かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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38話 【家系魔法:陣形掌握】の能力(ラウリィ視点)

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 私はホーンド・ブルを前に足が竦んでいました。
 隣ではクーリエさんが凄い速さでホーンド・ボアを倒しています。
 カッコいい。そう思ったのも束の間、ホーンド・ボアの一匹が私に襲ってきます。

「キヤッ!」
「ラウリィ様!? 【固有魔法:精霊使役】。お願いします、シルフ!」

 クーリエさんが手をかざすと、強烈な風が吹いた。
 私のことを襲って来たホーンド・ボアが吹き飛びます。
 近くの木に叩き付けられると、そのまま気絶してしまいました。

「ボフッ!」

 ホーンド・ボアは体をプルプル震わせてしまいました。
 麻痺してしまい、体を動かすこともできません。
 私はクーリエさんに助けて貰ったものの、何だか情けなく思います。

「ラウリィ様、大丈夫ですか?」
「は、はい……」
「どうしましたか? 先程までの威勢は何処に行ってしまったんですか?」
「私、クーリエさんに助けられてしまって……情けないんです」

 ポロポロ言葉が吐露しました。
 目から涙が出てしまいますが、クーリエさんはそんな私の形に手を置きます。
 にこやかに微笑むと、私の耳元に呟いた。

「覚悟を見せたのは、嘘ですか? そうでないのなら、証明してください」

 それを言われた瞬間、私の頭が空っぽになりました。
 考える余力さえなくなります。
 クーリエさんなりに渡しを鼓舞してくれているんですが、それが効果覿面だったのか、私は零す涙を拭き取りました。

「分かりました……【家系魔法:陣形掌握】!」

 私は剣を地面に付き付けました。
 それから魔法を放つと、剣と私を中心に巨大な丸い円が浮かびます。
 地面に刻まれると、眩い光を放ち、ホーンド・ボアの動きが止まりました。

「クーリエさん、固定しました!」
「上出来です。ですが、まだ足りません」
「えっ!?」
「貴女が切らなければ意味が無いんです」
「そんなことを言われても、私は……」

 私の魔法は動いたら解けてしまいます。
 しかもこの状況。ホーンド・ボアの動きが止まっているのは、私が地面に固定しているだけなんです。
 それを攻撃に回すなんて真似、私はできませんでした。

「分かりました。ですが上出来です。後は私が……切ります」

 私の不甲斐なさに自責してしまいました。
 しかしクーリエさんは理解してくれました。
 一瞬目を伏せた気がしましたが、それでも剣をホーンド・ボアたちに突き付けると、素早く地面を蹴りました。

「解体します」

 クーリエさんはそう言うと、手にした剣の剣身に風を纏わせました。
 グルグルと気流が巻き上がり、ホーンド・ボアに叩き付けます。
 するとホーンド・ボアの体が無残にも切り裂かれました。
 たくさんの血が出ていて、とても痛そうです。

「ブルルルンンンンンンンンンンンンンンン!」

 ホーンド・ボアが一匹倒されると、背中を蹴飛ばして次のホーンド・ボアを切ります。
 たったの一撃でホーンド・ボアを叩きのめすと、更に切り刻み動けなくしてしまいます。

「クーリエさんの力……凄いです」

 本当に目を見張るものがあります。
 むしろ目を見張るものしかありません。

 ですが私は少し悲しくなります。
 あまりにも惨い上に悍ましい攻撃。
 それが何度も何度も叩き付けられると、私は目を閉じたくなりますが、私自身も魔法のせいで動けません。
 そのせいでしょうか? 私はグッと目を瞑り、端末間のようなホーンド・ボアの悲鳴を聞きます。

(は、早く終わって欲しいです)

 私は攻撃を受けるホーンド・ボアの気持ちになります。
 しかしクーリエさんはホーンド・ボアを倒す度に、「一つ、二つ」と物でも数えるようです。
 私は唇を歪めると、クーリエさんの声が聞こえます。

「これで最後です」

 その瞬間、クーリエさんはホーンド・ボアを全て倒してしまいました。
 最後の一匹、その断末魔は群れの長のものでした。
 私はなにもしていない……いいえ、私が動きを止めたから、ホーンド・ボアは攻撃できなかったんです。

「ううっ……」

 これも全て私のせい。
 私はそう思ってしまいますが、剣を鞘に納めたクーリエさんが私の眼の前にやってきます。

「ラウリィ様」
「は、はい!?」

 私は言葉を失いました。
 目の前にやって来たクーリエさんの顔。
 そこにはホーンド・ボアの血飛沫が掛かっています。

 だけど着ているメイド服は一切汚れていません。
 あまりにもお片付けが上手すぎます。
 私は喉を嫌な唾が落ちると、クーリエさんは笑みを浮かべました。

「ありがとうございました。ラウリィ様のおかげで、ホーンド・ボアの群れを容易く片付けることが叶いました」
「あの、クーリエさん」
「はい、なんでしょうか?」
「その……クーリエさんは辛くないんですか?」
「はい?」

 私はクーリエさんが余りにも戦闘に狂っていたので不安になります。
 ですがクーリエさんにとってはこれくらい造作もないようです。
 そのせいでしょうか? 一瞬、言葉を選びますが、すぐに選んだ言葉を吐露します。

「辛くはありませんよ。それでヒジリ様の手を煩わせないのであれば、私にとってはなによりです」
「クーリエさん」
「それが私達、ヒジリ様に仕える者の務めです。ラウリィ様もその自覚を持って、腕を磨いてくださいね」
「……は、はぃ」

 そうは言われても、私には難しそうです。
 私にはクーリエさんのような、強さはありません。
 だから、だからこそ、私はクーリエさんの言葉に耳を貸すことができず、小さくなってしまっていました。
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