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■23 黄色の魔術実験①

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 6月。
 大粒の雨がバサバサと音を立てて降り注ぐこの季節。私の下にやって来たのは黄色だった。

「ねえねえルーナちゃん蒼ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うーん」

 素直に聞き返す蒼に対して私は深刻だった。
 黄色がこうやってお願いしに来るとしたらアレしかない。と言うか黄色がこうやって頼る理由はアレしかないのだ。

「またか?」
「うん!」

 黄色は大きく頷いた。
 眼鏡のレンズが怪しく光る。不気味だ。こうやって興奮して鼻息を鳴らす黄色は不気味と言うかそれを通り越して恐怖すら覚える。
 そもそも黄色がここまで興奮すると言うことは相当なものをやるつもりなのだ。でなくちゃこうやって私と蒼に実験のことを話したりしない。気がする。

「えっまた?今度は何するの?」
「そうだね。なにをするのか聞いておかないと、こっちだって快く引き受けられない」
「そんな冷たいこと言わないでよー!朱音ちゃんも来るんだし、それにそれに今回のは危なくないよ!」

 黄色はそう言うがやはり疑わしい。
 前だってスライムが大量発生して私と蒼。それから皐月先輩とでなんとか対処したんだ。あんな面倒ごと正直もうごめんだ。
 だけど朱音までいるとなると話がちがう。彼女は蒼みたいに魔法使いでもないし、黄色みたいに錬金術に興味があるわけでもない全くの無害な人間だ。ただ頭がおかしいぐらい運動能力とか人付き合いが良すぎるのが不思議なだけだが。

「はぁー。じゃあまずなにをやるか聞いておこっかな」
「うん。今日やるのはね、龍鋼玉だよ!」
「そんなもの作るな!」

 私は即座に止めに入る。
 蒼は目をカッと見開いて、おどおどしている。

「えっ、なに?どうしたのルーナちゃん?」
「龍鋼玉を作ろうなんて馬鹿なことはやめておけ!面倒だし、失敗したらどうする気だ」
「大丈夫大丈夫。そのために今回は龍宮さんにも手伝ってもらったから」
「龍宮さんに?(うーん。確かにあの人は腕はいいけど……不安だ)」

 龍宮さんはなにを考えているかよくわからない人だ。
 だからこそ心配にもなる。ただ腕はいい。摂理叔母さんを尊敬している人だし、水龍と契約しているからこその芸当も可能なのだ。龍か……そう言えば私はあんまり会ったことないなー。

「はぁ。わかったよ。私も行く」
「やったー!蒼ちゃんは?」
「もちろんいいよ!駄目って言っても付いて行くから!」
「それでこそ蒼ちゃんだよ。いやー持つべき友達だなー」
「う、うん(不安だ。はぁ、ガブには言っておこう)」

 と言うことで放課後になるのを待ちます。
 時間が進むのは意外にも早く、遂にその時が来てしまいました。
 私達は黄色の待つ、化学室に行くのでした。

「あっ二人とも来た!」
「おっそいよー。二人とも」
「朱音。本当に来たんだ」
「あったりまえでしょ。こんな面白そうなこと、放っておくわけないじゃん」

 大和蒼、小鳥遊黄色、早乙女朱音。言わずと知れた桜陽高校の信号機が揃い踏みだ。ちなみにこう呼ぶようになった発端は私だったりする。

「それで本当にやるの?」
「うん。やるよ」
「はぁー。やるなら止めないけど、なにかあっても知らないよ。起きる前に止めるから」
「OKOK!じゃあ始めるよ」

 かくして黄色の魔術実験が幕を開けるのでした。いや開けてしまったのでした。
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