になれば、大木ぐらい身体能力だけで、へし折ることができる。
 そんな相手に、普通の狙撃手が敵うはずもなく、暴れて首をへし折られなかっただけ、救いと思って、ありがたがるべきでもある。

 いざ捕まえたルカは、男のフードをはぎ取り、顔を確認。
 当然知らない奴で、頬に傷のある細身でこけた顔の男だった。

「それで、なんであんなことをしたのかな? まさかとは思うけど、私を狙ったんじゃないんでしょ」
「はっ。教えると思うか」

 それもそうか。
 それこそ簡単に教えてくれる相手ではないことぐらい、察している上に、態度や粗暴から見ても、首謀者がいるのは確かで、この男は単なる雇われの身の狙撃手だった。

「まあそうだろうね。でも、私じゃないことぐらいはわかるよ」
「そうかよ。まあそうだがな。しかし、飛行魔術・・・・なんてものがあるなんてな。魔術師は何考えてるか、わからねえよ」

 そうなんだ。
 確かにナタリーに見せてもらった歴史書にも、魔術大全にも、飛行魔術に関する記述はなかったが、まさか本当にないなんて驚きで、進歩していないことが窺える。

「狭い路地に逃げた時点で俺の負けだったわけだ」
「まあそう言うことになるね。それで、如何するの?」

 ルカは煽った。
 しかしながら男は無言を貫いていて、だんまりだったので、ルカは長期戦でも覚悟してみようと思った。

 ルカは気長な人物。
 いくらでも待ってられるけど、限度はある。そこで、脅すというのも手だけど、流石に命まで取る気はない。そこで、得意の固有魔法を使って無理矢理聞き出すかと考えたが、向こうから割るみたいだ。

「まあいい。金はもう貰ってるからな」
「そうなんだ。じゃあ標的は、スプラ?」
「ああ。あの女がいなくなれば得するやつがいるみたいなんでな。俺はモンスターを狩るのが普段だが、他人の命だって簡単に奪う。そこを買ってくれた旦那がいたんだよ」
「そいつの名前は?」
「そこまでは知らねえよ。先に銀行の口座に入ってたからな。小切手と一緒によ」

 男は宛名なしの小切手を見せる。
 そこから判るのは筆跡だけだが、魔力跡もきっちり残っていた。

 しかし流石のルカでも、あったことのない相手。さらには許容外の範囲からの魔力までは、追いきれない。
 残念だが、出力勝負ならセレナ。絡めてならグロリア。その他もろもろの極論はルカと、三人それぞれ得意が違う。が、三すくみは崩壊し、結局のところ本心から、この中で一人だけが明らかに強かった。何故なら、本心からその人間を見抜き、それすら打ち勝つだけの力量と信頼を兼ね備える、神のような存在だったからだ。

「小切手。そっか。で、私はこれから、貴方を騎士に差し出すけど、如何する?」
「ふん。決まってんだろ。ただで俺は!」
「そっか。じゃあ、眠っててよ」

 ルカは指を鳴らした。
 親指と人差し指で、パチン! と音を立てると、男は眠ってしまった。

 初級も初級。
 闇属性の《スリープ》と言う魔術を、魔術式や詠唱をすべて吹き飛ばして、音に混ぜ込んで発動した。

 名づければ、それこそ、《スナップスリープ》と言う名前。
 この魔術を使うのは、あまりいないが、ルカのように、相手を傷つけない・・・・・・・・戦い方を、優先するルカにとっては、効率がいい。
 何よりも本気を出したら・・・・・・・殺してしまいかねない・・・・・・・・・・。だからこそ、加減して・・・・意識を飛ばすぐらいが・・・・・・・・・・戦闘時に心がけて・・・・・・・・いること・・・・だった。

「ふう。でも今後もこんなことが続くとなると、かなり面倒だね。一応ナタリーには伝えておいた方がいいかもしれないけど、何を基準にしてるんだろう」

 今のところは、有望な魔術師を選別して襲うのが、考えやすい。
 それを加味すると、ルカは少し加減した方がいいかもしれない。
 このまま何かあれば、平穏な学生生活が、崩壊し、揺るぎかねないからだ。

「それは困るな。何とか先手を打ちたいところだけど……」

 正直、対策の務めようがない。
 こっちも役目があるし、毎回のように守れない。
 特に競技中は不可能で、そもそも向こうから襲ってきてくれないと、掴みようもなく、大義名分にもならなかった。

 それは非常に困る。
 ルカは男の身柄を拘束し、遠い空を見上げていた。

 その頃には、

「何かあったんですか!」

 声が聞こえた。
 スプラが呼んだ、学校の先生であろう。

 ルカはだんまりになって、拘束した男を突き出す。
 その時のルカの表情に影はなく、その間も警戒を続けていた。しかしそこに怪しい魔力や気配は感じられず、今日のところはこれ以上、仕掛けてはこなそうで、安心するとともに、警戒の糸は緩めないのだった。それはまさに、張り詰めた糸だった。
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