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■8 蝦蟇蜥蜴
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私とガブ、それから蒼は夜の学校に忍び込んだ。
黄色のおかげで楽に窓から侵入できたからだ。それに加えて今日結界は随分と強力。蒼が皐月先輩に頼んで学校周りの結界を強固にしておいてもらったのだ。そのおかげで物音も外には漏れないし、たとえ校舎が壊れようが瞬時に直る。それがこの結界の力。私も張れないことはないが、流石にここまで大きいと難しいので、こういうのは慣れている人に任せるのが一番だった。
「流石皐月先輩。ご苦労様です」
「ルーナちゃん、早く行こ」
「うん。ガブもいいね」
「はい」
私達は化学室の扉を開け廊下に出る。
すると昼間には感じなかったが凄まじい強い妖気が満ちていた。苦い顔をして周りを見回してみても特定の気配は今度に感じない。一階にはいないのだろうか。
「おっとっと。ルーナちゃんそんなところで止まってどうしたの?」
「いや、改めて夜の学校の雰囲気って」
「ちょっぴり怖いよね!」
「うん。そう言うことじゃなくて、多少なりとも妖怪の気配がするなーって」
「そう?」
「うん。にしても蒼、まさかその格好で来るとは思わなかったよ」
私は蒼の格好をじっと見た。
蒼の格好はと言うとこんな暗い雰囲気には決して似合わない格好で、白いフリルのついた魔法使いというより魔法少女っぽい格好だった。コスプレではない。成形色の青と白、この二つを合わせた衣装だった。それは何処か魔法少女時代の蒼のスタイルに似ている。
「これ?これねー、クオンさんに貰ったんだー!」
「クオンさん?クオンダムさんのことだよね。雲の魔法使いの」
「うん!」
春先に出会った魔法使いだ。蒼達より歳上で全然少女の変わらない灰色髪の魔法使い。それがクオンダムことクオンさんだった。
蒼の師匠的な存在。そう言っても過言ではないが、彼女もまた若い。それに彼女のセンスからしてこの格好は間違っていなかったし、動きやすさも加味していて一目で蒼だってわかる仕様だった。
「それより先に行きませんか」
「それもそうだね。待ちぼうけても仕方ない、手分けして探してもいいけど……不安要素しかないから普通に三人でまとまって行こうか」
「さんせー!」
「不安要素……私もですか!」
まるで気にしない、と言うかわかっていない蒼と理解してしまったが故に落ち込むガブ。お守りと言うわけじゃないが、少なくとも不安要素の一つではある。
特にガブは元が強い力のせいでいくら下界で抑えているからと言っても一つ一つの影響がでかすぎるのが致命的だった。
「ちなみにだけどガブは今神力使える?」
「はい一応は使えますよ。試してみますか?」
「ちなみに出力は」
「この程度です」
と言って波を露わにする。やっぱり強い。私は念押しするようにガブに伝える。
「ガブ、その力は使い所を間違えたら……」
「わかっています。無闇矢鱈と使う気はさらさらありません。でも、必要となれば全力で打ち込みます」
「校舎壊さないでね」
「善処します」
心配だ。心配の種がまた一つ増えたよ。
トホホとなる気持ちを必死に堪え、私達は夜の校舎の探索を開始した。
「でも何でうちの学校なんかにいるんだろうね?」
「多分結界が影響してるんじゃないかな?」
「結界?」
「うん。結界は夜のうちじゃないと効果が薄いように設定されているから、朝方日が昇るタイミングで入って来たんじゃない?」
「如何して?」
「そんなこと聞かれても困るよ。私だって蛙や蜥蜴の習性が分かるわけじゃないんだから」
「そうだよね」
「そうそう」
けど不思議だ。昨日まではそんな気配なかったのに今日になって急にあんな目立つ足跡があるなんて。
夜の校舎の中を歩き回りながら頭の中では思考し続けていた。それにしても夜の校舎に忍び込むのなんて久しぶりだ。この間の二口女の時は屋上から侵入して扉の後ろで待機していたから校舎の中を歩き回るなんてしてなかった。
「そう言えばうちにも七不思議ってあるのかな?」
「えー、わかんないよ。でもあった方が楽しそうだよね!」
「楽しいですか?」
「そうだよ。じゃあ折角だし七不思議も探してみようよ!」
「遠慮しとく。面白半分で探究するようなものでもない。それにほら」
「ん?」
私は一度立ち止まり廊下の奥を見た。
するとズルズルと体を引きずるものが見えた。ただこちらに気がつくと逃げてしまう。
「アレ何?」
「何だろ、廻鬼かな?」
「廻鬼?」
「廻鬼の方が有名かな。って言ってもあんまり知られてない現代妖怪だよ。人に危害を加えることのないおとなしい妖怪だって聞いたけど、まさかこの学校にいるなんて」
「もしかして皐月さんのかな?」
「皐月先輩の?」
「うん。普段は夜の学校を徘徊させて護らせてるって聞いたよ。昼間は体育倉庫でマットの代わりをしてるって」
「えっ、何その情報。初耳なんだけど」
そもそも廻鬼が珍しいのにまさか皐月先輩と契約している妖怪だとは思いもよらなかった。
それにしても知り合って一年近く経つの新しく知ることがあるなんて。やっぱり奥が深い。ズルズルと獅子舞の着る唐草模様の布を引きずり、すぐに視界から消えてしまう。ぼーっと立ち尽くす私達。廻鬼が立ち去り静寂が訪れた途端、妙な気配が漂った。
「何、これ!」
「わからない。でも決して弱くない」
私と蒼は口を揃えて警戒する。
周囲を見回してみても特にないもない。私の目は夜の間も昼間のように見ることができる。だがしかし、それでも姿は見えない。しかし気配は奥の方に続いていた。
「行ってみよう」
「うん」
「はい」
蒼とガブは私の後をついて回る。
廊下の奥。私は敏感に捉えた妖気を追って廊下の奥にやって来た。しかしそこには何もない。だが何かの気配と視線を感じる。
「何もいないね」
「いやいるよ。相手は蝦蟇蜥蜴だよ。つまり」
「壁!」
蒼が叫んだ。
その瞬間、蒼に向けて真っ赤な炎が吐き出される。私は蒼の体を押し倒し、ガブは魔法で防御する。
「ガブ。光出せる!」
「はい」
そう言うとガブは指を鳴らした。
辺りが明るくなる。昼間のような光が周囲を照らし、目の前にいたものは逃げ出した。だがその姿を私達は目視していた。
蛙の頭。蜥蜴の体。間違いない。蝦蟇蜥蜴だった。
ガブの放った光が消える。
下界でも確かに強い効力を示してくれるが、それでも天界にいる時とは比べ物にならないほどに力は小さい。時間制限、効力の制約。それらが相まって光は収束した。
しかし敵の姿は確認した。逃げた方向もわかる。私達は蝦蟇蜥蜴を追って二階に急ぐのだった。
黄色のおかげで楽に窓から侵入できたからだ。それに加えて今日結界は随分と強力。蒼が皐月先輩に頼んで学校周りの結界を強固にしておいてもらったのだ。そのおかげで物音も外には漏れないし、たとえ校舎が壊れようが瞬時に直る。それがこの結界の力。私も張れないことはないが、流石にここまで大きいと難しいので、こういうのは慣れている人に任せるのが一番だった。
「流石皐月先輩。ご苦労様です」
「ルーナちゃん、早く行こ」
「うん。ガブもいいね」
「はい」
私達は化学室の扉を開け廊下に出る。
すると昼間には感じなかったが凄まじい強い妖気が満ちていた。苦い顔をして周りを見回してみても特定の気配は今度に感じない。一階にはいないのだろうか。
「おっとっと。ルーナちゃんそんなところで止まってどうしたの?」
「いや、改めて夜の学校の雰囲気って」
「ちょっぴり怖いよね!」
「うん。そう言うことじゃなくて、多少なりとも妖怪の気配がするなーって」
「そう?」
「うん。にしても蒼、まさかその格好で来るとは思わなかったよ」
私は蒼の格好をじっと見た。
蒼の格好はと言うとこんな暗い雰囲気には決して似合わない格好で、白いフリルのついた魔法使いというより魔法少女っぽい格好だった。コスプレではない。成形色の青と白、この二つを合わせた衣装だった。それは何処か魔法少女時代の蒼のスタイルに似ている。
「これ?これねー、クオンさんに貰ったんだー!」
「クオンさん?クオンダムさんのことだよね。雲の魔法使いの」
「うん!」
春先に出会った魔法使いだ。蒼達より歳上で全然少女の変わらない灰色髪の魔法使い。それがクオンダムことクオンさんだった。
蒼の師匠的な存在。そう言っても過言ではないが、彼女もまた若い。それに彼女のセンスからしてこの格好は間違っていなかったし、動きやすさも加味していて一目で蒼だってわかる仕様だった。
「それより先に行きませんか」
「それもそうだね。待ちぼうけても仕方ない、手分けして探してもいいけど……不安要素しかないから普通に三人でまとまって行こうか」
「さんせー!」
「不安要素……私もですか!」
まるで気にしない、と言うかわかっていない蒼と理解してしまったが故に落ち込むガブ。お守りと言うわけじゃないが、少なくとも不安要素の一つではある。
特にガブは元が強い力のせいでいくら下界で抑えているからと言っても一つ一つの影響がでかすぎるのが致命的だった。
「ちなみにだけどガブは今神力使える?」
「はい一応は使えますよ。試してみますか?」
「ちなみに出力は」
「この程度です」
と言って波を露わにする。やっぱり強い。私は念押しするようにガブに伝える。
「ガブ、その力は使い所を間違えたら……」
「わかっています。無闇矢鱈と使う気はさらさらありません。でも、必要となれば全力で打ち込みます」
「校舎壊さないでね」
「善処します」
心配だ。心配の種がまた一つ増えたよ。
トホホとなる気持ちを必死に堪え、私達は夜の校舎の探索を開始した。
「でも何でうちの学校なんかにいるんだろうね?」
「多分結界が影響してるんじゃないかな?」
「結界?」
「うん。結界は夜のうちじゃないと効果が薄いように設定されているから、朝方日が昇るタイミングで入って来たんじゃない?」
「如何して?」
「そんなこと聞かれても困るよ。私だって蛙や蜥蜴の習性が分かるわけじゃないんだから」
「そうだよね」
「そうそう」
けど不思議だ。昨日まではそんな気配なかったのに今日になって急にあんな目立つ足跡があるなんて。
夜の校舎の中を歩き回りながら頭の中では思考し続けていた。それにしても夜の校舎に忍び込むのなんて久しぶりだ。この間の二口女の時は屋上から侵入して扉の後ろで待機していたから校舎の中を歩き回るなんてしてなかった。
「そう言えばうちにも七不思議ってあるのかな?」
「えー、わかんないよ。でもあった方が楽しそうだよね!」
「楽しいですか?」
「そうだよ。じゃあ折角だし七不思議も探してみようよ!」
「遠慮しとく。面白半分で探究するようなものでもない。それにほら」
「ん?」
私は一度立ち止まり廊下の奥を見た。
するとズルズルと体を引きずるものが見えた。ただこちらに気がつくと逃げてしまう。
「アレ何?」
「何だろ、廻鬼かな?」
「廻鬼?」
「廻鬼の方が有名かな。って言ってもあんまり知られてない現代妖怪だよ。人に危害を加えることのないおとなしい妖怪だって聞いたけど、まさかこの学校にいるなんて」
「もしかして皐月さんのかな?」
「皐月先輩の?」
「うん。普段は夜の学校を徘徊させて護らせてるって聞いたよ。昼間は体育倉庫でマットの代わりをしてるって」
「えっ、何その情報。初耳なんだけど」
そもそも廻鬼が珍しいのにまさか皐月先輩と契約している妖怪だとは思いもよらなかった。
それにしても知り合って一年近く経つの新しく知ることがあるなんて。やっぱり奥が深い。ズルズルと獅子舞の着る唐草模様の布を引きずり、すぐに視界から消えてしまう。ぼーっと立ち尽くす私達。廻鬼が立ち去り静寂が訪れた途端、妙な気配が漂った。
「何、これ!」
「わからない。でも決して弱くない」
私と蒼は口を揃えて警戒する。
周囲を見回してみても特にないもない。私の目は夜の間も昼間のように見ることができる。だがしかし、それでも姿は見えない。しかし気配は奥の方に続いていた。
「行ってみよう」
「うん」
「はい」
蒼とガブは私の後をついて回る。
廊下の奥。私は敏感に捉えた妖気を追って廊下の奥にやって来た。しかしそこには何もない。だが何かの気配と視線を感じる。
「何もいないね」
「いやいるよ。相手は蝦蟇蜥蜴だよ。つまり」
「壁!」
蒼が叫んだ。
その瞬間、蒼に向けて真っ赤な炎が吐き出される。私は蒼の体を押し倒し、ガブは魔法で防御する。
「ガブ。光出せる!」
「はい」
そう言うとガブは指を鳴らした。
辺りが明るくなる。昼間のような光が周囲を照らし、目の前にいたものは逃げ出した。だがその姿を私達は目視していた。
蛙の頭。蜥蜴の体。間違いない。蝦蟇蜥蜴だった。
ガブの放った光が消える。
下界でも確かに強い効力を示してくれるが、それでも天界にいる時とは比べ物にならないほどに力は小さい。時間制限、効力の制約。それらが相まって光は収束した。
しかし敵の姿は確認した。逃げた方向もわかる。私達は蝦蟇蜥蜴を追って二階に急ぐのだった。
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