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40話 面倒な約束事
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「結局、後始末はクーリエに任せちゃったな」
俺は家具の無い小屋の中でボヤいた。
肘を付くものもないので、床に直に座る。
その隣では、ラウリィが自分の荷をまとめていた。
如何やら、一度家に帰ってくれるらしい。
それもそのはず、こんな何も無い無防備な小屋の中に、いたいけな少女を住ませるわけにはいかない。
社畜時代、家にもろくに帰れず、仕事用デスクで突っ伏して気絶寝していた俺とは違う。そう、慣れが圧倒的に違うのだ。
「大丈夫ですよ。クーリエさんなら、後始末を上手くしてくれます」
「し過ぎるから怖いんだよ。あー、報告書ぐらい書くべきだったか?」
報告書も何故か散々書かされた思い出がある。
前世も今世も、社畜でも貴族でも変わらない。
俺はたくさん報告書を書いてきた。
ウザったらしくて仕方がなく、俺は表情を歪める。
「あの、ヒジリさん」
「ん? なに」
そんな中、間を読んでから意を決してラウリィが口を開く。
鞄の中に詰められるだけ物を詰め込み(詰められそうに無い大きさの鞄だけど)、荷造りは済んだらしい。
「本当に私は帰った方がいいですか?」
「ああ、うん。全然帰っていいよ。それこそ、好きな時に好きな時間、好きなタイミングで帰っていいよ。俺、気にしないから」
「それはなんだか信頼が置かれていない気がします」
「あはは、逆だよ逆。それだけラウリィを信じてるってことだから」
付け焼き刃にもならない言葉が出た。
と言うのも、この森の中で暮らして二年近く。
全くと言っていいほど、一人で暮らすのにこと足りない。
正直、一人の方が気楽でよく、俺に従者も要らないし、ストーカー気質の専属メイドも必要無かった。
もはや皆無な領域で、とりあえず表情にだけは出さずに取り繕う。
「で、でも、私は……」
「ラウリィ、戦うだけが従者じゃ無いよ」
「えっ!?」
俺はバレたかなと思った。
だってこんな見え透いた言葉を掛けたら、一連の流れを見てていたと言っても過言じゃ無い。
俺は自分で墓穴を掘りに行くも、ラウリィは気が付いていない。察しの悪い従者だけど、俺は可愛く思う。むしろ、可愛いと思った。
「ラウリィが戦う必要はない。戦闘要員なら、クーリエがいる。それに、ラウリィは料理が上手だから、家事方面で頑張る従者にでもなればいいんじゃない?」
俺は俺なりに言葉を選んだ。
人には適材適所、できることとできなきことがある。
だからできないことに目を向ける時間はない。
むしろできることに誇りを持つ。それが一番大切なことだと俺は思った。
「ヒジリさん、こんななにもできない私でも、いいんですか?」
「なにもできなくはないでしょ?」
「そう言って貰って、なんだか自信が付きました!」
「そっか。よかった」
これでとりあえず一安心。
俺はホッと胸を撫で下ろすと、ラウリィは俺に頭を下げる。
「あの、ヒジリさん。お願いしたいことがあります」
「お願い?」
面倒ごとは嫌だな。
そう思ってしまうのが本心だけど、ここは聞いておこう。
「なに?」
「今じゃないんです。今じゃなくて、その、私が次戻ってきた時、助けてくれませんか?」
「助ける!? また仰々しい話題だね」
なーんか、嫌な予感がする。
断れと俺の頭が騒ぎ立てる。
だけど今更断れない。この雰囲気、ムードを壊すと、ヤバそうだ。
「まあ、できることは? 最小限なら?」
「本当ですか!?」
(ち、近い! なんか圧迫感がある)
ラウリィは俺のことを逃さない。
キラキラ光る眼で見つめると、俺は断り辛い領域に引き摺り込まれる。
息を呑む。ラウリィの柔らかそうな唇が目の前にあり、俺は一歩引こうとした。
「ヒジリさん、お願い聞いてくれますか!?」
「えっと、分かった。ある程度のことはするよ。とはいえ、俺だけね。俺だけだからね」
ここは何としてでも譲れない。
この世界の家族を巻き込まないよう、細心の注意を払うと、ラウリィは胸を叩く。
「ヒジリさんがいてくれたら心強いです! それじゃあ、お願いしますね!」
「あ、ああ、うん。……行っちゃった」
俺は完全に圧迫面接にやられ、押し潰される。
ラウリィからの謎のお願いが怖い。
そんな何とも言えない恐怖心と猜疑心に煽られながら、俺は何もかも無くなった小屋の中で、ただ一人、呆然と座り込むのだった。
俺は家具の無い小屋の中でボヤいた。
肘を付くものもないので、床に直に座る。
その隣では、ラウリィが自分の荷をまとめていた。
如何やら、一度家に帰ってくれるらしい。
それもそのはず、こんな何も無い無防備な小屋の中に、いたいけな少女を住ませるわけにはいかない。
社畜時代、家にもろくに帰れず、仕事用デスクで突っ伏して気絶寝していた俺とは違う。そう、慣れが圧倒的に違うのだ。
「大丈夫ですよ。クーリエさんなら、後始末を上手くしてくれます」
「し過ぎるから怖いんだよ。あー、報告書ぐらい書くべきだったか?」
報告書も何故か散々書かされた思い出がある。
前世も今世も、社畜でも貴族でも変わらない。
俺はたくさん報告書を書いてきた。
ウザったらしくて仕方がなく、俺は表情を歪める。
「あの、ヒジリさん」
「ん? なに」
そんな中、間を読んでから意を決してラウリィが口を開く。
鞄の中に詰められるだけ物を詰め込み(詰められそうに無い大きさの鞄だけど)、荷造りは済んだらしい。
「本当に私は帰った方がいいですか?」
「ああ、うん。全然帰っていいよ。それこそ、好きな時に好きな時間、好きなタイミングで帰っていいよ。俺、気にしないから」
「それはなんだか信頼が置かれていない気がします」
「あはは、逆だよ逆。それだけラウリィを信じてるってことだから」
付け焼き刃にもならない言葉が出た。
と言うのも、この森の中で暮らして二年近く。
全くと言っていいほど、一人で暮らすのにこと足りない。
正直、一人の方が気楽でよく、俺に従者も要らないし、ストーカー気質の専属メイドも必要無かった。
もはや皆無な領域で、とりあえず表情にだけは出さずに取り繕う。
「で、でも、私は……」
「ラウリィ、戦うだけが従者じゃ無いよ」
「えっ!?」
俺はバレたかなと思った。
だってこんな見え透いた言葉を掛けたら、一連の流れを見てていたと言っても過言じゃ無い。
俺は自分で墓穴を掘りに行くも、ラウリィは気が付いていない。察しの悪い従者だけど、俺は可愛く思う。むしろ、可愛いと思った。
「ラウリィが戦う必要はない。戦闘要員なら、クーリエがいる。それに、ラウリィは料理が上手だから、家事方面で頑張る従者にでもなればいいんじゃない?」
俺は俺なりに言葉を選んだ。
人には適材適所、できることとできなきことがある。
だからできないことに目を向ける時間はない。
むしろできることに誇りを持つ。それが一番大切なことだと俺は思った。
「ヒジリさん、こんななにもできない私でも、いいんですか?」
「なにもできなくはないでしょ?」
「そう言って貰って、なんだか自信が付きました!」
「そっか。よかった」
これでとりあえず一安心。
俺はホッと胸を撫で下ろすと、ラウリィは俺に頭を下げる。
「あの、ヒジリさん。お願いしたいことがあります」
「お願い?」
面倒ごとは嫌だな。
そう思ってしまうのが本心だけど、ここは聞いておこう。
「なに?」
「今じゃないんです。今じゃなくて、その、私が次戻ってきた時、助けてくれませんか?」
「助ける!? また仰々しい話題だね」
なーんか、嫌な予感がする。
断れと俺の頭が騒ぎ立てる。
だけど今更断れない。この雰囲気、ムードを壊すと、ヤバそうだ。
「まあ、できることは? 最小限なら?」
「本当ですか!?」
(ち、近い! なんか圧迫感がある)
ラウリィは俺のことを逃さない。
キラキラ光る眼で見つめると、俺は断り辛い領域に引き摺り込まれる。
息を呑む。ラウリィの柔らかそうな唇が目の前にあり、俺は一歩引こうとした。
「ヒジリさん、お願い聞いてくれますか!?」
「えっと、分かった。ある程度のことはするよ。とはいえ、俺だけね。俺だけだからね」
ここは何としてでも譲れない。
この世界の家族を巻き込まないよう、細心の注意を払うと、ラウリィは胸を叩く。
「ヒジリさんがいてくれたら心強いです! それじゃあ、お願いしますね!」
「あ、ああ、うん。……行っちゃった」
俺は完全に圧迫面接にやられ、押し潰される。
ラウリィからの謎のお願いが怖い。
そんな何とも言えない恐怖心と猜疑心に煽られながら、俺は何もかも無くなった小屋の中で、ただ一人、呆然と座り込むのだった。
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