かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
34 / 45

34話 気持ち良くない勝利

しおりを挟む
 ミッシング・タイガーの鋭い牙が襲い来る。
 しかし俺は動じない。
 むしろ、種が明かされた今、ミッシング・タイガーは敵ではなかった。

「ガォォォォォン!」
「はい、はい、ありがとう。じゃあ、終わらせようか!」

 俺は振り上げた剣を素早く叩き込む。
 その速度はミッシング・タイガーの攻撃よりも断然速い。
 そのおかげか、ミッシング・タイガーの牙を俺の剣が先に捉え、力ではなく、技としてへし折る。

「ガォラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 大絶叫を上げるミッシング・タイガー。
 突然の痛みに混乱し、攻撃を忘れて地面を転がる。
 全身が土まみれになることも気にせずで、俺は無防備な背中に追撃を加えた。

「今度はそこだ!」

 剣の切っ先が鋭くいたましく突き刺さる。
 血飛沫が飛び、俺の顔を真っ赤に汚す。
 香る独特な臭いに、俺は鼻を押さえた。

「うえっ、気持ち悪い」

 これは早急に仕留めるしかない。
 容赦の欠片も捨てた俺は、弱るミッシング・タイガー相手に、剣を振り下ろした。

「ガオッ!」
「う、嘘だ!」

 するとミッシング・タイガーは渾身の力で剣を噛む。完全に抑え込まれに掛かられた。
 俺は困惑し、動揺してしまう。
 しかしそれならばと、剣を捻って対策した。
 つもりだったが、如何も上手く決まらない。

「このっ、離せ!」
「ガォラァ!」
「もう、そうするなら俺だって許さないぞ!」

 俺は全く離してくれる余地がないので、ミッシング・タイガーに触れる。
 固有魔法を流し込むのだ。

「【固有魔法】:付与弱化(体)局所・顎!」

 俺がそう言うと、全身から魔力が溢れる。
 体の中から抜けていく感覚がすると、ミッシング・タイガーに異変が起きる。
 何だか口が寂しそうで、プルプルと顎が震えだす。
 俺の魔法で噛む力を極端に下げたせいか、剣をついつい離してしまいそうだった。

「からの、こうだ!」

 しかし俺は油断はしない。
 逆手に剣を握り持つと、真下に向かって切り落とした。

「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 ミッシング・タイガーはあまりの痛みに絶叫する。
 目からは涙を流すどころか、乾き切ってしまっていた。

 俺は容赦ない攻撃をした。
 ミッシング・タイガーの下顎を切り飛ばしたのだ。
 大量の鮮血が流れると、ミッシング・タイガーが死ぬまでは早かった。

 完全に即死の域で、ミッシング・タイガーは倒れ込む。
 そのまま小刻みにしばし動いていたが、もう動かなくなっていた。
 あまりにも呆気ない終わり方に、俺は自分でやったことながら、悍ましくて見てられない。

「うえっ、ぐへっ!」

 直視できずに視線を避ける。
 口元を抑えるが、気持ち悪くて吐瀉物を出そうとする。

「だ、ダメだ。これは俺がやったんだから」

 しかし俺は失礼だと思った。
 首を横に振り、自分自身を鼓舞すると、ミッシング・タイガーを睨む。倒れ、動かず、鮮血で汚していた。

「これだけ大きくて強いモンスターだ。きっとあるはず」

 俺はミッシング・タイガーの体にナイフを当てる。
 そのまま優しく沿わせながら切ってみると、中に腕を突っ込む。
 これだけの強さを誇るモンスターなら必ずある。
 そう思ったのだが、如何やら当たりらしい。

「やっぱり……」

 俺の手が硬い何かに触れる。
 神妙な表情を浮かべると、慎重に取り出す。
 それは綺麗な宝石のようなもので、とんでもない魔力を内包していた。

「とりあえず回収するとして……ここは離れよう。血の臭いが強すぎる」

 俺は回収するものを回収し終え、急いでこの場を離れることにした。
 血が飛び交い、充満した死の臭いが俺を誘う。
 それだけじゃ無い。餌にありつこうとモンスターも寄って来る。災が招かれる前に離れると、俺はその場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...