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第一章:異能力者、異世界に降り立つ
第2話 見知らぬ世界
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ヒューヒュー
頬を撫でる感覚。
心地よく体を包み込み、私の意識を目覚めさせようと必死だ。
真っ暗な闇世の中、私の意識を引き戻したのはそんな優しい風の音で、重たい瞼をゆっくりと開いた。
「ううっ、草?」
まず初めに私の視界に入ってきたのは青々とした草だった。
体を包み込んでくれていて、棘々しかないので全く痛くない。むしろ柔らかくて日向ぼっこに丁度いいぐらいで、不意にまた眠ってしまいそうだった。
しかしそうしたい気持ちを抑え込んで、私はゆっくりと体を起こす。するとそこは一面の草原だった。
「えっ!?」
言葉を失った。
まだ夢の中なのだろうかと、自分の目を疑って目を擦る。しかしながらいくら擦ってみても頬をつねってみても景色は変わらない。パチクリと瞬きをしてみても景色が変化することはなかった。
「如何言うこと、これ?何で私こんなところにいるの」
周りを見回してみても誰からの返答もなかった。
如何やら周囲にいるのは私だけで、他には影も形もない。つまり私はこんな何もない草原に一人きりだと言うことだ。
頭上には影を作るようにして聳ある大きな木。それが風の流れを阻んで、私を優しく癒す。
「幻術系の異能力者の攻撃?でもその兆候も反応もないのに、如何やって」
思考を巡らせてみるが、見当がつかない。
そうやって訳もわからないことに悩まされ動揺するのは私らしくないが、これは明らかにおかしかった。生えている草を触ってみると確かに感覚はある。
ちょっぴり暖かくて、空も綺麗な青空だった。
日差しも暖かく、幻術にしては良くできすぎている。白昼夢とも思えないし、走馬灯とも違う。そもそも荷物は全部あるので、ここが現実の何処かであることに違いないのは確かなはずだ。
「もしかして、異世界転生しちゃってたりして」
笑いながら呟いてみる。
そんな突飛なことが起きるはずないし、起きてもらっても困る。大抵異世界転生ものは元の世界に戻れないし、私は正直元の世界にやり残したことだってある。そもそも死んだような実感はないので、どちらかと言うと異世界転移の方が近いのかもしれないがこの際如何でもよかった。
「まさかね。そんなことあるはずないよ」
これまたフラグじみたことを言ってみる。
大体何で私なんだろうと思うし、そもそもここが本当に異世界なのかと言う実感もなかった。
「まあでもこれから如何しよう。今は私が持ってはものは……」
私はもしものことに備えて今自分が持っているものを確認してみる。
こう言った確認は先輩達にすっごく言われたので、習慣づけていた。
「えっと、まずは今着ているブレザーにポケットにはスマホと財布。それからいっつも使っているリュックと中身は今日やった授業とそれから体操服にジャージ。置きっぱなしにしてたっけ。で、後は刀凱っと。これで全部かー」
私はずらっと中身を確認してみた。
正直心許ないとしか言いようがないが、まあ何とかなるでしょう。いざ戦いになっても刀凱があればそれなりに渡り合えると思った。
「でも何処に行ったらいいんだろう」
流石にゼロから位置を特定するような異能はない。
せめて何かしらのヒントがあればいいのだが、視界の先には薄らと整備された剥き出しの地面が窺えるだけだった。
「とりあえずあの辺りまで行ってみてから、行き先を考えよ」
気にもたれかかるように添えられていた私のリュックと刀の入った竹刀袋を肩にかけると、私はひとまず道を目指して歩いてみることにした。
生え揃った自然の草の上を踏み歩き、ぽかぽかとした陽気に包まれる。如何やらここはと言うかこの世界の季節は夏ではなさそうだった。
「でも何でこんなところに飛ばされたんだろう。それにそんな異能力聞いたことないよ」
これまでと言うか生きてきた中でこんな変わったと言うか迷惑な異能力に出会ったことがない。そもそもこんな能力があったなんて言う記実も少なくとも私は見ていないのだ。
「もしかして本当にこの世界の異能が私を呼びつけたとかだったりして。はあ、だったら帰り方ぐらい教えて欲しいよ」
ため息混じりに愚痴をこぼす。
そんな時だった。
急に誰かの叫び声のようなものが聞こえてきたのはーー
「タレサ、タズせネぐレ!」
雑音みたいな声。
聞き取ることができない。少なくとも何かを言っているのは分かったし、パニックになっているのも声音から伝わってきた。
「何って言ってるんだろう。あっ、確かこんな時に使える異能力があった気が……」
確かこんな時に使える異能力を私は知っている。
葉隠先輩の異能力は相手の言葉を理解して、その言葉との意思疎通を可能にするすっごい異能力のはずだった。
「えっと確か、『言葉』!」
葉隠先輩の異能。
英語でもフランス語でも何でもかんでも“話す”ことに対してだけではあるが、言葉を理解して互いに意思を疎通できる便利な能力であった。
この異能の力を使えばきっとこの言葉の意味もわかるはずだ。ちなみにこの異能は一度使ったら二回目以降使わなくても、言葉が理解しっぱなしの状態になるので、初回のみ有効である。
「誰か、助けてくれ!」
「助けてくれ!やばい、早く行かないと!」
私は力任せに走った。
声のする方に向かって私は走り、そして別の人の異能を借り受ける。
「あんまり能力に頼りたくはないけど、今は緊急事態……『神速』!」
私は速水先輩の異能を借り受け、その場を一気に駆け上がる。
体が持ってかれるように痛い。この異能はそこまで小回りも効かない上に、体を痛めかねなかった。だからこそ草の上を踏み荒らし、急いで現場に向かうと私の視界の先には壊れた荷馬車とへたりこむ男の人が二人とその人達を襲う人影があった。
(如何見てもあっちが悪者だよね)
私は竹刀袋を構えると、悪者っぽい男達の前に立ちはだかるとそのうちの一人を音もなく竹刀の中に納刀された刀の鞘で脇腹を殴りつけた。
「ぐはっ!」
そのまま引き抜き男の体を遠くに飛ばす。
異能に頼りきりにできないのはこう言った単純技能を失いかねないからで、私は男達の前に立ちはだかった。
「何だお前!何処から湧いてきやがった」
「そんな虫みたいな言われ方をされる義理はないんだけどね」
「うるせえ女は引っ込んでろ!」
「今の時代、そんな言い方をしたら世間から叩かれちゃうよ?でもこれで納得した。やっぱりここは、異世界なんだ」
軽く肩を落としてそう鈍く呟いていた。
頬を撫でる感覚。
心地よく体を包み込み、私の意識を目覚めさせようと必死だ。
真っ暗な闇世の中、私の意識を引き戻したのはそんな優しい風の音で、重たい瞼をゆっくりと開いた。
「ううっ、草?」
まず初めに私の視界に入ってきたのは青々とした草だった。
体を包み込んでくれていて、棘々しかないので全く痛くない。むしろ柔らかくて日向ぼっこに丁度いいぐらいで、不意にまた眠ってしまいそうだった。
しかしそうしたい気持ちを抑え込んで、私はゆっくりと体を起こす。するとそこは一面の草原だった。
「えっ!?」
言葉を失った。
まだ夢の中なのだろうかと、自分の目を疑って目を擦る。しかしながらいくら擦ってみても頬をつねってみても景色は変わらない。パチクリと瞬きをしてみても景色が変化することはなかった。
「如何言うこと、これ?何で私こんなところにいるの」
周りを見回してみても誰からの返答もなかった。
如何やら周囲にいるのは私だけで、他には影も形もない。つまり私はこんな何もない草原に一人きりだと言うことだ。
頭上には影を作るようにして聳ある大きな木。それが風の流れを阻んで、私を優しく癒す。
「幻術系の異能力者の攻撃?でもその兆候も反応もないのに、如何やって」
思考を巡らせてみるが、見当がつかない。
そうやって訳もわからないことに悩まされ動揺するのは私らしくないが、これは明らかにおかしかった。生えている草を触ってみると確かに感覚はある。
ちょっぴり暖かくて、空も綺麗な青空だった。
日差しも暖かく、幻術にしては良くできすぎている。白昼夢とも思えないし、走馬灯とも違う。そもそも荷物は全部あるので、ここが現実の何処かであることに違いないのは確かなはずだ。
「もしかして、異世界転生しちゃってたりして」
笑いながら呟いてみる。
そんな突飛なことが起きるはずないし、起きてもらっても困る。大抵異世界転生ものは元の世界に戻れないし、私は正直元の世界にやり残したことだってある。そもそも死んだような実感はないので、どちらかと言うと異世界転移の方が近いのかもしれないがこの際如何でもよかった。
「まさかね。そんなことあるはずないよ」
これまたフラグじみたことを言ってみる。
大体何で私なんだろうと思うし、そもそもここが本当に異世界なのかと言う実感もなかった。
「まあでもこれから如何しよう。今は私が持ってはものは……」
私はもしものことに備えて今自分が持っているものを確認してみる。
こう言った確認は先輩達にすっごく言われたので、習慣づけていた。
「えっと、まずは今着ているブレザーにポケットにはスマホと財布。それからいっつも使っているリュックと中身は今日やった授業とそれから体操服にジャージ。置きっぱなしにしてたっけ。で、後は刀凱っと。これで全部かー」
私はずらっと中身を確認してみた。
正直心許ないとしか言いようがないが、まあ何とかなるでしょう。いざ戦いになっても刀凱があればそれなりに渡り合えると思った。
「でも何処に行ったらいいんだろう」
流石にゼロから位置を特定するような異能はない。
せめて何かしらのヒントがあればいいのだが、視界の先には薄らと整備された剥き出しの地面が窺えるだけだった。
「とりあえずあの辺りまで行ってみてから、行き先を考えよ」
気にもたれかかるように添えられていた私のリュックと刀の入った竹刀袋を肩にかけると、私はひとまず道を目指して歩いてみることにした。
生え揃った自然の草の上を踏み歩き、ぽかぽかとした陽気に包まれる。如何やらここはと言うかこの世界の季節は夏ではなさそうだった。
「でも何でこんなところに飛ばされたんだろう。それにそんな異能力聞いたことないよ」
これまでと言うか生きてきた中でこんな変わったと言うか迷惑な異能力に出会ったことがない。そもそもこんな能力があったなんて言う記実も少なくとも私は見ていないのだ。
「もしかして本当にこの世界の異能が私を呼びつけたとかだったりして。はあ、だったら帰り方ぐらい教えて欲しいよ」
ため息混じりに愚痴をこぼす。
そんな時だった。
急に誰かの叫び声のようなものが聞こえてきたのはーー
「タレサ、タズせネぐレ!」
雑音みたいな声。
聞き取ることができない。少なくとも何かを言っているのは分かったし、パニックになっているのも声音から伝わってきた。
「何って言ってるんだろう。あっ、確かこんな時に使える異能力があった気が……」
確かこんな時に使える異能力を私は知っている。
葉隠先輩の異能力は相手の言葉を理解して、その言葉との意思疎通を可能にするすっごい異能力のはずだった。
「えっと確か、『言葉』!」
葉隠先輩の異能。
英語でもフランス語でも何でもかんでも“話す”ことに対してだけではあるが、言葉を理解して互いに意思を疎通できる便利な能力であった。
この異能の力を使えばきっとこの言葉の意味もわかるはずだ。ちなみにこの異能は一度使ったら二回目以降使わなくても、言葉が理解しっぱなしの状態になるので、初回のみ有効である。
「誰か、助けてくれ!」
「助けてくれ!やばい、早く行かないと!」
私は力任せに走った。
声のする方に向かって私は走り、そして別の人の異能を借り受ける。
「あんまり能力に頼りたくはないけど、今は緊急事態……『神速』!」
私は速水先輩の異能を借り受け、その場を一気に駆け上がる。
体が持ってかれるように痛い。この異能はそこまで小回りも効かない上に、体を痛めかねなかった。だからこそ草の上を踏み荒らし、急いで現場に向かうと私の視界の先には壊れた荷馬車とへたりこむ男の人が二人とその人達を襲う人影があった。
(如何見てもあっちが悪者だよね)
私は竹刀袋を構えると、悪者っぽい男達の前に立ちはだかるとそのうちの一人を音もなく竹刀の中に納刀された刀の鞘で脇腹を殴りつけた。
「ぐはっ!」
そのまま引き抜き男の体を遠くに飛ばす。
異能に頼りきりにできないのはこう言った単純技能を失いかねないからで、私は男達の前に立ちはだかった。
「何だお前!何処から湧いてきやがった」
「そんな虫みたいな言われ方をされる義理はないんだけどね」
「うるせえ女は引っ込んでろ!」
「今の時代、そんな言い方をしたら世間から叩かれちゃうよ?でもこれで納得した。やっぱりここは、異世界なんだ」
軽く肩を落としてそう鈍く呟いていた。
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