かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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35話 死の光景に震えない!(クーリエ視点)

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「ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ」
「大丈夫ですか、ラウリィ様」

 私はヒジリ様の仰せの通り、ラウリィ様を連れて森を離れました。
 他のモンスターに察知されぬよう、細心の注意を払いつつ、ヒジリ様の住まうボロ小屋に辿り着くと、ラウリィ様は息を荒げてしまいます。

「あ、あ、あ、あんなことになっちゃうなんて……」

 如何やらラウリィ様は慣れていないようでした。
 これでは従者として不十分。
 私はそう思ってしまいますが、ラウリィ様のことを支えます。それがヒジリ様のメイドの勤めです。

「ラウリィ様、落ち着いてください」
「お、落ち着けませんよ!」

 ラウリィ様は癇癪を起こしました。
 無理もありません。何せ、目の前で人が死んでしまったのですから。
 しかも無惨な死に方。あれを直面すると、流石に精神を抉られるのも無理はありません。

「そうですね、落ち着くなんて真似、できませんよね」

 私ももう少し人を想うことができればと思います。
 しかし、それでも、起きてしまった事実を変える事はできません。
 私はラウリィ様の肩を抱くと、ヒジリ様の従者である自覚を持って貰いました。

「ラウリィ様」
「クーリエさん?」
「貴女は何者ですか?」
「えっ、わ、私はラウリィ・ストチュールで、すけど」
「そうではありません。貴女は、誰の、なんですか?」

 私の質問の意味、その真意を理解して貰いました。
 この回答次第では、私はラウリィ様を見限ります。
 それだけの覚悟を示すと、ラウリィ様をジッと試すように睨みました。

「ラウリィ様、貴女はヒジリ様の従者です。お忘れではありませんね?」
「は、はい」
「でしたら覚悟を決めてください。ヒジリ様は、本気を出せば覇道を歩むことだって可能な方です」
「は、覇道?」

 ラウリィ様の表情が強張りました。
 それはもっともなことです。
 ヒジリ様にはそれだけの実力があり、それだけのものを隠しているのですから。

「ヒジリ様は争いを好みません。その上、誰かを巻き込むこともよしとしません。故にいつも一人を選ぶのです」

 そう思うのは、私自身が置かれたから。
 ヒジリ様はいつ、いかなる時、切り取った一瞬のうちにでも姿を消してしまわれる。
 一度でも見逃せばすぐにその姿を追い掛ける事は不可能になり、重苦しい日々が訪れる。

「私は、そんなヒジリ様を見ていて耐え難いんです」
「クーリエさん?」
「ヒジリ様はいつもいつもいつもいつもいつも、私を置いていってしまう。それは私を危険な目に遭わせないように必死な証拠なんですよ。その優しさがとても温かく、故に痛々しい。私は胸が苦しくなるんです」

 私は気持ちを吐露してしまいます。
 その瞬間、不意に涙が溢れそうになりました。
 情けない。そう思われても仕方ありますんが、これが真実です。

「クーリエさん!
「ですので、私は放っては置けないんです。これからもこう言ったことが起こるかもしれません。それをこの瞬間をもってして、腑抜けてしまうなんて言語道断。貴女にはヒジリ様の従者は相応しくございません」
「うっ」

 私はラウリィ様にはっきりと申し付けました。
 するとラウリィ様は苦しい表情を浮かべます。
 胸を押さえ、正直な気持ちで一杯になりました。

「あの程度の死を乗り越えられないでどうすんです?」
「あの程度なんて、私はクーリエさんじゃ無いです」
「それは承知の上です。ですが、従者が何よりも先に体調を崩し、その場を離れ、主人を置いていくなど言語道断。そうは思いませんか?」
「そ、それは……」

 ラウリィ様は自責の念に押し潰されそうでした。
 グッと胸が苦しくなり、今にも崩れて無くなりそう。
 しかし私は助け舟を出す事はなく、むしろ生ぬるく思いました。

「それでもまだヒジリ様の従者を名乗るようであれば、自分がなにをするべきか分かるはずです」
「私がするべきこと……クーリエさん!」

 私はそう言い残すと、ラウリィ様を置いて行く。
 森の中に再び消え、ヒジリ様の援護に向かう。
 もちろん必要がない事は承知していました。
 ですが、私はいてもたってもいられません。

「怖いのなら、今すぐ従者を辞めてここから去ってください。ここはもう、貴女を救ってくれる森じゃありませんから」

 私はそう言い残すと、すぐなでも離れようとしました。
 しかし私の言葉が鋭かったせいか、ラウリィ様は苦渋を舐めながら、ゆっくりと立ち上がります。

「……待ってください!」
「まだ立ち上がるんですか?」

 往生際が悪い人です。
 私は睨み付けると、そこには泣き虫のラウリィ様がいました。
 しかし手には剣があり、何処か様子が違います。

「確かに私はヒジリさんの従者には相応しく無いかもしれません。でも、だけど、私は私なりのやり方で、ヒジリさんの従者をやり遂げます。それが、今ここに私がいる理由です!」

 何ともカッコ付けた言葉回しでしょうか。
 私は興醒めしてしまい、頭が痛くなります。
 しかしそれだけの想いがあると分かり、私は剣を突き付けました。

「では、その手に握った剣で未来を掴んでください。いいですね」
「は、はい!」

 私はヒジリ様の専属メイドを語る上で、従者も厳しく選定し、洗練し、自覚させる必要があります。
 ですがその前段階にはラウリィ様は到達できた様子です。
 これ以上追い詰める必要はない。後は実戦で磨かせるべし。
 私はそう踏み切ると、ヒジリ様の必要のない援護に向かう事にしました。
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