かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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41話 新しい家具が届いたよぉ~

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 あれから数日。
 俺はなーんにもない小屋の中で、特に何もすること無く、無駄時間を過ごしていた。
 というのも仕方がない程に何も無く、俺は完全無欠のサバイバル生活を送っていた。

「おらぁ!」
「ブヒッ!?」

 俺は木の上から飛び掛かり、真下に居た豚の背後を取る。
 持っていた剣で柔らかい部位を狙って突き刺すと、豚は悲鳴を上げる。
 脚をバタバタさせると、そのままもつれてしまい、鼻から思いっきり地面に転がった。

「ごめん、俺の晩ご飯だから」

 これは仕方がない。自然の摂理って奴だ。
 俺は剣の切っ先を豚に突き刺すと、一瞬で絶命した。
 思い切って心臓を一突きにしたおかげだろう。
 血飛沫の量も少なく済み、俺は豚を抱えて小屋へと戻る。

「どうしよう。丸焼き漢過ぎるんだよな。んじゃ、調味料を使って……って、クーリエに流されたんだ。ううっ、鍋も無いからチャーシューも作れない。どうする?」

 豚を持ち帰ったは良いものの、調理器具も無ければ調味料も無い。
 残されたものは木の皿が一枚と、誰も使わない箸のみ。
 一体これで何を作ればいい? 社畜プログラマーの俺に、凝った料理なんて作れっこない。

「仕方ないな。丸焼きコースで行くか」

 俺は溜息を付いてしまった。
 トホホな気分で落胆すると、目の前にみすぼらしい小屋が見える。
 俺が使っている小屋で、何故か扉が開いていた。
 おまけに騒がしく、遠目で見ていた俺は警戒する。

「誰かいる?」

 正直、小屋に鍵なんてものは無い。
 そもそも扉が開けるか閉めるかしかできない代物で、内鍵しか無いんだ。
 扉が開いている=誰か来た。盗賊か、泥棒か、はたまた怪しい侵入者か。
 俺は万が一に備え剣の柄に手を掛けると、ゆっくり気配を殺して近付いた。

「【固有魔法:付与強化(隠)】」

 俺は固有魔法で気配を完全に殺す。
 まるで忍者の様に忍び、透明人間の様に存在感を消し、スパイの様に接近する。
 木の葉一つ音を立てずにいると、小屋の中でガサゴソと物色する音が聞こえた。

「誰だろ……クーリエ?」
「ん? そこにいらっしゃるのは、ヒジリ様ですか?」

 小屋の中を開けっ放しの扉の隙間から覗き込む。
 すると中に居たのはクーリエの姿。
 せっせと作業をしているようで、如何やら家具を配置しているらしい。

「う、うん。なにしてるの?」
「はい、旦那様に頼んでおりました家具が手に入ったので、ヒジリ様の小屋へと運びに参りました。しかしヒジリ様の姿が無かったため、私の方で誠に勝手ながら、配置させていただいておりました」
「おお、そっか。ありがとう」

 俺はクーリエの余りの手際の良さに毎度のことながら驚愕する。
 開いた口が閉じなくなってしまい、瞬きを何度もしてしまった。
 それもそのはず、小屋の中に配置されている家具はどれもこれも良い物。
 一応俺も貴族の端くれ。物の良さくらいは理解できた。

「クーリエ、高かったでしょ? 父さんになにか言われた?」
「いえ、旦那様は終始楽しげでしたよ」
「楽しげ? 怖っ」
「ヒジリ様は愛されていると言うことです。偶にはお屋敷の方に戻ってはいかがでしょうか?」
「あっ、それは無いかな」

 俺がこうして小屋暮らしをしているのは訳がある。
 一つは俺をこの世界に転生させた天使風の女性の謎の発言。
 それが解決しない限り、俺の気持ちも整理できない。

 それに何より家族を巻き込みたくない。
 もしもそれが面倒ごとの引き金なら、この世界の家族も巻き込まれる。
 一応は辺境でも貴族は貴族。しかも農業のスペシャリスト。
 居なくなれば絶対に困る。それは間違いない。

「何故でしょうか? ご家族の皆様、ヒジリ様の帰りを待っておられます」
「うーん、だから嫌なんだよ」
「何故でしょうか?」
「貴族、面倒臭い」

 俺は真面目なことを言った。
 貴族なんて面倒なことだ。
 だからこそ、やりたくないし、この小屋に住んでいるんだ。

「大体貴族に関わったって、面倒の種にしかならないから……」
「はぁはぁはぁはぁ……ヒジリ様、ラウリィ、ただいま戻りましたが、早速お願いを……」
「ああ、面倒の種になった」

 俺は背後に聞こえた声に絶句した。
 この口調、この違和感。如何やらラウリィが面倒事を持って来たらしい。
 頭を抱えてしまうと、目を伏せ、顔色を窺うことにした。
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