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秩序編

18.慣れ始めは注意模様

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 五月も初め。窓の向こうから射す光は心地よく、東の空から昇った陽光が差し込んでいた。
 曇り一つない透明な窓ガラスの向こう側。
 ポカポカして気持ちが良い。

「ふわぁー」

 ついつい頬杖を突きながらうとうと窓の向こうの景色に思いを馳せるルカ。
 しかしその実態は単につまらないからだった。

 一か月も経てば気が抜けてくるのは何処の世界でも同じこと。
 慣れ始めて少しだらけてきたいた。
 それはルカにだけ言えたことではなく、ふと見渡せば他にもつまらなそうに万年質をくるくるさせたり、頭の上で腕を組んだりしている。
 中でも最前列近い前の席ではシルヴィアの隣で堂々と居眠りを掻くライラックの姿があった。しかし流石のルカでも、そこまでやる勇気はなかった。流石はライラック、恐れ知らずだ。

「あー、んっん。 皆さん気を抜いているようですが、中間テストもすぐに控えているんですよ。単位を落とせばどうなるか、解っていますよね?」

 その瞬間、圧倒的なまでの威圧感がクラスメイト達を襲った。
 ゆっくり振り返ると、そこには張り付けた笑顔がある。しかしいまにもチョークは折れそうに脆い軋む音を奏で、明らか内側に鬼を飼っていた。怖い。誰しもそう思う。

「ノーブル先生、それぐらい心得ているつもりです」
「シルヴィアさんはいいですよ。逆に気を張りすぎで少し怖いぐらいです」
「えっ!? そう見えますか?」
「そうだよーシルヴィ。もう少しだらけようよー」

 ライラックはシルヴィアに寝ぼけた視線を送る。
 だがしかし、ノーブルは辛辣でコホンと咳き込むと、

「貴女のことを言っているんですよ、ライラックさん」
「げっ!? 私かー」
「貴女だけではありませんが特に酷いです。小テストの結果は毎回シルヴィアさんよりいいのでもう少し真面目に取り組んでください」
「ライ、私より成績良いの!」
「たまたまだよー」
「毎年です」
「ライ!」

 シルヴィアはライラックに怒鳴りつけた。
 突然ばらされたのでライラックも困り顔。しかしノーブルの爆弾はまだまだ投下される。

「ツェンファさん、教科書を持ってきてますか?」
「何で分かるんですか!」
「隣のクラスの人に貸しているなら、早く返してもらってください」
「わ、分かりました」

 おせっかいを通り越して怖い。
 もはやノーブルの反射神経はその域にまで達していた。しかしいい先生なのは変わらないので、誰も文句は出ないし、陰口もない。ただし……


「ノーブル先生って不思議よね」
「そう?」

 シルヴィアは空を見ながら声にした。
 中にはでお弁当を広げて食べ合う三人。シルヴィアとライラックは同じ大きさの色違いの弁当箱。紅ピンク色の四角い弁当箱がシルヴィア、薄い青紫色がライラック。瞳の色を彷彿とさせていて分かりやすい。
 対するルカの弁当箱はかなりシンプルだが、中のおかずは可愛らしい。

「うわぁー、ルカのお弁当美味しそうだね」
「そんなでもないよ。ただ昔、友達に地味だねって言われたから、気にしてるのかも」
「この卵焼き貰っていい?」
「どうぞ」

 ルカはライラックに卵焼きを上げた。
 同時に箸を動かして、ウインナーを奪う。

 パクッ——

「「美味しい!」」

 二人は目を見開く。
 しかしライラックの方が目の開き方が大きかった。

「なに、これ!? 一体何の卵使ったのさ!」
「普通だよ。極楽鳥の卵」
「ゴホッゴホッ! ご、極楽鳥!」

 その話を聞いて誰より食いつきが良いのはシルヴィア。
 ルカに詰め寄って尋ねる。

「ちょっと待ってください。極楽鳥って、あの五色の羽色を持つって言う?」
「そうだよ。七福鳥でもいいけどさ」
「そんなの高級すぎて幻よ!」
「呂律回ってないんだけど?」

 ルカは「大丈夫?」って顔をしていた。
 しかし興奮してもはや我を忘れたシルヴィア。だけどそんな興奮したシルヴィアを間近で見たライラックは、くすくす笑っている。

「面白いね、ルカ」
「何が面白いの?」
「だってこんなシルヴィア、先月までは見なかったでしょ」
「確かに」

 ルカは大きく頷いた。
 先月から随分仲良くなったルカ達。しかしこんなに順調なのか。特異的なものの周りでは常に何かが起こる。ルカの経験柄そんな気がして気が気でない。

「はぁー、まぁいっか。昔よりは平和だし」
「何の話?」
「なんでもない」

 ルカは話の腰を折る。
 そんな少し話題を戻した。
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