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■21 モンスターハウス

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 私と蒼は作戦を決行する。
 ここからは時間との勝負になる。
 見上入道はこれから何をするのか不安げだった。

「貴様らなにをする気だ!」
「なにをするって、この棟に飲み込まれた人達を助けるだよ。私達はそのために来たんだ」
「棟に飲み込まれた人間共をだと。無理だ!儂の言いつけも聞かずに飛び込んでいって食われた奴らだぞ!」
「それは妖怪の声は普通聞こえないってだけ。普段から妖怪と交流している人達か、それに準じた行為や妖気を発しないと気付いてすら貰えないのは常識だよ」
「な、なに!」

 私と蒼は上の階を目指す。
 しかし見上入道は未だに私達を止めようと必死だ。

「無謀だ!貴様ら人間の小娘になど不可能」
「不可能と言うのは当たり前かもね。でもそんなこと言ってる場合じゃない。もう奴らは気付いてる。お前もさっさとここを出ろ見上入道」
「なに!」
「早くしろ。ここからは無茶をする。巻き込まれて養分にされても知らないぞ」

 私は警告した。
 それを聞いて只事ではないことを知った見上入道は小さい姿のまま棟の外に出る。
 幸いにも妖怪は無視している様子だ。
 取るに足らない相手と言うことだろう。だったらやはり好都合だった。

「蒼、十秒間だけ足止めできる?」
「十秒?うん。やってみる!」

 蒼は元気よく応えてくれた。
 よし。なら私もちょっと無茶しよう。
 十秒でどうにか出来るかどうかは私の腕にかかっている。あんまり得意じゃないけど、とりあえずまずは挑発して誘き寄せるしかない。

「蒼」
「うん!」
「じゃあ行くよ」

 私は廊下に出た。
 外が見えるはずなのに、その空間は壁のように分厚い妖気で支配されている。
 つまりここには見えない壁があるのと同じだった。

「お前の名前はモンスターハウス!その正体は人間が作り出した恐怖と好奇心の産物。人を食いてその身を真実へと塗り替える化け物だ!」

 私はそう発した。
 虚空に轟くだけで何の意味もない私の妄想。そう聞き取られるのが普通だろうが、如何やら私が暴いたためにその偽りが崩れ出したらしい。

「な、なに!」
「蒼、飲まれちゃ駄目だよ」

 私は短く伝える。
 それを聞いて精神を保てたらしい。
 さてと現れるぞ、この現代妖怪。いや、怪異の正体がーー

 私が名前と能力を当てた。
 それにより棟に取り憑いていたものが剥がれていく。
 壁も廊下もそれから何もない妖気の空間もその全てが脈打つようでまるで生きているみたいだ。
 そして若干ながらその正体も判明する。
 このモンスターハウスは生きた怪異だ。人を含めた命を持つ生物を中に誘い込み、食べる。そして紹介してさらに肥大化する。それを体現したような怪異で、その姿も棟の一画から見てみれば、肉の塊が脈を打ちながらドクドクと鼓動を早めて動物みたいだ。

「うえっ」
「蒼、惑わされるな。いいかい。この肥大化は止められない。中にいる限りはコイツの思う壺だ」
「じゃあどうするの!」
「そのための十秒だよ。さあ早く!」
「わ、わかったよ!」

 私は《ライトソード》と《ダークソード》を魔法でそれぞれ展開。
 そして蒼の号令を待つ。

「水よ、我を清めて敵を撃て。浄化の兆しが迷いを祓う!《アクア・スプラッシュ》!」

 蒼は杖を振り回して魔法を放つ。
 先端の魔法石は青く輝きを放ち、そして魔力を使って放たれたのは浄化の水だった。
 肉片の侵食を食い止め、私が向かうべき道標になる。水が途絶えた瞬間。そこがこの怪異の弱点であり、奴にとって口でえり胃に直通するルート。
 私は翼を展開し、その瞬間を見極める。
 じっくり目を凝らして観察し、途切れた瞬間私は飛び出した。

「見えた!」

 私は回転するように《ライトソード》と《ダークソード》を繰り出す。
 無理矢理にでもこじ開け、その先に待っていたのは気持ち悪い光景だった。
 真っ赤な血が垂れ、ドロドロとした肉片が幾つも転がる。これは助けられなかった人達だ。
 苦い顔を浮かべながら、私は生存者を見つける。

「三人だけ……もういないのか」

 魔力を探知してみても気配すらない。
 私はそんな三人を鎖の魔法で縛り上げ、入ったところから出る。

「蒼!」
「ルーナちゃん」
「掴まって」

 私は蒼の手を握る。
 そのまま余った手で作り出した剣で適当な部分を根こそぎ斬り落とした。

「おりゃぁ!」

 力任せな強印な一撃。
 繊細かつ柔らかな魔力の流れ。
 その二つが重なり合い、モンスターハウスの外側の壁をぶち抜いた。

「うわぁ、ぐはっ!」

 私は翼を目一杯展開してそのまま地面に転がり込む。
 何とか救出した人達は魔法でシールドを張り守り切る。
 蒼も私も手負いだけど、何とか無事モンスターハウスの中から飛び出せた。
 これでなんとか助かった。それだけは私の中で理解した。
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